第四十話 嫌な予感が、当たっちゃいました
僕は《亜空間農場》を出て、ノーステリア大公爵領の領都にいる。
今は変装を解き、ステータスをレベル10に偽装している。
変装とステータスの組み合わせは十パターンまで登録できるので、簡単に変える事ができる。
「シロンとシャルロッテの変な勘繰りのせいで、遅くなったぞ。アレンさんは、何処にいるんだ?」
待ち合わせ場所を決めてないので、アレンさんの居場所を検索した。
「いた。随分、貴族街の近くだな」
早速近くへ《転移》し、店に向かった。
アレンさんのいる場所は、高級焼肉店の個室だった。
「すみません。お待たせしました」
「おっ、来たな。俺も用事を済ませてたから、そんなに待ってないぞ」
「そうですか。それにしても、随分敷居の高い店を選びましたね」
「金が入ったからな。気にするな」
「お金?」
「俺の依頼主さ。報告をしに行ったら、金を寄越した」
「へー」
「肉は、適当に注文したからよ。何かリクエストはあるか?」
「お任せします」
「そうか。飲み物は、ビールでいいな?」
「はい」
初めて来た店なので、アレンさんに任せる事にした。
◇
元日本人が《内政チート?》している領地だけあって、この焼肉店は前世を思わせた。
「美味しいですね」
「そうだろ」
この店は魔物の肉は使っておらず、この領地で育てた牛の肉を使っていた。
日本でお馴染みの、《焼肉のタレ》も再現している。
「アレンさんは、ここによく来るんですか?」
「たまに連れて来られたが、俺が行く店はもっと庶民的だ」
「へー。どうして、この店にしたんですか?」
「実を言うとな、ここを勧めたのは俺の依頼主なんだ」
「えっ!」
「報告するのに、ニコルの事をチラッと話したんだ。本当、チラッとだぞ」
「げっ!」
「そしたらよ。貢献者には、良いものを振る舞ってやれってよ」
「何か、嫌な予感がするんですけど」
「そうか? そんなの気にしてると、飯が不味くなるぞ」
「アレンさんのせいです」
「ウハハッ! まあ、飲め」
「ハァー。何を言っても、無駄ですね」
僕はジョッキのビールを飲み干し、お代わりを頼んだ。
◇
「店に入る時、貴族の方達を見掛けたんですけど、美味しいからわざわざ食べに来るんですかね?」
「それもあるけどよ、貴族街には店がねーんだ。外で飲み食いする時は、平民街まで足を運ぶしかねー」
「どうして、貴族街に店が無いんですか?」
「王都程、貴族がいねーからな」
「あっ、そうか」
「国の政治的な事は、全て王都だからよ。ここに屋敷のある貴族は、主に近隣の領主達だ」
「という事は、この店は貴族向けなんですね?」
「まあ、どっちかっていうとな」
アレンさんは意外にも、物知りだった。
「ところで、戦争は回避できますかね?」
「そうだな。大丈夫じゃねえか?」
「《第六感》ですか?」
「そんなとこだ。召喚者以外の隠し球があれば、話しは別だが」
「無いといいですね」
「まあな。ニコルは、明日からどうするんだ?」
「こう見えて、本業は行商人なんです。仕事をしつつ、帝国の動きをチェックします」
「俺も、似たようなもんだ。戦争の動きが無くなるまで、帝国をスパイする」
「暫く、大変ですね」
「お互い、いいように使われてるな」
「ハハッ!」
僕はユミナの『お願い』で行動してるので、笑って誤魔化した。
『キー!』
そんな時、個室の扉が開いた。
「誰に、いいように使われてるって?」
「げっ、ジジイ。来たのか?」
「お前の《協力者》とやらに、興味が湧いてな」
「それで、わざわざ領主が来るか?」
「お主がちゃんと報告せず、協力者を優先するからじゃ」
「誘っといて待たせたら、悪いからよ」
「大公爵のわしを、差し置いてでもじゃろ」
「そうだよ」
「それで、益々興味が湧いたわい」
「分かったよ。ニコル悪いな。領主のノーステリア大公爵様だ」
「エドワード・ノーステリアだ」
「ニコルです」
大公爵ともなるとかなりの圧を感じ、僕は萎縮してしまった。
◇
一方、ノーステリア大公爵は、こんな事を考えていた。
『こ奴、何処かで? おお、そうじゃ。以前、馬に騎乗しておった。今は気を抑えているようじゃが、こ奴じゃ』
「随分、若いな。一体、何を協力したんじゃ?」
「えっ!」
「おいおい、爺さん。今は、食事中だぜ」
「爺さんだのジジイだの、お主は本当に失礼な奴じゃ。人がいる時は、ちゃんと敬え!」
「はいはい、失礼しました。今は食事中ですので、ご遠慮下さい」
「ぬけぬけと。帰ってやる代わりに、お主ら二人明日城に来るんじゃ!」
「「げっ!」」
「嫌なのか?」
「俺はいいけどよ。何か巻き込んじまったみたいで」
「ニコル。どうなんじゃ?」
「分かりました。伺います」
「そうか。では、昼過ぎに来てくれ。アレン、ニコルを連れて来てくれんか?」
「分かったよ」
「明日、待っておるぞ」
『キー、バタン!』
領主様はそう言い残すと、去って行った。
「ニコル、悪い」
「嫌な予感が、当たっちゃいました」
「悪徳領主とかじゃないから、安心しろ」
「他人事だと思って」
「まー、飲め。そして、食え。そんで、楽しめ」
「もー!」
僕は不満を表しながらも、ジョッキのビールを再び飲み干した。




