第二十六話 それぞれの動向、再び
国防の要《ノーステリア大公爵領》の領主執務室に、自領の放った諜報員から報告が届いた。
「王都の諜報部からの情報は、正しかったという事だな」
「はい。私共の諜報員からの連絡によると、『食料・武器・兵士の動きに、戦争の兆し有り』と、あります」
「開戦は、いつ頃になりそうだ?」
「どうも、秋頃に動き出しそうです」
「それも王都からの情報と、合致するな」
「王都には、優れた諜報員がいるのでしょう」
「我が領の諜報員も、優秀なのだがな」
「そうでございますね」
この情報はユミナの《未来視》があっての事なのだが、二人は知る由も無かった。
「先の戦争から二年も経たず、《魔王襲来》まで一年を切ったというのに。奴等は、何をトチ狂っておるのか?」
「はい。それで勇者達なのですが、ダンジョンを攻略しているとの事です。戦場に投入されるかは、今のところ不明です」
「そうか。王都からの情報が、間違っていればよいのだが」
「そうですね」
「それで、三十九人の勇者達は、どれくらい強くなったのだ?」
「勇者が率いる最強パーティーは、もう幾つかのダンジョンを攻略しています」
「そこまで強くなっているのか。我が国に、どれだけ対抗できる者がいるだろうか?」
「ここは、アレン殿に動いて貰わねば」
「そうだな。《勇者》に対抗しうるは、《魔王》を除くと《英雄》だろうな」
「はい」
「しかし、加勢してくれるかどうか?」
「そうですね」
「私から、『参戦依頼』の手紙を書く。探し出して、渡してくれ」
「分かりました」
「欲を言えば、我が領から巣だった王国騎士団員達や、ラングレイ伯爵やグルジット伯爵がいてくれれば良いのだが」
「その方達は、王都の守備の要ですからね」
「そうだな」
「しかし、大公爵様はその強さを凌ぐのでは?」
「何を言う。わしは、もう歳だ」
「いえいえ。まだまだ、お若いですよ」
「兎に角、戦争の準備を進めなければな」
「はい。各領主へ、その様に伝えます」
こうして、国境付近の領地でも、本格的に戦争の準備が進められた。
◇
一方、ガーランド帝国帝都の、勇者達に与えられた屋敷では。
「よー、戦争だってよ。どうする?」
「俺らなら、楽勝だろ。何てったって、勇者御一行様だからな」
「でもよー。ショッパナ《魔王》を殺せって言ってたのに、話しが違わねえか?」
「そんなの、どうでもいいんだよ! チート能力を、ぶっ放せりゃ!」
「キーヒッヒッ! 堂々と、人殺しができるぜ!」
「ギャハハッ! 皆殺しだ!」
「俺はもっと、贅沢してえな!」
「それなら、たんまり褒美を掠めねーとな!」
「爵位はどうだ?」
「おう、それいいな。ついでに、新しい女も追加だ!」
「おう、お前ら。国から奪える物は、全て奪うぞ。勿論、《皇帝の座》もな!」
こんな会話が、されていた。
◇
そして、ガーランド帝国帝都、皇帝城の会議室では。
「くそっ、勇者共め。爵位に金に私達の娘だと! 何と欲深いんだ。頭に乗りおって!」
勇者達の参戦の条件を聞いた皇帝は、頭にきていた。
「陛下、如何致しましょう?」
「あんな奴等に、姫はやれぬ。お前達の娘もだろ!」
「「「「「「「「「「その通りで御座います!」」」」」」」」」」
「では、《戦勝後》にエステリア王国の姫と、貴族の娘を差し出すとしよう」
「「「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」」」
「戦争に勝てば、国土も金も手に入る。爵位も金も女も、後払いだと伝えろ!」
「分かりました」
その後、物資や戦術その他もろもろを話し合い、会議はお開きとなった。
会議室には、皇帝と宰相だけが残った。
「奴らを召還して直ぐ、無理矢理にでも《隷属の首輪》を嵌めれば良かった」
「奴等の中に聡い者がいたのは、誤算でしたな」
「召喚して、いきなり指摘しおった。まだ、首輪を目にしてないのに」
「《テンプレ》とか、言ってましたな」
「ああ。だがあやつは、使い者にならんかった。警戒心だけは、強かったがな」
「邪魔なので帝都を《追放》しましたが、結局奴のせいで他の連中も警戒を強めましたな」
「ああ。今となっては、悔やまれる。やはり、我らの力だけで何とかならぬのか?」
「あの砦を越えるには、圧倒的な力で一気に攻め込まないと駄目です。長期戦になると、その後の戦況に響きます」
「そうか。だが、奴らを統率できるのか?」
「はい。ギルガメッシュ大将軍なら、勇者達を御せるかと」
「分かった。ギルガメッシュ大将軍に託そう」
「ご決断、ありがとう御座います」
こうしてガーランド帝国皇帝は、改めて勇者達の参戦を認めるのであった。




