第四十二話 ニコル、爵位を断る
大公爵様は僕のステータスの《影の英雄》を見て、先の戦争に関与した事に気付いてしまった。
「救国の英雄ニコルよ。偉大な功績に対し、国王陛下へ爵位を進言するぞ!」
「おっ、お待ち下さい。私は、爵位を望んでません。第一私が王国を救った証拠など、どこにもありませんから」
「何を言っておる。今回の件だけでも、充分じゃ。証人なら、隣におろう!」
「爺さん。魂胆は、見えてるぜ。力のある者を、国の影響下に置きたいんだろう?」
「いやわしは、成果に見合った褒美をだな」
「俺ん時も、そうだったよな。断ったけどよ」
「アレンさんも、断ったんですか?」
「まーな。折角転生して力を得たのに、貴族なんかになっちまったら、首輪をつけられるようなもんだからよ」
「その気持ち、分かります」
「お主ら。わしの前で、よく言えるな」
「爺さんも貴族なんて肩書き、本当はいらなかったんじゃねーのか?」
「ギクッ! なっ、何を言っておる。困難はあれど、領地が発展して行く様を見るのは、実にいいものじゃ!」
「爺さんは大貴族の長男に転生したから、それはそれで有りなんだろ。しかしよ、俺らまで巻き込むなよ」
「じゃが、これだけの事をなして、何も無しじゃ報われんじゃろう」
「大公爵様、いいんです。既に恵まれた能力で、恩恵を受けてますから」
「そうは言ってもじゃ。欲しい物は、何も無いのか?」
「欲しい物ですか? んー?」
急に言われても、なかなか浮かばない。
「ミスリルでこんな大層な物を作って、大量に放出しておるのじゃ。何でも言うてみー」
大公爵様は《悪事矯正リング》を手に取り、まじまじと眺めた。
これを作るのに、出費がゼロという事は敢えて伏せた。
「それでは、乳牛や鶏の《購入許可》が欲しいです」
「そんな物で、良いのか?」
「はい。以前、購入しようとしたら、断られました。故郷の村で消費する分だけで構わないので、どうでしょうか?」
「購入せずとも、無償でやるぞ」
「いえ。許可だけいただければ、結構です」
「そうか。それなら、今直ぐ許可証を作るとしよう」
「ありがとうございます」
大公爵様は立ち上がり、執務机に向かった。
◇
待っている間、お茶のお代わりをいただいた。
「ほれ、できたぞ。この書状があれば、家畜全般購入可能じゃ」
「ありがとうございます」
「ところで、ニコル」
「はい」
「誰の依頼で、ガーランド帝国へ行っておったのじゃ?」
「えっ!」
「依頼者が、おったのだろう? それとも己の能力で、戦争の気配を感じ取ったのか?」
「それは、私の口から言えません」
「このわしにも、言えんのか?」
「すみません」
「そうか。まあ良い」
ユミナの能力に関わる事なので、いくら大公爵様相手でも言えなかった。
この後、ガーランド帝国の情勢や、勇者達の強さについて報告した。
◇
「爺さん。俺ら、もう帰っていいか?」
「まだじゃ。ニコルのそのふざけたステータスと、能力の詳細について話しを聞きたい」
「そんなの個人情報だろ!」
「しかし、《転移》まで使えるのだぞ」
「確かにな。俺も体験したが、ありゃー便利だ」
「そうか、是非わしも。王都に、用事があるのじゃ」
「おいおい、ふざけるな。利用しないって、言っただろ!」
「くっ! わしにそんな口を利くのは、アレンだけじゃぞ!」
「知らねーよ!」
僕としても能力の詳細を明かし、利用されるのは御免である。
そういった意味で、アレンさんは何も聞いてこなかった。
◇
『トン! トン!』
「何じゃ、今は来客中じゃぞ」
「お爺様、アリーシアです。アレン様が来ていると聞いたので、挨拶に参りました」
「何じゃ、アリーシアか。入れ」
「はい。失礼します」
『キー、ガチャ!』
執務室に現れたのは、ユミナに匹敵する程の美しい少女である。
「アレン様、お久し振りです」
「アリーシア、大きくなったな」
「以前お会いしたのは、二年近く前ですからね」
「そうだな」
アレンさんは、アリーシア様をまじまじと見た。
「アリーシアには、もう一つ言っておく事があるな」
「何ですか?」
「綺麗になった」
「まあ。アレン様にそう言っていただけて、嬉しいです」
「そうか?」
「はい、とても。ところで、お隣の方は?」
「こいつは、ニコル。俺のちょっとした、知り合いだ」
「そうですの? アリーシア・ノーステリアです。以後、お見知りおきを」
『シュタッ!』
僕は、慌てて立ち上がった。
「はっ、はい。ニコルです。よろしくお願いします」
可憐なお嬢様から丁寧に挨拶され、思わず緊張してしまった。
「大事なお話し中のようですので、失礼いたしますわ」
「そうじゃな」
「お二人共、またいらしてくださいね」
「ああ、その内な」
「はい」
『キー、ガチャ!』
お嬢様は挨拶だけ済ませ、去って行った。
「どうじゃ、ニコルよ。美しいじゃろ?」
「はい」
そう返事しながら、ソファーに座った。
「しかし、第三王子と婚約中じゃ。惜しかったのー」
「そうですね」
何が惜しいか分からないが、ここは肯定しておいた。
下手に否定したら、《爺馬鹿》が炸裂し絡まれそうな気がしたのだ。
「ニコルは、今後どうするのじゃ?」
「そうですね。私の本業は行商人ですので、暫くの間領都で買い物をして、その後仕入れの旅に出ます」
大公爵様には、ガーランド帝国を監視する事は伝えなかった。
下手な事を言って、指揮下に入れられるのが嫌だった。
「戦争の気配が無くなるまで、アレンと帝国を探らんか?」
しかし、大公爵様は見逃してくれなかった。
「ジジイ、ボケたのか? 『利用しねー』って、言ったろ!」
アレンさんは、僕の気持ちを察してくれたようだ。
「分かったわい。その分、アレンに働いて貰うぞ!」
「ああ、分かってるよ。ニコルには、世話になったからな」
この後、領主城に泊まるように言われた。
しかし、丁重に断った。
いろんな手を使って、利用しようと考えてそうだからね。
お読みいただき、ありがとうございます。
この作品はこの辺りまで書いたところで筆が止まり、取り敢えず投稿を始めました。
投稿しながら続きを書こうと思いましたが、修正等でその余裕がありませんでした。
書き溜めをする為、一度《投稿を休もう》と思います。
勝手ながら、ご了承下さい。
(追伸)
数日中に、米の国で世界を揺るがす出来事が起こるかヤキモキしてます。




