第四十八話 ダンジョンの街の孤児院、騒動②
ほんの少し時間が遡ったところから、話しは始まる。
「あっ、また馬車が来た」
「ほんとだー」
馬車は敷地の外に停められ、貴族とおぼしき人物とその従者が降りて来た。
「相変わらず、貧乏臭い所だ。本当に援助金も無しに、大勢の子供がいるのか?」
「はい。それに先日御報告した通り、家の中は外観と違って綺麗ですし、魔道具も多く見掛けました」
「信じられんな」
貴族は疑いの言葉を述べると、孤児院の敷地に入って行った。
貴族は足を止め、庭に停めてある馬車を見つめた。
「この馬車、先客か?」
「先日は、ありませんでした」
「この場に不釣り合いな、良い馬だな」
貴族は、シャルロッテに近付こうとした。
「ヒヒーーーン!!!」
シャルロッテはそれを察知し、嘶いた。
「私を拒絶するのか? 生意気な!」
「シャーーー!!!」
「ほう、猫もいるのか? 威嚇しているが、なかなか美しい容姿ではないか」
「おじちゃん。おうまさんとねこさんがおこってるから、ちかづかないで!」
「「「「「ちかづくなー!」」」」」
「黙れ、ガキ共! 誰に物を言ってるか、分かってるのか?!」
「「「「「しらなーい!」」」」」
「チッ! ガキ共、どけ!」
「「「「「キャーーー!」」」」」
従者は、子供達を突き飛ばした。
「「「「「うえーん!」」」」」
「ヒヒーーーン!!!」
「シャーーー!!!」
子供達が突き飛ばされるのを見て、シャルロッテとシロンが従者を威嚇した。
『ギー!』
その時、玄関の扉が開いた。
◇
玄関の扉を開くと子供達が泣き崩れ、シャルロッテとシロンが男を威嚇していた。
「何があったんだ?」
「このおじちゃんが、つきとばしたー。うえーん」
僕は子供が指差す方を見て、睨んだ。
「いい大人が、子供相手に何するんですか!」
「何だ貴様は?!」
「ただの行商人です!」
「行商人風情が、口出しすんな!」
『スッ!』
男が殴り掛かって来たので、素早く避けた。
「貴様ー!」
「もう止めろ。私は、叔父に用がある」
「はい。申し訳ありません」
二人は僕を無視し、家に向かった。
「叔父って言ったな」
どうやら、この街を納める《代官》のようだ。
二人を追い掛けようとしたが、子供達が泣いていた。
見た感じでは、打ち身程度のようだ。
『フワー』
子供達が、淡い光りに包まれた。
無詠唱で、《初級回復》魔法を放った。
「大丈夫か?」
「「「「「あれっ、いたくない」」」」」
「あの叔父さん達に、近付いちゃ駄目だぞ」
「「「「「うん!」」」」」
子供達を立たせ魔法で綺麗にしてあげると、急いで二人を追った。
◇
一方、家に入った代官達はというと、クッキーを食べている子供達に、視線を向けられていた。
「お前の話しは、どうやら本当のようだ」
「信じていただけましたか?」
「うむ。しかし、これだけ養う金を、どう工面しているのだ?」
「パトロンですかね?」
「いったい、誰が?」
「さあ、誰でしょう?」
「おい、娘。リンゼ叔父は何処にいる?」
代官とココは血が繋がっていたが、身分の違いもありぞんざいに扱われていた。
「お爺ちゃんなら、自分の部屋にいます」
それを聞くと、代官達はリンゼさんの部屋へ向かった。
◇
僕が家に入ると、代官達がリンゼさんの部屋に入ろうとしていた。
「ココ、コニー、心配するな。僕に任せろ」
「ニコルさん」
「ニコルおにーちゃん」
二人を安心させる為そう言ったが、具体的な策など無かった。
貴族とは、《厄介》なのである。
取り敢えず、代官の目的を知る為、リンゼさんの部屋の前で聞き耳を立てた。
「帰れ! お前の顔など、見たくない」
「リンゼ伯父、分かってくれ。金にもならない孤児院なんて、あったってしょうがないだろ」
「しょうがない訳あるか! 行き場を失った子供達には、必要じゃ!」
「そんな子供、《奴隷商》に任せればいい。何だったら、ここの子供も私が買い取るぞ」
「貴様ー! わしはそんな事、絶対せん!」
「相変わらずだな。それなら、その辺にある《魔道具》を、一個につき五日間の延長で買い取ってやる」
「外道め!」
「リンゼ伯父。言葉には、気を付けてくれ。私は、貴族なんだ。口が過ぎると、不敬罪でしょっぴくよ」
「ぐぐっ!」
「魔道具を売らないなら、二十日後にきっちりと出ていって貰うからな」
『ギー!』
代官達が、リンゼさんの部屋から出て来た。
「何だ、行商人。盗み聞きか?」
「いえ」
「まあ良い。表の馬車は、お前のか?」
「そうです」
「馬と猫を、私に譲らんか?」
「駄目です。僕の《家族》ですから」
「ふっ、そうか。忠告しておくが、この孤児院に深入りせん方が身の為だぞ」
「ご忠告、ありがとうございます」
僕がそう言うと、代官達は去って行った。
◇
代官達が外に出るのを見送り、リンゼさんの部屋に入った。
「リンゼさん。大丈夫ですか?」
「正直、大丈夫とは言えんのう」
「あの人、奴隷商とも繋がってそうですね」
「わしも、薄々気付いとった。あからさまに言われたのは、初めてじゃ」
リンゼさんは、随分と気落ちしていた。
「あの代官、何か企んでる気がします。引っ越しを、早めた方が良さそうですね」
「そうじゃな。子供達も、不安がっておろう」
「はい。ちょっと、心配ですね」
「子供達の不安を、取り除けんかの?」
「そうですね。バーベキューでも、やりますか?」
「ああ、そうじゃな。頼めるか?」
「はい!」
この後夕食に向け、バーベキューの下準備に取り掛かった。




