第一話 転生の選択
俺はある日の朝、最寄の駅に向かう通勤途中でバイクにはねられ死んだ。
享年二十五歳六ヵ月。
停止するトラックの脇から来るバイクに気が付いて、横断歩道を渡る小学生の少女を庇っての結果だった。
「あの少女は無事だったのだろうか? せめて無事であって欲しい」
身に起きた不幸な出来事を理解しつつ、俺は一人見知らぬ場所を彷徨っている。
「おほん!」
「わっ、びっくりした!」
後ろから声がしたのでそちらに振り向くと、神々しい爺さんがいた。
「わしは神じゃ。お主は死んで、魂だけがこの《霊界》におる。善行による予定外の死で特別声を掛けた。そして転生先の選択肢を与える事にしたのじゃ」
『いきなり何を言ってるのだろう?』と、思った。
「あなたは、本当に神様なんですか?」
まあ、見た目そのまま神様なんだけどね。もしかして、自称神かもしれないので聞いてみた。
「本当に神じゃ!」
『ピカー』と、爺さんの神々しさが増した。
「わっ、分かりました。信じます。ところで、俺に転生先を選ばせてくれるんですよね?」
「そうじゃ。通常は、数年から数百年を待って記憶をリセットしてから転生するのじゃ。しかしお主が望むなら、前世の記憶を持ったまま特殊能力を授け《異世界》に転生させる事も出来る」
「特殊能力? 異世界?」
「いわゆるラノベやゲームの世界の勇者や賢者といった職業の資質を与え、経験値とともに能力を上げていくわけじゃ」
「・・・・・」
「どうじゃ、楽しそうじゃろ!」
俺はしばらく考えた。
『異世界かー、どうするかなー。ヒーロー願望がある訳じゃないし、勇者は俺の性格じゃ無理だ。それに、魔王討伐とか強制されたら嫌だ。できればストレスが無く、楽しくのんびり暮らしたい。それを叶えられる職業は・・・』
一方、神はこんな事を考えていた。
『この分なら、異世界転生を選びそうじゃな。こやつは、優秀な神候補じゃ。逃しはせんぞ。異世界の女神が後継者にするのに、徳の高い神になる資質のある者を寄越せとうるさくて適わん。後はこやつが選択する職業じゃが、何を選んでもチートな能力を授けるぞい。できれば勇者を選んでくれると助かる。それが一番神への近道じゃからな』
どれくらい時間が経っただろうか、悩んだ挙句やっと決めた。
その間、神様は無言でずっと待っていてくれた。
「神様、決まりました!」
「おおっ、決まったか! して、お主の希望は?」
「はい。せっかくの機会ですし、普通に転生するより特殊能力を体験できる異世界に転生する事にします」
「そうか、分かった。して職業はどうする。勇者か?」
「いいえ、俺を《錬金術師》にしてください」
神様は、少し残念そうな顔をした。
『もしかして、勇者になってもらいたかったのか?』と、思った。
「勇者ではないのか。分かったそれでは錬金術師の上位職、《大錬金術師》の資質を与え転生させよう。前世の記憶は、五歳になったとき蘇るようにするぞい!」
『大錬金術師? ただの錬金術師じゃないのか。まあ、上位職なんだからいいか』
『それに五歳? そうか、社会人の記憶のまま赤ん坊の生活はきつい。神様は配慮してくれるんだな』
「はいっ、それでいいです。あとはお任せします」
神は先ほど大錬金術師と言ったが、さらに上の資質を与えようと画策していた。
「よし、それでは転生させるぞい」
「はい」
そして、俺の意識は無くなった。