第三十話 召還者との遭遇①
試験に合格した翌朝、変装しダンジョンに出掛けた。
このダンジョンは地下二十五階層からできていて、現在召喚者達は六人パーティーが一組、五人パーティーが二組活動していた。
その他の召喚者達はというと、勇者率いる最強パーティーは帝都内に、残りは他のダンジョンや街にいた。
このダンジョンを選んだ理由は、単に一番近かったからである。
そして、今回の装備はというと、《オーガの皮鎧》と《魔鋼の剣》を選んだ。
新調した装備は、勇者達最強パーティーと対峙するまで必要なさそうだ。
魔鋼の剣は《サムゼル様》との戦闘で折れてしまい、剣先がマグマに飲まれた。
しかし、《柄》の部分が残り、錬金術で復元している。
魔鋼の剣は強力な魔物にも使え、悪目立ちする事もないので、使い勝手が良いのだ。
ダンジョンの低層階は、ただ駆け抜けるだけだった。
しかし、下層に行くにつれ、しつこく追い回して来る奴等も現れた。
「「「「「ワオーーー!」」」」」
『ギロ!』
「「「「「クゥーン」」」」」
しかし、《威圧》スキルを放つと、魔物達は大人しくなった。
「やっぱり、これは便利だ」
僕は戦闘する事無く、先に進んだ。
◇
翌日、地下十二階で最初の召喚者を発見した。
「「「「「ヒャッハー!」」」」」
「「キャー!」」
「姉ちゃん達、俺達と遊ぼうぜー」
「「イヤー、離してー!」」
「お前等、二人を離しやがれ!」
「離せ、こんにゃろー!」
「体に触れるんじゃねー!」
『ドカッ!』
『バキッ!』
『ゴガッ!』
「格の違いが、分かったろ。てめえら男は、姉ちゃん達を置いて去りな。命は、取らねえでやんよ」
「ふざけんな、召喚者!」
「俺らを、知ってるってか? 有名人じゃんよ」
「「「「ヒャーヒャッヒャー!」」」」
「ああ、有名人だよ。《召喚者の特権》を使って、悪逆非道のやりたい放題だってな!」
「言うねえ。まあ、否定はしねえよ。だったら、逆らったらどうなるか、分かるよな?」
「そんなの関係ねー!」
「へっ、だったら殺るまでだ!」
「「「「イーヒッヒー」」」」
「「「くっ!」」」
召喚者達は武器や杖を構え、男性探索者達を襲おうとしていた。
「ちょっと、待った!」
僕は対峙する男達の間に、割って入った。
「何だてめえは!」
「フン。お前らみたいな下衆を、退治しに来た」
この目で人となりを見てからと思っていたが、今の遣り取りで充分に分かった。
なので、最初から召喚者達を挑発した。
「ハッ、退治だと。やれるもんなら、やってみろや!」
「ああ、分かった。《睡眠》」
『バタッ! バタッ! バタッ! バタッ! バタッ!』
「「えっ、えっ、何これ?」」
召喚者五人を、戦う前に魔法で眠らせた。
その結果、倒れてしまった召喚者に、女性陣は戸惑っている。
《闇属性魔法》のレベルを上げた事により、《睡眠》の効力が上がり範囲が広がった。
そして、任意に対象者を選ぶ事も、可能になった。
◇
「おい、君。何をしたんだ?」
「魔法で眠らせた」
僕は普段と口調を変え、答えた。
「そうか。杖も使わず、それに無詠唱だなんて凄いな。礼を言うよ」
「「「「ありがとう(ございます)」」」」
「いや、気にしなくていい。俺はこいつらの下衆さに、ムカついただけだ」
「そうか。君はいい奴なんだな。でも、こいつ等に手を出したからには、後々面倒な事になるぞ」
「大丈夫だ。後は俺が何とかする。あんた達は、この場を離れた方がいい」
「だが、君だけにこの件を押し付ける訳には」
「いなくなってくれた方が、俺にとって都合がいい」
「そっ、そうか。分かった。俺の名前は」
「あー、名乗らなくていい。俺も名乗らん。素性を知られて、迷惑を掛けたくない」
「聞いたら、ヤバいのか?」
「そういう事だ。このまま、去ってくれ」
彼らがいてはこの後都合が悪いので、言葉に含みを持たせ追い払った。
「それなら、俺達は行くぞ。世話になった」
「「「「ありがとう(ございました)」」」」
礼を言うと、探索者達は急いで去って行った。
◇
「さて、後はこいつらだ」
僕は召喚者達を見下ろしながら、魔法袋から《悪事矯正リング》を取り出した。
これは《コロネ子爵》に使おうと思って作った、《悪意を抱く》と《電気が流れる》という代物だ。
勿論、その悪意には《戦争参加》も含まれる。
こいつらは、コロネ子爵に負けず劣らず下衆である。
戦争への参戦を防ぐ為にも、人権を無視して躊躇無く使える。
「ん、待てよ。《足首》じゃ、外せるな」
リングは、足首に取り付けるつもりでいた。
しかし、不安が過った。
足首だと、切断してリングを取り外す事ができた。
「こいつらなら、魔法やエリクサーで直せる可能性がある。取り付けるのは、《首》にしよう」
首を切断したら、流石に死ぬ事になる。
考えが纏まると、リングに魔力を通し念じた。
『使用準備。拡大』
すると、リングが大きくなった。
「よし、これで大丈夫だ」
大きくなったリングを男の頭を通し首に掛け、再び念じた。
『縮小。動作開始』
リングは縮小し、首にピッタリのサイズになった。
リングを外すには、再び僕が魔力を通し、『解除』と念じる必要がある。
「よし、次だ」
残る四人にも、次々とリングを取り付けていった。




