第三十八話 アレン対勇者パーティー、決着
勇者達はスキルでギヤを上げたが、アレンさんに手も足も出なかった。
「あいつ、とんでもねえ化け物だな。引いた方が、いいんじゃねえか?」
そう言い放ったのは、今まで重傷の《狂戦士》に、《回復魔法》を掛けていた《賢者》である。
「ウガー! 何言ってやがる。やられたままじゃ、気が済まねえ!」
復帰した狂戦士が、その意見に反発した。
「勝てる気でいるのか?」
賢者は戦況を見て、冷静にそう言った。
「そんな事言ってねーで、奴の動きを止めろよ」
そう突っ込んだのは、二人の様子を見に来た《大魔導師》である。
「俺にやれってか?」
「できんだろ」
「無茶言うな。ぜってー、返り討ちに合う」
「ウガー! うだうだ言ってねーで、やれってんだ!」
「てめー、切れてんじゃねーよ!」
「おい! 争ってる場合じゃねーぞ。お前が奴の動きを止めれば、俺らが何とかするって言ってんだ!」
「分かったよ。やればいいんだろ!」
二人に責められ、賢者は嫌々了承した。
◇
勇者達三人とアレンさんは、激しい戦闘を繰り広げていた。
「チッ! あんだけ動かれちゃ、的が絞れねーぜ」
賢者には、人の動きを制限する魔法が幾つかあった。
《結界》、《影縛り》、《氷結》、《電撃》、《睡眠》、等々。
そして、この状況からある魔法を放った。
「《強結界》」
賢者は動きの速い標的を、逃げられないよう広範囲に結界を張った。
後に、この結界を狭めるつもりでいる。
この賢者は魔法を言葉にせず念じるだけで発動できたが、状況によって変えていた。
「ん? 結界に、閉じ込められたか?」
『シュタッ!』
標的は戦闘を放れ、結界の壁の前に立った。
「《ライトニングスラッシュ!》」
『パリーン!』
「げっ、結界が速攻破壊された。奴に近付くのは危険だが、しょうがねえ」
『フッ!』
賢者はアレンさんの真後ろに、《転移》した。
「何だ?」
しかし、直ぐに察知されてしまった。
『《影縛りX5!》』
『ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!』
賢者はアレンさんの足元を狙って、杖から五本の影の矢を放った。
これが影に刺さると、身動きができなくなる。
『シュタッ!』
「俺の足元を狙ったな。ヤバそうだから、一応避けたが」
「チッ!」
『フッ!』
賢者は避けられた事に舌打ちすると、直ぐ様《転移》した。
「うわっ!」
賢者はアレンさんの真後ろに《転移》したが、アレンさんは反転して剣を向け待ち構えていた。
「お前の《転移先》、俺には分かるぜ」
「そんなの反則だろ!」
『《氷結》』
『ビュオーーー!』
文句を言いながら、賢者は魔法を念じ冷気を放った。
『シュタッ!』
辺りの壁や地面は氷りついたが、また避けられてしまった。
「くそっ! これが駄目だったら、諦めるぜ。《ドミニオン!》」
賢者はやけ気味に、魔法名を口にして放った。
『ブワーーー!』
すると、大きな黒い両の手が現れ、アレンさんを襲った。
これは《闇属性魔法》で、掴んだ者を一時的に《支配》できるというものである。
「ん?」
『シュタッ!』
『ブワーーー!』
『シュタッ!』
「追い掛けてきやがる。自動追尾か遠隔系だな。そんでもって、《闇属性》か」
『ブワーーー!』
「《聖光》」
『ピカーーーーー!!!』
アレンさんから強い光りが放たれ、黒い手は消滅してしまった。
「次から次へと、油断ならねーな」
「くっ!」
『フッ!』
賢者は攻撃を受ける前に、《転移》でその場を離れた。
そして、狂戦士と大魔導師の元に戻った。
「あいつ、出鱈目だぞ」
「情けねーな!」
「てめー、人の事が言えんのか!」
「ウガー! 俺は行くぞ!」
「ああ、行ってこい」
「何言ってる。全員で行くぞ!」
賢者は二人に連れられ、再び戦闘場所に戻った。
◇
「ウガー! よくもやってくれたなー! ぶっ殺す!」
狂戦士が、唸りを上げた。
「手加減しねえぞ!」
援護と言われ下がっていた大魔導師も、名乗りを上げた。
「・・・・・」
賢者だけは、無言だった。
「ふっ、全員揃ったか。いいから、掛かってこい」
「「「「「舐めんじゃねー!!!」」」」」
勇者達は挑発に叫びを上げたが、賢者だけは無言だった。
◇
一時間後。
「「「「「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」」」」」」
「何なんだこいつは。俺らが、束になっても敵わねえ」
「魔力が切れやがった」
「体力が持たねえ」
「ウガー!」
「キーヒッヒッ!」
「もう、引こうぜ」
勇者達は、全員へとへとだった。
そして辺り一帯、壁や床が崩れていた。
「お前ら、もう終わりか?」
「まだだ!」
そう叫んだのは、勇者一人である。
「ほう。流石、勇者だ」
「やっぱり、俺が勇者だと知ってやがるのか?」
「おっと、いけね。今のは無しな」
「クソッ! 舐めやがって。もう、奥の手を使うしかねえ」
「そんなもの、まだ隠してたか?」
『シュタッ!』
勇者はアレンさんの問いに答えを返さず、《瞬動》スキルで一気に間合いを詰めた。
「《メギドラスラッシュ!!!!!》」
『ギュギュギュギュオーーーーー!!!!!』
勇者が奥の手を放った瞬間、聖剣の放つ光りはこの一帯を真っ白に染めた。
そして、その熱量は《メギドスラッシュ》の比ではなかった。
「《フルカウンター!》」
『ゴゴゴゴイーーーーーン!!!!!』
『ドッゴーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!』
勇者は一瞬で壁に飛ばされ、大爆発が起きた。
壁は大きく崩れ、勇者は岩山に埋もれてしまった。
「やべえ。やり過ぎちまった」
アレンさんは、ばつが悪そうにしていた。




