第四十九話 ダンジョンの街の孤児院、騒動③
僕が孤児院を支援してると言っても、贅沢をしてる訳ではなかった。
食事は一日二食で、朝はパンとスープ、夜はサラダが追加されるくらいだ。
この風習は、僕が支援してからずっと続いている。
普段の食事は、リンゼさんとココが中心に年長者の仕事だ。
人数が多いので、手の込んだ物は作れなかった。
たまに僕が来て、いつもと違った夕食をご馳走している。
今日は、庭でのバーベキューだった。
「おいしいねー!」
「しょっぱくて、すごくあまーい!」
「しょうゆのこげるにおいが、すき!」
肉が人気なのは当たり前だが、プラーク街ダンジョン産の《焼きトウモローコシ》も人気である。
◇
夕食が終わりいつもなら帰るところだが、代官の残した言葉が気になり、その日の夜は外にテントを張り泊まった。
「ご主人、起きるニャ!」
夜中にテントで寝ていると、シロンに起こされた。
「シロン、どうした?」
「馬車が複数、近付いて来るニャ!」
「馬車?」
聞き耳を立てると、確かに音がする。
こんな夜中に馬車を走らせるなんて、よっぽどの事である。
テントの外に出ると、シャルロッテもそわそわしていた。
『ご主人様。複数の馬車が、近付いてます』
「そうみたいだな。《結界》」
孤児院の敷地に結界を張り、万一に備えた。
十数秒後、五台の馬車が孤児院の前で停止した。
その馬車からは、合わせて十人降りて来た。
「行くぞ!」
一人の掛け声で、全員が動き出した。
『ドスン!』
「いてっ! 何だこれは?」
孤児院の敷地に侵入しようとして、先頭の男が結界に阻まれた。
覆面をしていて顔の判別は難しかったが、今の声で男の正体が分かった。
「昼間、代官と一緒にいたやつか」
僕は、呆れてしまった。
「貴族って、何なんだろうな」
取り敢えず、こいつらの用件を聞く事にした。
◇
僕は柵を飛び越えて、結界の外に出た。
そして、男達に静かに近付き、横から声を掛けた。
「こんな遅い時間に、何の用ですか?」
『『『『『『『『『『ビクッ!』』』』』』』』』』
「お前は!」
昼間の男が、呟いた。
「まさか、人攫いですか?」
「くっ! こいつを殺れ!」
男達は手にナイフを握り、僕を囲んだ。
「《睡眠》」
『『『『『『『『『『バタン!』』』』』』』』』』
騒ぐと子供達が目を覚ますので、何もさせず眠らせてしまった。
その直後、馬車で待機してる男達も眠らせた。
『キー!』
その時、孤児院の扉がゆっくりと開いた。
その人物を窺うと、リンゼさんだった。
リンゼさんは、こちらに歩いて来た。
「騒がしいと思って来てみたんじゃが、何かあったのか?」
暗くて、状況が把握できてないようだ。
「賊が来ました。恐らく代官の手下です。御者も含めて十五人いますが、今は全員魔法で眠ってます」
僕は男の覆面を、剥ぎ取った。
「なんと! 昼間、代官と来た輩ではないか」
「昼間の代官の口振りから、恐らく子供達や魔道具が目的でしょう」
「そうじゃったか。ニコルがいなければ、大変な事になってたの」
「ここにいては、またいつ来るか分かりませんね」
「直ぐにでも、ここを出た方がいいようじゃの」
「僕はこいつ等を、ロープで縛り上げますので、その後話し合いましょう」
「分かった。待っておるぞ」
リンゼさんが家に入るのを確認し、魔法で賊を縛り上げた。
そして、プラーク街の別荘に転移し、《亜空間ゲート》の片割れを設置した。
◇
当初、別荘を宿泊施設として、エシャット村の人達に貸出していた。
しかし、利用する人が少なくなり、今は止めている。
「たしか、リンゼさんを含めて三十七人だったな」
最初に出会った頃から、数人増えていた。
子供達を受け入れるのに、足らない物が無いか家の中を見て回った。
「寝室は家具をしまって、今使ってる三段ベッドを詰め込めば大丈夫だな」
この家には、広めの寝室が四部屋あった。
部屋の物を次々と《亜空間収納》にしまい、魔法で部屋を綺麗にした。
「屋根裏も綺麗にして使えば、余裕ができるな」
本来物置として使うのだが、居住スペースとしても充分な広さだった。
「流石に、ダイニングキッチンは狭いな。トイレと洗面所も足りないし、風呂はどうするか?」
僕は思いきって、家の裏側を増築する事にした。
◇
初めに《亜空間収納》内で建物を建築し、次に地面を平らに慣らし排水設備を整えた。
そして、その場所に建物を設置し、キッチン・トイレ・洗面所・風呂・洗濯・照明に纏わる設備を設置していった。
「よし、できた。後は、渡り廊下で繋げてと」
こんな感じに準備を整え、孤児院に戻った。
「ただいま」
「ご主人。どうする気ニャ?」
『どうするんですか?』
「この街は孤児院の子供達にとって、安全な場所じゃなくなった。一時プラーク街の別荘に避難して貰い、エシャット村に孤児院を建てたら引っ越そうと思う」
「ご主人は、お人好しニャ」
『ご主人様。お優しいです』
「僕に救えるのは、目の前にいる極一部の人だけだ。そんな、大した人間じゃない」
「謙遜しなくていいニャ」
『その通りです』
「まあ、いいや。僕は、リンゼさんの所に行ってくる。何かあったら、呼んでくれ」
「分かったニャ」
『分かりました』
二人に見張りを任せ、僕はリンゼさんのところへ行った。




