第五十四話 ミーリアへの告白②
ミーリアにユミナの事を打ち明けられないまま、日々が過ぎた。
その間、僕はもくもくと、孤児院の建設に取り掛かった。
過剰な能力を隠す為、自宅同様ある程度時間を掛けている。
今日は、そんな合間の休日である。
僕は厩舎で、シャルロッテのブラッシングをしていた。
「ハァー、あっという間に十二月だ。もういい加減、ミーリアに話さなきゃ」
「ご主人。ずっと、そればっかりニャ」
「ヒヒーン、ヒヒーン『ミーリアちゃん、可哀想』」
シャルロッテは、ユミナに会った事が無い。
そんな事もあり、普段割りと仲の良いミーリアに肩入れしている。
「ご主人、腹をくくるニャ」
「分かってるよ」
そうは言うものの、ミーリアの笑顔を見ると話せなくなるのである。
そんな時だった。
「ニコルちゃん。遊びに来たよ」
「いっ、いらっしゃい」
「ねえ、ニコルちゃん。最近変だよ。何か、悩んでる?」
『ギクッ!』
「あー、やっぱり悩んでるー!」
表面に出さないようにしていたが、ミーリアは違和感を感じたらしい。
「分かるのか?」
「私は将来のお嫁さんなんだよ。一人で悩んでないで、話して!」
「しかしな・・・」
将来のお嫁さんだからこそ、話せないのである。
僕はこの状況でも、尻込みしてしまった。
「ニャー!」
「シロン」
シロンは僕を前足でつつき、急かした。
「ニャー!」
「分かったよ」
僕は決意し、ミーリアに向き合った。
「これから話す事で、ミーリアを酷く傷付けるかもしれない。それでも、聞くかい?」
「それってもしかして、お嫁さん取り消しなの?」
「違う違う。ミーリアは、僕のお嫁さんだ」
「だったら、大丈夫。話して!」
「いいんだな」
「うん」
僕はこの時、浮気を自ら告白する亭主の気分になっていた。
「実は王都で出会った女の子から、真剣に結婚を申し込まれた」
実際はグルジット伯爵夫人のゴリ押しだけど、ユミナも認めているのでそういう事にした。
「えっ!!!」
ミーリアは僕の発言に、驚きを隠せなかった。
そして、暫しの沈黙の後、僕に問い掛けた。
「ニコルちゃんがモテルのはしょうがないけど、ニコルちゃんはその人の事、好きなの?」
ミーリアは怒るでもなく、落ち着いた口調で言った。
「好きか嫌いかで言ったら、好きだ」
「やっぱりそうだよね。悩むくらいだもん」
「ただお互いの事を、結婚を決意する程深く知らない。だから彼女を村に招待して、その機会を設けようと思う」
「エシャット村に、来るんだ」
僕はミーリアに、ユミナと出会ってからの事を説明した。
◇
「ユミナさんは貴族のお嬢様だから、凄く綺麗なんでしょ?」
「そうだね」
「私の事、話したの?」
「話したよ」
「私、邪魔者扱いされないかな?」
「ユミナはミーリアと同じで優しいから、そんな事しない」
「そうなんだ」
「貴族との縁談を、断り続けてるらしい。もし僕が断れば、一生独身を通すかもしれない」
「ユミナさん。ニコルちゃんだけを、想ってるんだ」
「そうみたいだね」
「分かった。ニコルちゃんが決めたなら、私はそれでいい。それに、どんな人か会ってみたくなった」
「ありがとう。ミーリア」
ミーリアはユミナを拒否する事なく、素直に受け入れてくれた。
◇
「それで、ユミナさんはいつ村に来るの?」
「学園を卒業して、来年の一月だよ」
「もう直ぐだね」
「もう少ししたら、迎えに行く」
《転移》を使うので当日行けばいいのだが、この能力は内緒にしている。
「ユミナさんが村に来たら、ニコルちゃんの家で過ごすの?」
「そっ、そうなるね」
村には宿が無いので、必然的にそうなる。
「ズルイッ!」
「えっ!」
「私も一緒に住む!」
「何を言ってるんだ?」
「ニコルちゃんとユミナさんを、一つ屋根の下で二人きりにさせたくない!」
将来のお嫁さんとしては、当然の意見だ。
しかし、迎えに行く道中、二人きりになる事に気付いてない様子だ。
お付きの人がいると、思ってるのだろうか?
どちらにしても《転移》を使うので、二人きりの時間は長くない。
ここは突っ込まれる前に、言った方がいいだろう。
「しょうがない。ユミナがいる間だけだぞ」
「うん。それでいい」
僕はミーリアの要求を、受け入れた。
◇
その日の夕食後、父さんと二人きりになり、ユミナとミーリアの事を話した。
「ニコル。まさかお前が、二股するとは!」
「父さん。その言い方、人聞きが悪いよ」
「しかも、相手は伯爵家のお嬢様。大丈夫なのか?」
「心配する気持ちは分かるけど、大丈夫」
「こればっかりは、ニコルを信じるしかないな」
「そういう事でまた村を離れるから、スーパーに卸す商品を渡しておくよ」
旅で仕入れた物と錬金術で作った日用品が入った魔法袋を、父さんに差し出した。
「いつも、すまないな」
「別にいいよ。それと、これが品目と数量。仕入れた物には、金額が記入してあるから」
そして、魔法袋の中身を纏めた書類を渡した。
「給料の値上げは、一月末になりそうだ。仕入れ品の値上げは、二月からだな」
「そう、分かった。その辺の事は、父さんに任せる」
数日後、母さんとミーリアの両親にも、この事を打ち明けた。
酷く驚かれたが、最終的に認めて貰えた。
そして十二月半ば、僕は再びエシャット村を旅立った。




