第六話 強力な伝手
美少女の容姿をした魔王の信頼を得る為、先代魔王の力を借りる事にした。
「サッ、サムゼル様、お邪魔します!」
「久しいな。ニコル」
「僕と一緒に、直ぐに来てくれませんか?」
「珍しく慌てておるな。何事だ?」
「サムゼル様の次代の魔王様が、僕の村近くに来たんですよ!」
「ニコルの村へか。何という偶然。笑えるぞ!」
「笑い事じゃないです。ハッキリ言って、迷惑です!」
「ぬっ! それを面と向かって、我に言うか?!」
「すみません。でも、ダンジョンができてしまうと、《のんびり生活》ができなくなるんです」
「かつてこの土地も、領主や国が押し掛けて来たからな」
「だからその前に、魔素の塊を僕に回収させて貰えるよう、一緒に説得して下さい!」
「ニコルがあれを、所有するのか?」
「そうです」
「うーむ」
「サムゼル様?」
「ニコルの事は、信用してるのだが・・・」
この時、断られそうな気がした。
「今度、新作のケーキを持って来ますから」
「何っ、新作か?!」
「新作です」
「それでは、行くとするか!」
サムゼル様は、意外とチョロかった。
「ありがとうございます」
早速サムゼル様を伴い、(見た目)美少女魔王の元へ《転移》した。
◇
『『シュタッ!』』
僕とサムゼル様は、《結界》の中に着地した。
「ゼルリル、元気にしてたか?」
「パパ上っ!」
「《ダンジョンコア》作りに、手こずってるようだな?」
「流石に妾でも、これだけの魔素を媒体にするのは、骨が折れるのじゃ!」
「それなら、ここにいるニコルに託すと良い」
「パパ上は、この人間と知り合いなのか?」
「そうだ。今となっては、《友》と言っても良い。ここにこうして来たのが、その証拠」
「パパ上の友達」
「ニコルは、信用できる人間だ。その魔素の塊を託しても、悪用などせん。ゼルリルも、この場所に縛られなくて済むぞ」
「それは、ありがたいのじゃ」
「託してみるか?」
「うむ」
そう言うと、(見た目)美少女魔王ゼルリル様は、僕に視線を向けた。
「ニコルとやらよ」
「はい」
「お主にこれを託したとして、悪用は決してしないな?!」
「はい。お約束します」
『ジーーーーー!』
ゼルリル様は、《魔眼》で僕を視ているようだ。
「分かったのじゃ。二人の言う事を、信じるのじゃ!」
「おお、そうか」
「ありがとうございます」
「持って行くが良い!」
「はい!」
◇
魔素の漂うこの空間に、何故か魔物はいなかった。
『これも、魔王の力によるものだろうか?』
そんな事を考えながら、口に《酸素吸入》の魔道具を咥えた。
そして、《結界》を出て魔素の塊に近付いた。
『《亜空間収納》』
右手の掌を魔素の塊に向け念じると、魔方陣が現れた。
『《収納》』
続けて念じると、魔素の塊は大きさを無視して、魔方陣に吸い込まれていった。
「お主、何とも無いのかえ?」
声を発する事ができないので、頷いた。
「魔素の影響で、喋れぬのじゃな。それなら、こうするのじゃ!」
ゼルリル様が、右手の掌を胸の前で上向きに広げた。
すると、掌の上で竜巻が発生し、次第に掌に漆黒の球体が形作られた。
大穴中の魔素を、集めているようだ。
竜巻が止むと、掌には直径三十センチ程の漆黒の球体ができ上がった。
「ついでじゃから、コアにしてしまうのじゃ。《クリエイト ダンジョンコア》!」
数十秒後、漆黒の球体が虹色の球体に変わった。
「お次は、これじゃ。《クリエイト ダンジョン》!」
ゼルリル様は間髪入れず、ダンジョンコアを媒介にしてダンジョンを造り始めてしまった。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・』
周辺の地形が次第に変わり、地響きが起こった。
◇
ダンジョン造りは、三十分程で完了した。
「どうじゃ。これで人間にも、呼吸ができるのじゃ!」
僕はそれを聞いて、《酸素吸入》の魔道具を口から外した。
その時、《危機感知》スキルは働かなかった。
『スー!』
そして、息を吸ってみた。
「大丈夫ですね」
「そうじゃろう。ここはもう、《ダンジョンコアルーム》になったのじゃ。空気もしっかり、コントロールされておる」
虹色のダンジョンコアは台座に飾られ、回りには《結界》が張られていた。
「頭上は、ダンジョンなんですね?」
「ダンジョンコアの魔素保有量が少ないから、地下五階の小規模ダンジョンにしたのじゃ。魔物を狩り続ければ、長くは持つまい」
「そうですか」
「何じゃお主。困った顔をして?」
ダンジョンが、災いの火種になりそうな気がした。
「いえ。何でもありません」
ゼルリル様は、良かれと思って造ったに違いない。
それに対して、僕は何も言えなかった。
「そうか。ならば、妾は気にせぬぞ」
「はい」
「このダンジョンは、妾がいなくとも心配無い。既に安定しておる。ニコルのお陰で、妾は自由の身じゃ。んーーー!」
ゼルリル様は、両腕を上げ背伸びをした。
「ゼルリルよ。父の所へ来ぬか?」
「パパ上の所へか? それもいいのじゃ!」
「ニコルは、どうする?」
「暫くは、地上の後始末をしないと」
「そうか。落ち着いたら、来ると良い。《土産》を忘れずにな」
「分かりました」
僕が返事をすると、二人の魔王は消えていった。
「何も起こらないと、いいんだけどなー」
不安に思いながら、魔物の死骸を回収しに地上へ《転移》した。




