表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/401

第五十四話 ミーリアへの告白② 

ミーリアにユミナの事を打ち明けられないまま、日々が過ぎた。


その間、僕はもくもくと、孤児院の建設に取り掛かった。

過剰な能力を隠す為、自宅同様ある程度時間を掛けている。


今日は、そんな合間の休日である。

僕は厩舎で、シャルロッテのブラッシングをしていた。


「ハァー、あっという間に十二月だ。もういい加減、ミーリアに話さなきゃ」


「ご主人。ずっと、そればっかりニャ」


「ヒヒーン、ヒヒーン『ミーリアちゃん、可哀想』」


シャルロッテは、ユミナに会った事が無い。

そんな事もあり、普段割りと仲の良いミーリアに肩入れしている。


「ご主人、腹をくくるニャ」


「分かってるよ」


そうは言うものの、ミーリアの笑顔を見ると話せなくなるのである。



そんな時だった。


「ニコルちゃん。遊びに来たよ」


「いっ、いらっしゃい」


「ねえ、ニコルちゃん。最近変だよ。何か、悩んでる?」


『ギクッ!』


「あー、やっぱり悩んでるー!」


表面に出さないようにしていたが、ミーリアは違和感を感じたらしい。


「分かるのか?」


「私は将来のお嫁さんなんだよ。一人で悩んでないで、話して!」


「しかしな・・・」


将来のお嫁さんだからこそ、話せないのである。


僕はこの状況でも、尻込みしてしまった。



「ニャー!」


「シロン」


シロンは僕を前足でつつき、急かした。


「ニャー!」


「分かったよ」


僕は決意し、ミーリアに向き合った。


「これから話す事で、ミーリアを酷く傷付けるかもしれない。それでも、聞くかい?」


「それってもしかして、お嫁さん取り消しなの?」


「違う違う。ミーリアは、僕のお嫁さんだ」


「だったら、大丈夫。話して!」


「いいんだな」


「うん」


僕はこの時、浮気を自ら告白する亭主の気分になっていた。



「実は王都で出会った女の子から、真剣に結婚を申し込まれた」


実際はグルジット伯爵夫人のゴリ押しだけど、ユミナも認めているのでそういう事にした。


「えっ!!!」


ミーリアは僕の発言に、驚きを隠せなかった。

そして、暫しの沈黙の後、僕に問い掛けた。


「ニコルちゃんがモテルのはしょうがないけど、ニコルちゃんはその人の事、好きなの?」


ミーリアは怒るでもなく、落ち着いた口調で言った。


「好きか嫌いかで言ったら、好きだ」


「やっぱりそうだよね。悩むくらいだもん」


「ただお互いの事を、結婚を決意する程深く知らない。だから彼女を村に招待して、その機会を設けようと思う」


「エシャット村に、来るんだ」


僕はミーリアに、ユミナと出会ってからの事を説明した。



「ユミナさんは貴族のお嬢様だから、凄く綺麗なんでしょ?」


「そうだね」


「私の事、話したの?」


「話したよ」


「私、邪魔者扱いされないかな?」


「ユミナはミーリアと同じで優しいから、そんな事しない」


「そうなんだ」


「貴族との縁談を、断り続けてるらしい。もし僕が断れば、一生独身を通すかもしれない」


「ユミナさん。ニコルちゃんだけを、想ってるんだ」


「そうみたいだね」


「分かった。ニコルちゃんが決めたなら、私はそれでいい。それに、どんな人か会ってみたくなった」


「ありがとう。ミーリア」


ミーリアはユミナを拒否する事なく、素直に受け入れてくれた。



「それで、ユミナさんはいつ村に来るの?」


「学園を卒業して、来年の一月だよ」


「もう直ぐだね」


「もう少ししたら、迎えに行く」


《転移》を使うので当日行けばいいのだが、この能力は内緒にしている。


「ユミナさんが村に来たら、ニコルちゃんの家で過ごすの?」


「そっ、そうなるね」


村には宿が無いので、必然的にそうなる。


「ズルイッ!」


「えっ!」


「私も一緒に住む!」


「何を言ってるんだ?」


「ニコルちゃんとユミナさんを、一つ屋根の下で二人きりにさせたくない!」


将来のお嫁さんとしては、当然の意見だ。


しかし、迎えに行く道中、二人きりになる事に気付いてない様子だ。

お付きの人がいると、思ってるのだろうか?


どちらにしても《転移》を使うので、二人きりの時間は長くない。


ここは突っ込まれる前に、言った方がいいだろう。


「しょうがない。ユミナがいる間だけだぞ」


「うん。それでいい」


僕はミーリアの要求を、受け入れた。



その日の夕食後、父さんと二人きりになり、ユミナとミーリアの事を話した。


「ニコル。まさかお前が、二股するとは!」


「父さん。その言い方、人聞きが悪いよ」


「しかも、相手は伯爵家のお嬢様。大丈夫なのか?」


「心配する気持ちは分かるけど、大丈夫」


「こればっかりは、ニコルを信じるしかないな」


「そういう事でまた村を離れるから、スーパーに卸す商品を渡しておくよ」


旅で仕入れた物と錬金術で作った日用品が入った魔法袋を、父さんに差し出した。


「いつも、すまないな」


「別にいいよ。それと、これが品目と数量。仕入れた物には、金額が記入してあるから」


そして、魔法袋の中身を纏めた書類を渡した。


「給料の値上げは、一月末になりそうだ。仕入れ品の値上げは、二月からだな」


「そう、分かった。その辺の事は、父さんに任せる」


数日後、母さんとミーリアの両親にも、この事を打ち明けた。

酷く驚かれたが、最終的に認めて貰えた。


そして十二月半ば、僕は再びエシャット村を旅立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ