第七話 ダニエル商会
まだ夕方前である。
とりあえず、副ギルド長に紹介してもらった支店に行く事にした。
辿り着いた店は、勇也さんに声を掛けられた雑貨屋だった。
「今日は、商業ギルドの副ギルド長から紹介してもらい来ました。支店長さん宛てに紹介状を預かってます」と、言って近くにいた店員に紹介状を見せる。
すると支店長は店にいるらしく、店員は知らせに行ってくれた。
ほどなくして店員は戻ってきて、応接室に案内してくれた。
応接室で待っていると、支配人は扉をノックして部屋に入って来た。
「《ダニエル商会》支店長のメゾネフです。お見知りおきを」と、言って軽く会釈した。
細身の長身で、壮年の品のいい紳士だった。
「ニコルといいます。今日は商業ギルドで商品を買い取ってもらったところ、副ギルド長にこちらを紹介されました。こちらが紹介状です」と、言って紹介状を差し出す。
紹介状を受け取って、支店長は中身を見る。
そして読み終わったのか、こちらを品定めするかのように見る。
「貴族街の本店のオーナーに紹介してもらいたいとありますが、それほどの品見せていただいてよろしいですかな?」
「はい。もちろんです」
そう言いながら魔法袋から《ボックスティッシュ》と、寄木細工と白い陶器に艶やかな花の絵をあしらった二種類のティッシュケースを出した。
その様子を見て、支店長は目を見開いた。
「魔法袋をお持ちとは、お若いのにやり手なのですかな?」
商業ギルドでは目立たないように出したので気付かれなかったが、メゾネフさんは直ぐに気が付いた。
「いえいえ、そんな事ないですよ」
「ご謙遜ですか。まあ、いいでしょう。それでは、商品を見せていただきます」
「はい。じっくり見てください」と、言葉を交わし時間が過ぎる。そして支店長が言葉を発する。
「すばらしい品です。これらのケースは、まさに芸術品です」
「ありがとうございます」
「それでこちらの紙の箱は、どういった用途に用いるのですかな?」
僕は《ボックスティッシュ》を開封し、中身のティッシュを一組取り出す。
「こちらは《ボックスティッシュ》と言いまして、主目的はハンカチーフの代用品です。鼻を咬んだり、ちょっとした汚れをふいたり、おやつのクッキーを包んだりできます。使い捨てですので、衛生的でもあります。寄木細工と陶器のケースは、こちらの《ボックスティッシュ》を入れて使います。御貴族様向けに、高級感を演出したものです」
「ほうほう、そうですか。こちらの方が、メインの商品でしたか。《ボックスティッシュ》の使い心地を試してみてよろしいですかな」
「どうぞ、どうぞ。遠慮なく使ってください」
「では、失礼」と、言って支配人は鼻を咬む。一回、二回、三回咬んで納得したような表情をした。
「すばらしい。これなら貴族街で売れるでしょう。肌触りが実にいい。そして、ニコルさんが言う通り使い捨てができ衛生的だ。オーナーに話しを通しますので、明日同じ時間に来ていただいてもよろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
「一つ確認ですが、こちらの商品はどれだけの数を卸せますか?」
「その時にならないとわかりませんが、《ボックスティッシュ》は一ヶ月千個は大丈夫です。ケースは五十個ずつですね。あとこちらの製造元に関してお教えできません。そして、私は行商人ですので王都を長期間離れる事もあり、供給がいつ止まるかわかりませんのでご了承ください」
「そうですか、分かりました。その事をオーナーに伝えます。それで、こちらの品は預からせていただいてもよろしいですかな? オーナーに現物を見てもらった方が話しが早いので」
「いいですよ」
「それなら、預り証を発行するのでお待ちください」と、言って席を立った。
しばらくして、支店長が応接室に戻ってきた。
僕は預り証を受け取って、店を後にした。
実は《亜空間収納》には、《ボックスティッシュ》は百万個くらいある。
ケースも二十種類で合計一万個くらいある。
あまり数があると分かると、値崩れしそうで少なく答えた。
それにしても、これを切欠にたくさん商品を扱ってもらえたらいいなと願う。
自分で売ったほうが一個の利益はでるけど、たくさん売りさばくのは難しいしね。
「さて、もう直ぐ日が沈むし借家へ行こう」
僕は借家へ向かった。




