第三話 魔王襲来までの日々
四月になり、僕は十八歳になった。
身長は百八十三センチになり、去年より若干伸びている。
まあそんな事はどうでもよくて、僕の生活は先月の引っ越し以降、孤児院中心になってしまった。
午前中は絵本を読み聞かせたり、文字の勉強を始めた。
今は年長組に文字書きの自習をさせながら、年少組に文字の読みを教えている。
「昨日の復習をするぞ。これは、何て読む?」
文字を書いたボードを掲げて、子供達に質問した。
ちなみに、裏には正解の絵が書いてある。
「「「「「てー!」」」」」
「正解。それじゃ、これは?」
「「「「「みみー!」」」」」
「正解。それじゃ、これは?」
「「「「「あしー!」」」」」
「正解。それじゃ、これは?」
「「「「「しっぽー!」」」」」
「正解。それじゃ、次は新しい文字だ」
「「「「「???」」」」」
「ニコルせんせー、なんてよむのー?」
「これは、『にくきゅう』って読むんだ」
「にくきゅう?」
「これの事だ」
近くにいたシロンを捕まえて、前足の裏を見せた。
「このピンク色のプニプニが、にくきゅうだ」
「にくきゅう。にくきゅう」
正解を教えてやると、一人の幼児がそっと手を伸ばし、シロンの肉球をつついた。
「ニャニャニャー(止めろー)!!」
シロンは肉球を触られるのを嫌がり、前足を振りほどいて逃げた。
「みんな。シロンは肉球を触られるのが、苦手なんだ。動物や人に、嫌がる事をしちゃ駄目だぞ」
「「「「「わかったー!」」」」」
こうやって、時には道徳も教えている。
◇
今日のお昼は、パンケーキをご馳走した。
「あまあまー!」
「うまうまー!」
「ふわふわー!」
最近午後から村の女性達が来て、夕食や翌日の朝食の仕込みを手伝ってくれるようになった。
その中にはミーリアもいて、いつの間にかココと仲良くなっていた。
ミーリアが子供達の為に、服を作ってくれたのが切欠だそうだ。
「ミーリアちゃんとニコルさんって仲がいいけど、どういう関係なの?」
ココは、勇気を振り絞って聞いた。
「えーとねー、将来《結婚》するんだー!」
『ガーーン!!』
「そっ、そうなんだ」
ココはミーリアのその言葉に、ショックを受けた。
「ココちゃんにも、いい人できるよ。可愛いもん」
「ありがとう」
ココの目には、うっすらと涙が浮かんだ。
エシャット村には、こんな平和な日常が過ぎていった。
◇
月日は過ぎ《魔王襲来》前夜、太陽暦三千六百六十六年六月五日を迎えた。
既に村全体に《結界》を張り、準備は整えている。
明日が《魔王襲来》の日だという事は、村人達にも伝えてある。
『当日は合図があるまで、家で待機してるように』と、指示もしている。
そしてその日の夕食後、僕は父さんの部屋に呼ばれた。
「ニコル。明日は、本当に大丈夫なんだろうか?」
「大陸は広いんだよ。魔王がこの村を襲う確率は、低いよ」
「もしもって事も、あるだろ」
「魔王の最初の目的は《ダンジョン》を作る事らしいし、魔物なら《結界》で防げる。もしもの時は、計画通り《亜空間ゲート》で、《プラーク街》に逃げればいいよ」
こんな時の為に、《警鐘》を用意した。
「それは分かっているが、そんな上手くいくものだろうか?」
「大丈夫。みんなが逃げるまで、僕が守るよ。父さんが思ってる以上に強いから。ダンジョンボスでも楽勝って、言ったよね」
「それはそうだが、相手は《魔王》だからな」
「流石に、《魔王》に勝てる気はしないけどね」
「ニコルゥー。死なないでくれよー」
父さんは、情けない声を発した。
『魔王が、人を襲う事は無い』と教えてやりたいが、それはそれで説明が面倒なので教えてない。
この日の僕は、翌朝に備え早い時間に寝てしまった。
◇
六月六日《魔王襲来》の朝、夜明け前に起きた。
「シロン。ご飯、置いてくぞ」
「ご主人、頑張ってニャ。シロンは、まだ眠いニャ」
「ゆっくり寝てていいからな」
「ムニャ」
厩舎へ行くと、シャルロッテも寝ていた。
起こさないよう食事の用意をして、厩舎を出た。
「さあ、いよいよだ!」
これから起こる事態に、僕は気合を入れた。
《魔王ゲート》が開き始める時間は、午前六時六分六秒である。
それから、六分間開くらしい。
この情報は、《検索ツール》で得ていた。
この世界にも時計はあるが、針が《時針》だけなので分秒の単位は曖昧にしか認識されてないと思う。
それに、時計は高価な魔道具なので、あまり一般的に流通してない。
残念ながら、エシャット村にも無かった。
必要に駆られれば、その内作ろうと思っている。
僕の場合《検索ツール》に《時計》機能があるので、いつでも時間が分かった。
「後、一時間半か」
現在、午前四時三十二分である。
空を見上げると、東の空が白んでいる。
もうじき、夜が明ける。
「「「「「「「「ワン!」」」」」」」」
空を見ていると、ワン太達が勢揃いしていた。
「今日は、見張りを頼んだぞ。結界の外に出る必要は、無いからな」
「「「「「「「「ワン!」」」」」」」」
ワン太達に、魔物を相手にする戦闘力は備わって無い。
精々、猪の相手をできるくらいだ。
そうこうしてる内に、狩猟班の人達も集まって来た。
万が一の時の避難誘導を、お願いしている。
「よー、ニコル」
「皆さん。お早うございます」
「魔王って、本当に来るのか?」
「もうじき、分かりますよ」
「そりゃそうだ」
この後、避難誘導の再確認をし時間は過ぎた。
そして、《魔王ゲート》が開く時間を迎えた。
お読みいただき、ありがとうございます。
ただいま、《ストック》が切れております。
今後、《不定期投稿》になりそうです。
その時は、ご了承ください。




