第二十九話 やっぱり、味付けは大事だ
眠い目を擦り、ダンジョン探索者試験を受けた。
勿論、変装し偽名を使っている。
実技試験は見事合格し、今は講習会に参加している。
ダンジョンでの注意事項や運営の仕組みは殆どエステリア王国と同じだが、一点大きな違いがあった。
それは、『ドロップ品は、全て《ダン防》で買い取る』というのだ。
エステリア王国では、手っ取り早くお金になるのでダン防で売る人が多かった。
しかし、他で高く売ったり、自分達で食べる為に食材を持ち帰る人もいた。
僕みたいに売らずにたんまり溜め込んでる人は、珍しいと思う。
今のところ、食材や魔石以外は殆ど手付かずだ。
だが、今回の目的は勇者達なので、魔物の討伐は最小限に控えるつもりでいる。
一時間程で講習会は終わり、現金と引き換えにダンジョン探索者カードを受け取った。
◇
ダン防を出ると、一旦《亜空間農場》に戻った。
「ただいま」
「お帰りニャ!」
『お帰りなさいませ!』
「ご主人、変装を解くニャ!」
『解いてください!』
「ああ、そうだったな」
僕は二人から、『《亜空間農場》にいる時は、変装を解くように』と、約束させられた。
そんな訳で直ぐに腕輪を外し、《亜空間収納》にしまった。
「これで、落ち着くニャ!」
『その通りです!』
「ははっ。変装した姿は、二人の評判が悪いな」
僕は二人の拘りに、思わず笑ってしまった。
「試験、合格したぞ」
「そんなのご主人なら、当たり前ニャ!」
『当然です!』
その辺は、信用されているらしい。
「お腹空いたか?」
「空いたニャ!」
『空きました!』
僕は二人の返事を聞いて、食事の用意を始めた。
「ご主人の作るご飯は、美味しいニャ!」
『美味しいです!』
「ありがとな」
今日は、いつもより豪勢にした。
「ご主人は、食べないのかニャ?」
「うん。折角知らない土地に来たから、街で食べようと思うんだ」
「そうなんニャ。美味しいといいニャ」
「そうだな。けど、この国は食料不足だから、どうだろう?」
『それなら、ご主人様が食料不足をどうにかしたらどうですか? そうすれば、戦争が起きないかもしれません』
「流石に国の規模となると、無理だろ。村だってやっとなのに」
『ご主人様なら、大丈夫です』
大丈夫だとしても、『戦争を仕掛けてくる国に対して、やるべき事なのか?』と、思ったが口に出さなかった。
僕にはこの国の事情や政治的な事は、分からなかった。
そんな難しい事は置いといて、僕は再び変装し街に戻った。
◇
「ガーランド帝国のお金を残しても、しょうがないな」
エステリア王国にこの国のお金を持ち帰っても、使えなかった。
「ちょっと贅沢するか」
繁華街を歩いていると、庶民的なレストランを見付けた。
「よし、ここにしよう」
他の飲食店に比べ、高級な品がおいてありそうだったので入ってみた。
すると感は当たり、ダンジョンの街らしく、メニューに《レッドボア》のステーキがあった。
「勇也さん達と、食べたっけ。あの時は、本当美味しかった。みんな、今は何をしてるんだろう?」
エーテル街の酒場で食べた事を思い出し、黒パンとスープとエールを付けて、一万七千ギルの品を注文した。
先にエールを飲みながら待っていると、熱々の皿に乗せられてステーキが運ばれて来た。
「高いだけあって、美味しそうだ」
その見た目に、口内に涎が溢れた。
そして、ナイフとフォークでステーキを切り、期待を込めて口に運んだ。
「モグモグ、ゴクン。・・・・・味が薄い」
期待した分、その味付けにがっかりした。
肉質や火加減はいいのだが、昔のエシャット村のような味付けだった。
スープも、一口飲んでみた。
「一緒だ」
どちらも、塩味が少し感じられるだけだった。
「参った。この国は、みんなこんな味付けなのか? 流石に、あの頃に戻りたくないな」
《検索ツール》で調べてみると、食料不足は調味料にも現れていた。
それらをふんだんに使えるのは、一部の人達だけらしい。
僕は魔法袋から、塩と胡椒とニンニク醤油の瓶を取り出した。
スープに塩と胡椒を掛け、ステーキにニンニク醤油を掛けた。
『ジュワー』
ステーキ皿が熱々の為、蒸気を発した。
僕は再度、ステーキを口に運んだ。
「うん、美味しい。やっぱり、味付けは大事だ」
しかし、店にはニンニク醤油の匂いが、漂っていた。
「何か、いい匂いするな」
「本当だ」
「食欲が、そそられる」
「あの人の方から、匂うわ」
「どれどれ、クンクン。本当だ」
不用意に使ったニンニク醤油で、僕は注目を浴びてしまった。
その結果、落ち着いて食べられなくなった。
「ご馳走様」
「ありがとう御座いました」
僕は急いで食事を済ませ、店を出た。
「さて、帰ろう。そして、早く寝よう」
昨夜は遅くまでダンジョンにいたので、寝不足なのである。




