第五十一話 ダンジョンの街の孤児院、騒動⑤
《亜空間農場》の家で朝食を済ませ、プラーク街の別荘の厩舎にゲートを開いた。
《亜空間ゲート》の片割れは、理屈上エーテル街にある筈だが、既に回収してある。
もしリンゼさんに聞かれたら、適当に誤魔化すつもりだ。
「シャルロッテは、ここで待っててくれ」
『分かりました』
「シロンは、どうする?」
「待ってるニャ。朝から子供の相手は、疲れるニャ」
「それじゃ、一人で行ってくる」
僕は厩舎を出て、家へ向かった。
◇
家に入ると、誰もいなかった。
と言っても、事件が起きた訳ではない。
僕はそれに気付き、裏口へ向かい渡り廊下を通り増築した食堂へ入った。
すると、子供達は朝食をとっていた。
「みんな、お早う」
「「「「「「「「「「おはよー!」」」」」」」」」」
場所が変わり戸惑ってると思ったが、割りと元気だった。
「良く眠れたか?」
「「「「「「「「「「ねむれたー!」」」」」」」」」」
「それは、良かった」
「ここがニコルの家だと言ったら、みんな喜んでおったぞ」
「そうですか。ハハッ」
「ニコルさん。朝ご飯は、食べたんですか?」
「済ませたよ。みんなは、ゆっくり食べてくれ」
「はい」
僕は子供達が食事する姿を、微笑ましく眺めていた。
◇
食後リンゼさんから子供達に、改めて説明がされた。
「食事も終わった事じゃし、お前達に伝える事がある」
「「「「「「「「「「なにー!」」」」」」」」」」
「孤児院には、もう帰れんのじゃ」
「「「「「「「「「「なんでー!」」」」」」」」」」
「孤児院を壊し、貴族の息子の家を建てるのじゃ」
「「「「「「「「「「えー!」」」」」」」」」」
「しかし、ニコルが故郷の村に、孤児院を建ててくれる。それまでの間、この家に住まわしてくれる事になった。じゃから、安心してくれ」
「「「「「「「「「「わかったー!」」」」」」」」」」
子供達は、不思議と物分かりが良かった。
『やだー』とか『帰りたい』とか、騒ぎ出すと思っていた。
「ねー、おトイレどうやってつかうのー?」
今まで《ボットン便所》だったのが、いきなり《シャワー付き水洗トイレ》に変わった。
「そういえば、説明してなかったな」
話しを聞くと、今朝は試行錯誤しながら使ったようだ。
そんな訳で、正式な使い方を教えてやった。
そのついでに、子供達に家を案内する事になった。
◇
家を見て回り、次は街を案内する番である。
しかし、街に繰り出すには人数が多過ぎた。
「知らない街だし、はぐれたら大変だな」
この時、前世の小学校や保育園の先生が感じるであろう気苦労を知った。
「馬車を用意しますので、四つの班に分かれて順番に行きましょう」
「そうじゃな」
「リンゼさん。班分けを頼んで、いいですか?」
「それぐらい、任せろ」
リンゼさんに班分けを任せ、僕は以前使っていた観光用の馬車を用意した。
班分けが済み、馬車で街に繰り出した。
「ココ」
「何ですか?」
「この街のダンジョンの魔物は、殆どが食材をドロップするんだ」
「魔物の食材ですか?」
「嫌か?」
「嫌じゃありません。エーテル街では、ホーンラビットのお肉なら食べた事あります」
「肉だけじゃなく、野菜や果物だってあるぞ。しかも、凄く美味しい」
「野菜や果物?」
「安い物も多いから、今度一緒に行こう」
「はい!」
こうして午前中は、二組案内して終わった。
◇
お昼になり、お腹が空いた。
「おやつをご馳走するか」
孤児院は今でも、朝と夜の一日二食が続いている。
「おいしーね」
「うまうまー」
「あまあまー」
昨夜に引き続き、焼きトウモローコシをご馳走した。
食後、残り二組の案内を済ませた。
そして、当面の食材とお金をリンゼさんに渡し、今は話しの最中だ。
「この街の孤児院は、どうなっておるのじゃ?」
「二つありますよ」
「ちゃんと、援助は受けられてるのかの?」
「詳しい事は分かりませんが、大丈夫そうですね」
「羨ましいの」
「その土地を治める権力者で違いがあるなんて、不公平ですね」
「ニコルの言う通りじゃ」
「この街は食料が安く、ダンジョンも十三歳から入れるし、生活しやすいですよ」
「成人前から、ダンジョンに入れるのか?」
「ここは、初級者向けですからね。奥へ行かなければ、ダンジョン探索者に成り立てでも安全に狩りができます」
「そうじゃったか。孤児院を巣だった子供達にも、教えてやりたいわい」
「そうですか」
僕なら探し出し連れて来る事も可能だが、そこまで世話を妬く必要があるか迷った。
だが、その申し出をする事はなかった。
そんな時だった。
「おじちゃんだれー?」
「何だこりゃ。ここにもガキが、いっぱいいるぞ。それに、俺はおじちゃんじゃねー!」
どうやら、ダンジョンからエシャット村の狩猟班が、帰って来たらしい。
◇
僕は説明しに、玄関へ向かった。
「やあ、サジ」
声の主は、サジだった。
「何だニコル。本当に、いたのか?」
どうやら、外にいる子供から、僕の事を聞いたらしい。
「まあね」
「こいつら、どうしてここにいるんだ?」
武器を持った大人が突然現れ、興味津々の子と怖くて僕の後ろに隠れる子がいた。
「この子達は、他所の街の孤児なんだ。孤児院を、貴族に追い出された」
「それで、ニコルが面倒見てるのか?」
「そういう事」
「まあ、ニコルがやる事だから文句はねえけど、お人好しだな」
シロンと、同じ事を言われてしまった。
「どうとでも、言ってくれ。その内、村に孤児院を建てて、引っ越すからな」
「まっ、頑張れよ。応援してるぜ」
サジはそう言い残し、去って行った。
「みんな。あの人は、僕の村の人だ。ここへはよく来るから、怖がらなくていいぞ」
「「「「「「「「「「うん!」」」」」」」」」」
父さんに相談する前に、サジ達狩猟班に知られてしまった。




