第二十四話 突然の報せ、再び③
ソフィア様から《ユミナとの結婚》を迫られ、僕は動揺していた。
そして、ユミナにもその意思がある事を知り、更に動揺した。
それらは僕にとって、『戦争』と聞いた時以上の衝撃だった。
「ニコル君。ユミナちゃんは、結婚してもいいそうよ」
「ソフィア様。僕達はそういう関係じゃないし、いきなりそんな事を言われても」
「分かったわ。少し、考える時間をあげる。でも、ニコル君に断られたら、ユミナちゃんはどうなってしまうのかしら。多分、一生誰も愛せないわ。ああ、可哀想なユミナちゃん」
「うっ!」
逃げられないよう、ソフィア様は僕を追い込んでいった。
「あの、僕、もうそろそろ帰ります」
「あら、泊まっていけばいいのに」
「いえ。この後、用事があるので」
勿論、用事など無かった。
「あら、そうなの? それじゃ近い内に、またいらっしゃい」
「はい、失礼します」
何となく、嘘がバレているような気がした。
それでも、ソフィア様から逃れる為に、僕は立ち上がった。
「待って、ニコル君!」
『ビクッ!』
その言葉に驚き、僕は背筋を伸ばした。
「何かな?」
そして、ぎこちなくユミナの方を向いた。
「驚かせて、ごめんなさい。少しだけ、話しをさせて下さい」
「うっ、うん」
何て答えていいか分からず、僕は頷きそのままソファーに座った。
「お母様、席を外して下さい」
「あらあら、私はお邪魔なのね。それじゃ、またね。ニコル君」
「はい」
ソフィア様はユミナの要望に応え、大人しく応接室を出ていった。
◇
「ニコル君。突然こんな事になって、ごめんなさい」
「うっ、うん。少し、混乱してる」
「でも、お母様の言った事は、否定しません。じっくり考えて、その上で答えを聞かせて下さい」
「分かった」
今はまだ、どんな結論を出すか分からないが、改めて《返事の約束》をユミナと交わした。
「それと、《戦争》の件ですけど」
「うん」
「ニコル君が《ガーランド帝国》へ乗り込む時、私も連れて行って下さい!」
「えっ!」
「お願いします!」
ユミナはそう言いながら、胸の前で両手を握った。
「いやいや、駄目でしょ。何が起こるか分からない」
ユミナの《お願い》に抗えない僕だったが、今回は別だ。
「でも、私の能力があれば!」
「それでもだ!」
「私。いつもお願いするだけで、申し訳なくて」
「大丈夫、任せて。一人で何とかする!」
僕は真剣な眼差しで、ユミナを見詰めた。
暫く見詰め合いが続き、折れたのはユミナの方だった。
「分かりました。ニコル君に任せます」
「ああ、任せてくれ!」
「くれぐれも、気を付けてください」
「ああ、気を付ける。それじゃ、そろそろ帰るね」
ユミナに別れを告げ、僕はグルジット邸を後にした。
◇
平民街まで歩き門でチェックを受けると、寄り道をせず自宅に帰った。
「困った」
自宅に帰るなり、出た言葉がそれだった。
「ご主人。何を困ってるニャ?」
「戦争が、また起こるんだってさ」
《結婚話し》にも困っていたが、シロンの前では口にしなかった。
「何でご主人が、悩むニャ」
「ユミナから、『何とかして欲しい』って、頼まれたんだ」
「そんなの国が、何とかすればいいニャ」
「それはそうなんだけど、《ガーランド帝国》が《魔王討伐》の為に《勇者召喚》をしたんだって。それが、《日本人》を四十人もだぞ。
彼らをダンジョンで三年も鍛え、その内三十九人を戦場に送り込むらしい」
ユミナには『内密にして欲しい』と言われたが、猫相手なのでセーフである。
「それって、もしかして《クラス召喚》なのかニャ?」
シロンは以外にも、《クラス召喚》の事を知っていた。
「多分な」
「そいつら、強いニャ?」
「ユミナの《未来視》スキルだと、勇者は一人なんだけど国境の砦を突破するくらいは強いらしい」
「王国の危機ニャ! ご主人、どうする気ニャ?」
「それを、今悩んでたんだ」
「勇者達と戦うのかニャ?」
「人間同士の殺し合いは、したくないな。だからと言って、話し合いで解決できるかどうか。どちらにしても、戦争になる前に何とかしたい」
「もし戦ったら、勝てるのかニャ?」
「分からない。三年も鍛えてるとなると、僕でも危ない気がする」
ステータスの《職業》を元に戻したのは、痛手だった。
前回転職したのが四月初旬だったので、再度《ダンジョン探索者》に転職できるのが、六ヵ月後の十月初旬である。
それを待っていては、《ガーランド帝国軍》の侵攻が始まってしまう。
「ご主人の事が、心配ニャ」
シロンは、僕に体を擦り寄せて来た。
「《ガーランド帝国軍》が侵攻を始めるまで、まだ三ヶ月以上ある。その間に、対策を考えるよ」
そう言いながら、シロンの背中を撫でてやった。




