第五十五話 ユミナの告白①
王国学園は十五歳を迎える年の一月に入学し、三年間で卒業する。
ユミナはこの度三年間の修業を終え、十二月十二日に卒業を迎える事になった。
僕達は卒業三日目の朝、エシャット村を旅立った。
孤児院はまだ建設中だが、この件が落ち着いてから再開するつもりだ。
「ご主人。ミーリアに反対されなくて、良かったニャ」
「ヒヒーン、ヒヒーン『ミーリアちゃん、健気です』!」
「ミーリアに、感謝だ。あそこで泣かれたら、ユミナに謝るしかなかった」
「ユミナを手放さずに済んで、嬉しいニャ?」
「何か、引っ掛かる言い方だな」
「素直にハーレムを、認めないからニャ」
「まだ、二人だろ。それに、結婚はまだ先の話しだ」
普段の僕が、ユミナの思い描く僕と掛け離れてるかもしれない。
それにエシャット村での生活が、合わないかもしれない。
そして何より、ミーリアと仲良くやっていけるか、見極める必要があった。
「ユミナの出発は一月って言ってたけど、それまで何するニャ?」
今回のグルジット邸への訪問は、ユミナのスケジュールを確認する為だった。
「どうするか?」
「待つの面倒ニャ」
「ユミナは、貴族だからな。卒業祝いとか年末年始の行事とか、あるんじゃないか?」
「ヒヒーン、ヒヒーン『それまで、ご主人様と一緒にいられますね』!」
「そうだな」
しかし王都はこの時期寒いので、旅には向いてなかった。
◇
その日の午後、いよいよグルジット邸を訪れる時が来た。
「それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃいニャ」
『行ってらっしゃいませ』
今回は打ち合わせだけなので、シロンとシャルロッテには待機して貰った。
一月にユミナを迎えに行く時は、馬車を出すつもりでいる。
僕は《亜空間農場》のゲートをグルジット邸の近くに開き、そのまま歩いて訪問した。
グルジット邸を訪れ応接室で待っていると、ユミナと伯爵婦人が現れた。
「お久しぶりです」
僕は立ち上がり、二人に挨拶した。
「お久しぶりね。ニコル君」
伯爵夫人が挨拶を返すも、ユミナは黙っていた。
そして、二人共浮かない顔をしている。
二人はそのまま、ソファーの前まで来た。
「ニコル君、ごめんなさい」
ユミナは、目に涙を浮かべながら言った。
「ユミナ。どうして、謝るんだ?」
「《結婚の話し》を、無かった事にして下さい」
ユミナはかぼそい声で、目に溜めていた涙を零しながら言った。
「えっ!」
「ごめんなさい!」
「いったい、何があったんだ?」
「ううっ!」
ユミナを問い質すと、両手で顔を覆い更に泣いてしまった。
僕はその姿に、オロオロしてしまった。
「ニコル君」
そんな僕に、伯爵婦人が話し掛けてきた。
「はい、何でしょう?」
「ユミナちゃんがこういう状況だから、私から説明するわ」
「お願いします」
「立ったままだと何だから、座りましょ」
「はい」
伯爵夫人はユミナの方を抱き、ソファーに座らせた。
僕もそれに習い、座った。
「実は一週間前、私達に《断れない縁談》の話しが来たの」
『今までは断ってたのに、今回は断れない相手?』僕はその相手を、推測した。
「もしかして、《王族》の方ですか?」
「そう。この国の《王太子殿》よ」
「次期国王様ですか」
僕の予想は、当たった。
「殿下には、既に婦人が二人いるわ。ユミナちゃんを、第三婦人として迎え入れるそうよ」
「そうですか」
「返事は正式にしてないのだけど、グルジット伯爵家の存亡に関わるわ」
伯爵婦人はハッキリと言わないが、ユミナが《未来視》スキルで何かを見たのかもしれない。
「断れば、王家との間に《禍根》を残すのですね」
「そういう事です」
『ユミナを連れ去る事は可能だが、残された人達に迷惑を掛けてしまう』
『それではユミナに、後ろめたさが残るだろう』
『ユミナは自分の思いを捨て、グルジット家を守る事を選んだ』
『こんな時、僕はユミナに何をしてやれる? 誰か教えてくれ!』
僕は心の中で、自問自答した。
◇
「お母様」
「なあに、ユミナちゃん」
「ニコル君と、二人きりにさせて下さい」
「いいわよ。しっかりね」
「はい」
「ニコル君。ユミナちゃんを、頼んだわよ」
「はい」
伯爵婦人はユミナの願いを叶え、応接室を退出した。
ユミナはハンカチで涙を拭い、顔を上げ話し始めた。
「ニコル君。突然こんな事になって、ごめんなさい」
「何度も謝らなくていいよ。一番辛いのは、ユミナなんだから」
「理由をちゃんと、話します」
「うん。聞くよ」
どうやら、涙は治まったようだ。
「私がこのままニコル君の元へ行った時の、未来を視てしまったんです」
「あまりいい未来じゃ、なかったんだね」
「はい。グルジット家が王家から冷遇に合い、殿下が国王になった時それが過激になります」
「僕が言うのも何だけど、ユミナはそんな人に嫁いで大丈夫なの?」
「貴族に《国家反逆》をさせない為の、見せしめです。王家として、威厳を保たないといけないのです。だから嫁ぎさえすれば、私もグルジット家も大丈夫だと思います」
「そうなんだ」
『皇太子殿下は悪逆非道とかでは、ないのだろうか? それなら、救われるが・・・・・』
そんな事を考えていると、ユミナの表情が少し強張った。
「ニコル君! 聞いて下さい!」
すると、ユミナが声を強張らせて言った。




