第二十三話 突然の報せ、再び②
ユミナはニコルと久し振りに会えた嬉しさを圧し殺し、真剣な面持ちで向き合った。
「今日は、エミリは来ないの?」
「はい。来ません」
「へー、そうなんだ」
ユミナの醸し出す雰囲気で、応接室に緊張感が漂っていた。
「ニコル君。お願いがあります」
今回の《お願い》は、隣国のスタンピードの時より切実に感じられた。
「いったい、何があったんだ?」
ニコルはそれに応じ、真剣に問い返した。
「私の《未来視》スキルで見た事を、聞いて下さい」
「《未来視》スキル? 分かった。聞くよ」
ニコルはこの時、『何かやばい事が、起きるんだ』と思った。
◇
ユミナから語られた内容は、近い内に起こる《ガーランド帝国軍》との《戦争》の事だった。
「《魔王討伐》の為に《勇者召喚》された三十九人の日本人が、戦争に利用されるのか」
「はい。この事は、内密にしてください」
「それは、約束する。でも、この事を僕に伝えて、それで終わりじゃないんだろ」
「それは・・・」
ユミナはここへきて、ハッキリと伝えられずにいた。
「ユミナが言いたい事は、理解してる。僕にどうにかして欲しくて、話したんだろ」
言い出せないユミナに、ニコルは自分から切り出した。
「私は卑怯です。自分の口で言わず、ニコル君に言わせるなんて。でも、どうするかは、ニコル君が決めて下さい」
ニコルはできる事なら、戦争に関わりたくなかった。
しかし、戦争での被害や自国が負けた時の事を考えると、そんな事を言ってられない。
エシャット村の為にも、ニコルは決意した。
「分かった。戦争が始まる前に、何とかしてみる。人間同士の殺し合いなんて、嫌だからね」
「ありがとう。ニコル君」
ユミナは自責の念に駆られ、涙を溢した。
「ユミナ、泣かないでくれ。誰か来たら、不味い!」
「ごめんなさい」
しかし、ユミナの涙は、暫く止まらなかった。
◇
やっとの事で、ユミナの涙が止まった。
「ごめんなさい。いつまでも、泣いちゃって」
「謝らなくて、いいよ。ところで、今日は伯爵様はいないの?」
「はい。お父様もこの件で、動いてます。諜報員からの第一報が、来たみたいなので」
「そうか。大変だね」
口ではこう言ったが、伯爵様に会わなくて済んで安堵した。
「それで、お父様が言うには、召喚者は元々四十人のよです」
「それって、《クラス召喚》の《追放》パターンかもね」
「何ですか、それ?」
「《小説サイト》の《テンプレ》だよ。一人無能と思われて王城から追放されるんだけど、実はそいつが主人公なんだ」
「そうなんですか。その辺の事に疎くて、ごめんなさい」
ユミナは前世で七歳の時に死んだので、《小説サイト》に興味を持つ年齢ではなかった。
「いや、こんな事を知ってる人は、前世でも少ないから」
「そうですか」
ユミナはニコルの知らない一面に触れて嬉しいのだが、《年代ギャップ》を感じていた。
◇
『トン! トン!』
話しが丁度途切れたところで、扉を叩く音がした。
「お邪魔するわね」
そう言って応接室に入って来たのは、伯爵婦人のソフィア様だった。
「ニコル君。お久し振りね」
「お久し振りです。ソフィア様」
「あら、ユミナちゃん。瞼が腫れてるけど、泣いたの?」
「いえ、お母様」
ユミナは否定したが、ソフィア様は疑い思案している。
「何があったか分からないけど、これはニコル君に責任を取って貰いましょう」
「「えっ!」」
「ユミナちゃんのお婿さんに、なって貰います」
「「ええーーー!」」
この突拍子もない発言に、二人は叫んだ。
「お母様! いきなり、何を言ってるの?」
「あら、私は本気よ」
「どうして?」
「ユミナちゃん。あなた、このまま縁談を断って、《シスター》になるつもり?」
「いえ、その」
「お母さんは、分かっているのよ」
ユミナは、黙り込んでしまった。
「ニコル君!」
「はい、何でしょう」
「あなたも、ユミナちゃんの気持ちに気付いてるのでしょう?」
「それは・・・」
「気付いてるのね」
「はい」
「だったら」
「お言葉ですが、僕には故郷に結婚を考えている娘がいます。それに身分の差も」
その言葉に、ユミナの顔が固まった。
「そうでしょうね。それだけのイケメンで、強くて経済力があるんですもの。婚約者の一人や二人や三人いたって、おかしくないわ。それに、ユミナちゃんの幸せを考えるなら、身分の差はこの際関係ないわ」
しかし、ソフィア様は動じなかった。
「結婚を考えているのは、一人なんですけど」
「そうなの? まあ、いいわ。ユミナちゃんの事も、よろしくね」
「いや、あの、その・・・」
「ユミナちゃん! あなたも、いいわね!」
「はい」
ユミナは、小声で小さく頷いた。




