第五十三話 ミーリアへの告白①
この世界の結婚年齢は、前世の日本に比べ断然早い。
十代後半で結婚する人も、ざらにいる。
僕は今十七歳だが、結婚は二十代半ばでいいと思っていた。
しかし、ユミナの事を真剣に考えると、結婚を意識しなければならなかった。
「ハァー。前世だったら、まだ高校生の歳なんだよな」
「ご主人。急に、どうしたニャ?」
「結婚を考えるには、まだ早いよ」
「ニャニー! 結婚!!!」
「おっと、口が滑った」
グルジット邸を訪問し、ユミナと結婚の話しになった事は伝えてなかった。
「だっ、だっ、誰とニャ?」
「誰とって、ミーリアとユミナ」
「うっ、うっ、うっ、遂に《ハーレム展開》が始まったニャ!」
「何言ってるんだ。ハーレムじゃ無いぞ!」
「これは、《序章》に過ぎないニャ!」
「否定するだけ、無駄だな」
「こうなったら、《人化》スキルを覚えるニャ!」
「えっ! そんな可能性を、秘めていたのか?」
「ラノベのテンプレニャ! きっと神様が、ご主人好みにしてくれるニャ!」
「何だ。シロンの妄想か」
この日から、シロンは毎日神様に祈るようになった。
「ところで、いつの間にそんな事になったニャ?」
仕方ないので、経緯をシロンに打ち明けた。
◇
「それは、断るべきニャ!」
さっきのハーレムを容認するような物言いと打って代わって、否定されてしまった。
「でもさ。縁談を断り続けて、僕の事を好いてくれてるんだぞ。真剣に答えないと」
「そんなの、ただの同情ニャ!」
『グサッ!』
「有名なフレーズがあるから、ご主人に送るニャ! 『そこに、愛はあるんか?』」
『グサッ!』
核心を突かれ、胸に刺さった。
「本当は綺麗な娘に言い寄られて、手放すのが勿体無くなっただけニャ!」
『カチーン!』
「それは、言い過ぎじゃないか?」
僕は少し、不貞腐れた物言いをした。
確かにユミナは綺麗だが、それだけじゃここまで悩まない。
「言い過ぎたニャ」
「分かってくれたか?」
シロンは、素直に謝ってくれた。
「それで、ミーリアに何て言うニャ?」
「それを、今悩んでる」
ミーリアは、今年十五歳になった。
成人を迎えているが、結婚の話しは早い気がする。
多感な年頃だし、傷付けたくはない。
「モテる男は、大変ニャ」
「そうだな」
前世なら、決して言えないセリフだった。
◇
服飾工房の休みの日、ミーリアの家を訪れた。
「ミーリア、お早う」
「おはよっ! 今ニコルちゃんのとこ、行こうと思ってたんだ」
「そうか。たまには、どこかに出掛けようか?」
「うん、いいよ。でも、どこに?」
「山で薬草を採るの、手伝ってくれないか?」
「うん!」
ミーリアを連れ出す事に、成功した。
馬車を走らせ、たわいのない話しをしながら山に到着した。
「随分、集まったな」
「そお? まだ、いっぱいあるよ」
「今日は、もう充分だ。お昼にしよう」
「うん。でも、何も用意してない」
「大丈夫。美味しいパンを、持って来た」
「やったー!」
「その前に、シャルロッテとシロンだ」
「うん」
シャルロッテとシロンに食事を与えると、大きな岩に座り魔法袋からサンドイッチとオレンジジュースを取り出した。
具材にハムチーズ・ポテトサラダ・タマゴ・フルーツが、それぞれサンドされている。
前者三つには、マヨネーズを調味料として使用している。
これは僕専用で、まだスーパーで販売されていなかった。
フルーツサンドには、特性生クリームをふんだんに使用している。
◇
「ニコルちゃん。全部、美味しかった。でも、フルーツサンドが一番好き!」
「そうか、女の子だもんな。・・・・・なあ、ミーリア」
「なあに?」
「将来、僕のお嫁さんに、なってくれないか?」
「えっ! お嫁さんに、してくれるの?」
「ミーリアさえ良ければ」
「嬉しいー!!!」
ミーリアは、勢い良く僕に抱き付いた。
僕はそれに応じ、優しく抱き返した。
すると、ミーリアの涙が、触れた頬を伝って感じられた。
きっと、涙が出るくらい嬉しいのだろう。
僕はその涙に、ユミナの事を伝える気持ちが揺らいだ。
この後も会話を交わしたが、結局この日は打ち明けられず家に帰る事になった。
◇
その日、実家で夕飯を食べた後、厩舎に寄った。
「ハァー、駄目だった」
「ご主人、情けないニャ」
「ヒヒーン『どうして』?」
シャルロッテは僕にも分かるように、馬語に《念話》を乗せシロン問い掛けた。
「ユミナの事、言えなかったニャ」
「ヒヒーン『ナニそれ』?」
シャルロッテも、今日のミーリアへの告白は見ていた。
しかし、ユミナとの事は知らなかった。
「聞きたいのかニャ?」
「ヒヒーン、ヒヒーン『聞きたい。シロン、教えて』!」
この後、シロンとシャルロッテの間で、女子トークが繰り広げられた。




