第五話 魔王との交渉
魔物の亡き骸を飛び越え、直径三十メートルはある大穴の淵に近付いた。
そこには《結界》で蓋をされ、外に出たくても出られない魔物が見てとれた。
「相手は魔王だ。念の為、最強装備で行こう」
僕は直ぐ様、《オリハルコン》装備を身に付けた。
「よしっ!」
『危険・危険・危険・危険・・・・・』
「うっ、何だ?」
気合いを入れ穴に飛び込もうとすると、《危機感知》スキルが働いた。
それも、強力なやつである。
「この装備でも、穴に飛び込むのは危険なのか?」
『漆黒の球体? 魔王? 魔物?』
意識を集中しその原因を探ると、直近の原因はどれも違っていた。
「何だっていうんだ? 《鑑定》」
大穴を《鑑定》してみて、その原因が分かった。
「プラーク街のダンジョンで、懸念してたのをすっかり忘れていた。魔素が濃いせいで、酸素濃度が低くなっている。《酸欠》を起こすところだった」
《状態異常耐性》のアイテムで魔素に含む毒素を消せても、空気は作り出せない。
空気が薄ければ、流石に長くは持たないだろう。
「そうだ。対策を用意してあったんだ!」
《亜空間収納》から、以前作った《酸素吸入》の魔道具を取り出し口に咥えた。
すると、《危機感知》スキルが大幅に和らいだ。
『良し。今度こそ大丈夫だ!』
頭の中でそう呟くと、大穴へ飛び込んだ。
◇
飛び込むと同時に、《飛行属性魔法》を使った。
「「「「「「「「「「ギャギャギャーーー!!!」」」」」」」」」」
壁に張り付いてる魔物や空中を飛んでる魔物が、僕の姿を見て襲い掛かって来た。
『《立体防御壁》』
『『『『『『『『『『ドスッ!』』』』』』』』』』
魔物は《防御壁》にぶち当たり、落下していった。
「「「「「「「「「「ギャギャギャーーー!!!」」」」」」」」」」
今度は、《防御壁》に飛び乗る魔物が現れた。
『《高速回転》』
僕はそれに対し、《防御壁》を回転させ振り落とした。
そしてそのまま、底を目指し降下した。
『流石に、下の方は暗いな。《暗視》』
外の明かりが届かなくなり、暗闇でも目が見える《闇属性魔法》を使った。
『それにしても、どこまで続くんだ?』
穴は、想像以上に深かった。
『掘った土は、いったい何処へ行ったのやら?』
どうでもいい事を、考え始めた。
『魔王がする事だから、何でもありだな』
そして、勝手に納得した。
◇
大穴を降下する事約五キロ、ようやく底に辿り着いた。
そこには空間が広がり、直径十メートル程の漆黒の球体に美少女?が両手を翳していた。
しかし、その美少女?こそ魔王であると、直ぐに気付いた。
「おわっ! なぜ人間が、こんな所におるのじゃ?」
口に《酸素吸入》の魔道具を咥えているので、答える事ができない。
「妾を、討伐に来たのかえ?」
僕は慌てて、首を横に振った。
「どうやら、嘘ではないようじゃな。この《魔眼》で、嘘は分かるのじゃ。じゃが、妾は今忙しい。邪魔立てするでないぞ!」
僕はその言葉に、一応頷いた。
『《結界》』
『《空気錬成》』
『ポワーン』
話せないと用件を伝えられないので、僕の回りに《結界》を張り、魔素が混ざった空気を通常の状態に変えた。
そして、口に咥えていた魔道具を外した。
「魔王様。提案が御座います!」
「邪魔をするなと、言ったのじゃ!」
「その魔素の塊、私が何とか致しましょう」
「何を言うておる! 人間ごときに、扱える代物ではない!」
「私の固有スキル《亜空間収納》なら、それをしまう事ができます」
「固有スキルとな? 妾の《アイテムボックス》に収まらぬ物が、お主には可能と申すか?」
「はい!」
「大した自信なのじゃ。どれ、お主の《亜空間収納》とやらの性能を、視てやるのじゃ」
『ジーーー!』
美少女魔王は、僕を睨み付けた。
「驚いた。本当なのじゃ!」
「では」
「駄目じゃ!」
「えっ!」
「お主の魂胆が、分からぬ。この塊は、国を滅ぼす事も可能なのじゃ!」
「うっ!」
「これは、一個人に持たせて良い物ではないのじゃ」
御尤もな、話しである。
これはもう、僕が何を言っても駄目な気がした。
「そうだ!」
突然、閃いた。
「少しの間、この場を離れます」
そう言い残すと、僕はプラーク街のダンジョンに《転移》した。




