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第五十二話 孤児院建設の交渉

事件の日から一週間が過ぎ、十一月に入った。


それまでの間、子供達が落ち着くまで別荘で過ごした。

慣れない土地で迷子になったり、買い物をするのに不自由があったら困るからだ。


暇を見てエーテル街へ行ったが、代官の手下がうろついていた。

代官達には嫌がらせをしてやりたいところだが、顔を見られているので実行しなかった。


予定していた家畜の購入は、これから暫く忙しくなるので延期する事にした。



その日、お昼のおやつを食べ終えると、《亜空間ゲート》を通りエシャット村に帰った。


「ニコルちゃん。お帰りなさい」


母さんが孫のジーナを抱いて、《亜空間ゲート》の小屋の前であやしていた。

ジーナが生まれてからは、以前程僕にべたつかなくなった。


「ただいま、母さん。ジーナ、元気にしてまちたかー?」


ジーナに挨拶をするも、じっと僕を見つめリアクションを示さない。


「あらあら。ニコルちゃんの事、忘れたのかしら?」


それは、実に悲しい事である。

しかし、生後七ヶ月では仕方ない。


そんな考えはよそに、ジーナの視線は僕の後ろにいるシャルロッテに向けられた。


「バブー!」


ジーナは、シャルロッテを指差しながら叫んだ。


「あらあら。シャルちゃんに、興味があるのね」


母さんはシャルロッテの側へ行き、ジーナに触らせてやった。


「キャッキャ、キャッキャ!」


実に、楽しそうだ。


『ジー』


今度はシャルロッテの背に乗る、シロンに視線が向けられた。


「バブー!」


そしてジーナは、シロンに手を伸ばした。


「あらあら、今度はシロンちゃんなのね」


母さんはシロンに近付き、ジーナに触らせてやった。


「キャッキャ、キャッキャ!」


実に、楽しそうだ。


羨ましい。


「それじゃ、父さんの所に顔を出してくるね。シャルロッテとシロンは、ジーナの相手をしてくれ」


「ニコルちゃん。気を落とさないでね」


「大丈夫」


僕は若干落ち込みながら、父さんの所へ向かった。



父さんは、自分の仕事部屋にいた。


「父さん、ただいま」


「おお、ニコル帰ったか。今年も順調か?」


『仕入れの旅の途中色々有り過ぎて、果たして順調と言っていいのだろうか?』そんな事を、考えてしまった。


「何か、あったのか?」


黙って考えている僕に、父さんは何かを感じたようだ。


「まあね」


「何だか、聞くのが怖いな」


「うん。取り敢えず、これ受け取ってよ」


そう言って、魔法袋から大銀貨(一万マネー)が二百枚入った袋を十袋取り出した。

これには、僕の要求を通り易くする打算も入っている。


父さんは、袋の中身を見て驚いた。


「これはあれか、孤児の件が関係するのか?」


どうやら、サジ達から既に聞いてるようだ。



「関係無いと言ったら嘘になるけど、そのお金は村のみんなの給料を上げるのに使って欲しい」


「いいのか?」


「うん。その代わり、仕入れ品の値上げも頼むね」


「ああ、検討する」


「それで、孤児達の事だけど」


「この村に、連れて来るんだろ」


「うん。それで、孤児院を建てたいんだ」


「いったい、何人いるんだ?」


「孤児が三十六人と、院長のお爺さんが一人」


「随分、大人数だな」


「うん」


「それだと、《人頭税》や生活費が大変だな」


「《孤児認定の書類》があるんだ。十五歳未満は、《人頭税》を免除されるらしい」


これは最近、リンゼさんから見せて貰った。


「それはいいが、生活費はどうする?」


「僕が面倒見るよ。実際、二年間面倒見てきたし」


ただ今となっては、ダニエル商会との取引きが無くなったのが痛い。


「二年もか? 分かった。ニコルが面倒を見るなら、いいだろう」


「ありがとう。父さん」


予想はしていたが、父さんは孤児達を受け入れてくれた。

ユミナの事もあったけど、一度に話すのは止めておいた。


ガーランド帝国と戦争になり掛けた事や王城で宰相と揉めた事は、パニックになりそうなので元々話す気は無かった。



「孤児院を建てる場所は、検討しよう。候補地があれば、言ってくれ」


「分かった」


「仕入れた物の値上げは、給料を上げてからでいいな」


「そうだね」


父さんへの報告の後、『次は、ミーリアだ』と思いながら部屋を出た。



実家を出ると、小屋の前には誰もいなかった。


探すとシャルロッテとシロンは、自宅の厩舎で休んでいた。

母さんが、入れてくれたのだろう。


僕はそれを確認すると、服飾工房へ向かった。


「傷付くよなー」


それでもミーリアには、ユミナの事を打ち明ける必要があった。

僕は不安になりながらも、服飾工房へ入った。


「ただいま」


「あっ、ニコルちゃん。お帰り!」


ミーリアは作業を中断し、僕の元まで来て抱き付いた。


「あらあら、仲が良いのね。ニコルくん、お帰りなさい」


作業場には、アリアおばさんもいた。


これでは、ユミナの事を打ち明けられそうもない。



「生地と糸、それと新しい型紙を仕入れてきたぞ」


生地と糸は購入したが、型紙は錬金術で作った物である。


「ありがとう。ニコルちゃん」


服飾工房の材料はスーパーを経由せず、直接渡している。

僕への売り上げは、服飾工房で作った服をスーパーに卸す時に発生する。


生地が高額なので利益は殆ど取って無いが、ミーリアの為に起こした事業なので良しとしている。


「今着てるのも、ミーリアが作ったのか?」


「そうだよ」


「また、腕を上げたな」


「ありがとう。ニコルちゃんに誉められて、頑張った甲斐があった!」


ミーリアは、とびきりの笑顔を見せた。


僕はそれで、打ち明ける気力を完全に無くした。

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