第四十一話 ノーステリア大公爵の追求
昼食を済ませ、昨日ご馳走になった焼肉店の前で、アレンさんと待ち合わせをした。
「よー、待たせたな」
「いえ、そんなに待ってないですよ。昨日はご馳走様でした」
「いいって事よ。それじゃ、行くか」
「はい」
挨拶はそこそこに、領主城へ向かった。
◇
貴族街へは、アレンさんの顔パスで入れた。
領主城に到着すると、僕達は領主執務室に案内された。
「よく来た。そこに座ってくれ」
「おう」
「はい」
僕とアレンさんが並んでソファーに座ると、お茶が用意された。
大公爵様は人払いをし、向かいのソファーに座った。
「早速だが、アレンよ。勇者達三十九人を、どうしたというのじゃ?」
「ん? チョチョイのチョイと、ぶちのめした」
「殺したのか?」
「殺してねえよ!」
「それなら昨夜の報告で、『勇者達は、戦争に加担しない』と言うお主の根拠は何じゃ?」
「それは・・・・・」
「お主が口篭るとは、珍しいな」
「こっちにも、事情があってな」
「それは、ニコルが関わるのか?」
「ちげーよ」
アレンさんは、どうやら僕を巻き込まないよう振る舞っているようだ。
「では、ニコルは何を協力したというのじゃ?」
「うっ!」
アレンさんは更に問い詰められ、返事に困った。
「アレンさん。僕から報告します」
「ニコル」
戦争に関わる事の重大さと、相手が大公爵様という事もあり、隠すのは難しいと判断した。
◇
僕は魔法袋から、《悪事矯正リング》を取り出した。
「これを、勇者達の首に取り付けました」
「何じゃそれは?」
「悪意を抱くと、《電気》が流れます」
この世界にも《雷》の現象はあるが、《電気》という言葉は使われてなかった。
僕は、敢えてそれを使った。
「電気? お主、もしや《転生者》か?」
「はい」
アレンさんから大公爵様が転生者だと聞いていたので、素直に答えた。
「ただ者ではないと思っていたが、まさか転生者だったとは。前世は日本人か?」
「そうです」
「その様子じゃと、わしが転生者だという事も、知っておるのだな?」
「はい」
「アレンから、聞いたのか?」
僕は、アレンさんの方を見た。
「そうだよ。俺が、うっかり話しちまった」
「こ奴!」
僕は心の中で、『やっぱり、話しちゃいけない内容だよね』と、思った。
「大公爵様。私は、口外致しません」
「何じゃニコル。秘密を聞いて、口封じでもされると思ったか?」
「いえ、あの、その」
実は、ほんの少しだけ思った。
「心配せずともよい。お互い、秘密を握ったのだからな」
「ありがとうございます」
僕はその言葉を聞いて、安堵した。
◇
「いろいろと聞きたい事はあるが、話しを戻すぞ」
「はい」
「そのリングは、お主が作ったのか?」
「そうです」
「どれ、見せてみい」
「どうぞ」
リングを手渡すと、大公爵様はじっくりと見定めた。
多分、《鑑定》スキルを使ってるのだろう。
昨夜も、僕の事を《鑑定》している気配があった。
「ふむ。仕組みは、《隷属の首輪》に似ておるようじゃの」
「《隷属の首輪》を、改造してます」
「ミスリルを使っておるな。なかなかの物じゃ」
「俺がニコルに会う前、既に勇者パーティー以外全員に装着してたぜ」
「一人でか? どうやって、装着したんじゃ?」
「ダンジョンで、パーティーごと魔法で眠らせました」
「眠らせた? やはり、ステータスを偽っておるのじゃな?」
今のステータスの魔法覧には、《生活属性魔法》しか表示されてなかった。
「はい。勇者達に素性がバレないよう、アイテムを作りました」
「ほう。そんな物まで作るとは・・・・・」
大公爵様は、少しの間考え込んだ。
「お主の本来のステータスを、見せてくれぬか?」
「えっ、それは」
僕は、悩んだ。
この人物は、信用できるのかと。
アレンさんは昔から仲良くしてるようだが、『いいように、使われてる』と、愚痴を溢していた。
「駄目なのか?」
「条件があります」
「それは何じゃ?」
「私を利用するとかは、やめてください」
「うっ、それは」
「爺さん。もしかして、利用するつもりだったのか?」
アレンさんが、大公爵様を睨んだ。
「分かったわい。お主を、利用する事はせん」
「ありがとうございます」
確約がとれたので、腕輪の偽装設定を解除した。
◇
「お主、何だそのレベルは。ありえん」
大公爵様は目を見開き、驚いた。
「突っ込みどころ満載じゃが、《英雄》の称号まで持っておるのか?」
「ええ、まあ」
「もしや、先の戦争で得たものか?」
「ギクッ!」
「そうなのじゃな?」
「・・・・・そうです」
「おおー、やっと見付けた! 国防の危機を救った《影に隠れた英雄》を!」
大公爵様は、わらわらと体を震わせた。
「何だニコル。お前が《トンネル》と《大落石》の危機を、救ったのか?」
「たまたまです」
「いや。お主のお陰で、被害が少なくて済んだのじゃ。礼をせねば」
「その必要は、ありません」
素のステータスを見せた事により、話しが思わぬ方向にずれてしまった。




