第二話 魔王襲来の注意喚起
引っ越し二日目、孤児院へ行くと子供達が遊んでいた。
そこには、《先住》村の子供達も混ざっていた。
僕の家に来ないと思ったら、やっぱりここにいた。
「みんな、お早う」
「「「「「「「「「「おはよう!」」」」」」」」」」
子供達は、朝から元気である。
昨日に引き続き、かくれんぼや鬼ごっこ、そしてボール遊びをしている。
「ふむ。大勢いるし、遊具でも作るか」
小さい子向けに、前世の公園に設置されている遊具が頭に浮かんだ。
庭の端で錬金術を駆使しジャングルジム・滑り台・ブランコ・シーソーを作っていると、子供達が集まって来た。
「これ、なーにー?」
「遊ぶ為の物だよ」
「どうやってー?」
「こうするんだ」
僕は一つ一つ、遊び方を教えてやった。
「「「「「「「「「「わー!」」」」」」」」」」
すると、幼児達が次々と遊具に群がった。
一方年長組は、幼児の為に遠慮していた。
「順番に遊ぶんだぞ。怪我するなよ」
「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」
続け様年長組にも、ミニサッカー用のゴールポストとボールを作ってやった。
「二コルにーちゃん。これ、何だ?」
それを見ていた《先住》村の子供が、聞いてきた。
「これはな二つのグループに分かれて、ボールを足で蹴って相手のこのゴールに入れるゲームだ」
僕はゴールポストを叩きながら、説明した。
「面白そうだな。教えてくれよ!」
「おう、いいぞ」
すると、集まって来た年長の子達にルールを説明し、一緒に遊ぶ事になった。
今日は遊びを教えたが、その内勉強も教えるつもりだ。
◇
昼には僕が用意したコッペパンに、ピーナッツバターやオレンジジャムを塗って食べた。
一日三食にするには、ココ達の負担が大きい。
今は簡単な物を、僕が振る舞うだけに留めている。
昼食後は、孤児院の裏に作った大きな畑を見て回った。
まだ種を蒔いたばかりで、芽がやっと出始めたところだ。
その内、子供達に管理させようと思っている。
「ワン! ワン! ワン! ワン!」
「ワン太、どうした?」
魔法で畑に水を撒いていると、ワン太が吠えながらやって来た。
「ワン!」
一鳴きすると、後ろを振り向いた。
すると、フタバとサンタが馬を先導し現れた。
その馬には、兵士らしき人が乗っている。
そのまま、僕の方へ近付いて来た。
「「ワン!」」
フタバとサンタが吠えて、尻尾を振っている。
『お客さんを、連れて来たよー』とでも、言いたいのだろう。
僕の回りに集まった三匹を撫でながら、ご褒美に《魔力供給》をしてやった。
「お前が、犬達の主か?」
「そうです」
「こいつらは、犬なのか?」
「そうですよ。珍しい種類だったんですかね?」
犬らしく作ったつもりだが、やはり違和感があるらしい。
「まあいい。ところで、村長に会いたいのだが」
「僕の父が、村長ですけど」
「おお、そうか。丁度良かった。案内してくれないか? 私は領主様の使いだ。名は、ハッサンと言う」
「領主様のお使いの方でしたか。僕はニコルと言います。案内するので、着いて来て下さい」
「すまんな」
僕はこの使者を、実家の父さんの所へ案内した。
◇
使者を待たせてスーパーに入ると、ロッシがいた。
「ロッシ。領主様の使者の方が、いらっしゃった。父さんを、呼んで来てくれないか?」
「うん、いいよ」
父さんを待つ間、使者のところへ戻った。
「随分立派な店が、あるのだな」
「村で、唯一の店です」
「隣街で、店も無い廃れた村だと聞いていたのだがな」
「できたのは、数年前ですから」
「先程君がいた建物や途中で見た民家も立派だし、道も整備されている。噂など、当てにならんな」
「そうですね」
『僕の錬金術で、作りました』なんて言えないので、素直に肯定した。
すると、そこへ父さんが現れた。
「お待たせしました。村長のジーンです」
「私は、ハッサンだ。領主様のご命令で、街や村を回っている」
「どんなご用件でしょうか?」
「今年の《魔王襲来》は、知っているな?」
「まっ、《魔王襲来》?!」
「何だ。知らんのか?」
「お伽噺かと」
「文献にちゃんと残ってるぞ。『魔王は六十六の年の六月六日、夜明けから数刻後空から現れ、魔物を撒き散らしながら空を駆け、地中深く潜りダンジョンを作り出す』と。私はその《注意喚起》に来た」
「そんな・・・」
「《魔王》が来てしまってどうしようもないが、せめてさまよう魔物の対策はしておくんだな」
「そうは言われましても、どうしていいのやら」
「やはりこの小さな村では、戦力は期待できないか?」
「ダンジョン探索者なら、十五・六人いますが」
「おお、思ったよりいるな。ランクはどうだ?」
「たしか、全員《Gランク》かと」
「それでは、心許ないな。もし、魔物が襲って来るようであれば、私達兵士が来るまで充分な食料を用意し、家でじっとしている事だな」
「分かりました」
その後幾つか質問をすると、使者は村の状況を紙に書き留め去って行った。
◇
「《魔王襲来》まで、三ヶ月しかない。どうすればいいんだ?」
「父さん。心配しなくても、大丈夫だよ」
「何を言ってるんだ。相手は魔王だぞ!」
「うーん。説明は難しいけど、僕に任せてよ。取り敢えず、当日は村全体に《結界》を張るから」
「むっ、むっ、村全体?!」
魔王が自ら人を襲わない事は、知っている。
魔物さえ何とかすれば、村に被害が及ぶ事は無い。
第一この広い大陸の、どこに魔王が現れるか分からない。
軽々しく考えるのは良くないが、僕がいれば何とかしてみせる。
僕はこの後、心配する父さんを安心させる為説得した。




