第二十二話 ユミナの決心
ユミナは伯爵である父親に報告が済むと、自分の部屋へ戻った。
『お父様なら、何とかしてくれる』と思いつつも、不安は拭えなかった。
なぜなら、勇者達がエステリア王国軍を圧倒し、《ノースブルム大峡谷の砦》を突破する場面を《未来視》スキルで見たからだ。
「魔王を討伐する為に召喚した勇者達を、戦争の道具に使うなんて・・・・・」
召喚されたのは、日本のとある工業高校の生徒達で、俗に言う《クラス召喚》だ。
この世界に来て三年が経つので、日本にそのままいれば、高校を卒業している年齢である。
しかし、彼等は揃って札付きの悪の為、卒業できたか定かでない。
ユミナは同情していたが、彼等はそれに足る人物ではなかった。
帝国から貰える報酬や女を目当てに従った振りをし、強力な力を手にした事により、人殺しなど厭わないまでに増長していた。
そして、未知の存在の魔王と戦うより、人間相手の戦争なんて楽勝だと考えていた。
しかし、ユミナの《未来視》では、人物像やその背景まで詳しく映し出されなかった。
「どうしたらいい?」
ユミナは、自分に何ができるか考えた。
「ダメ。私一人では、何もできない」
だが、何も思い付かなかった。
『ハー』
ユミナは肩を落とし、溜め息をついた。
「ニコル君」
その時、ふとニコルの事を思い出した。
「ニコル君なら、何とかしてくれるかもしれない」
ユミナは、ニコルの強さを知っていた。
先の戦争で、ニコルが活躍し《英雄》の称号を得た事も。
「でもニコル君に、こんな事を頼んでもいいの? 命に関わる、危険な事かもしれないのに」
ユミナは、深く悩んだ。
悩む理由は、今回の件とは別にもあった。
『会いたい。けど、会えない』
ずっと、そんな想いを抱えていた。
『ニコル君は、故郷の村の為に頑張ってる。それに、貴族社会から距離を置こうとしている』
ユミナはニコルを呼び出す事で、迷惑が掛かると思っていた。
エミリが気を使って、ニコルを呼び出そうした事もあったが、それも断っていた。
ユミナは、悩んだ。
そして、悩んだ挙げ句、結論を出した。
「ニコル君に会おう。そして、ニコル君に判断して貰おう。お父様ご免なさい。約束を破ります」
ユミナは決心すると、手紙をしたためた。
◇
六月下旬になったが、コロネ子爵邸は相変わらず、解決の糸口が見付からなかった。
そして、調査隊の数は、徐々に減っていった。
減ったメンバーには、エリックとラルフも含まれていた。
一方エシャット村では小麦の収穫が終わり、その後の天日干し・脱穀・小麦俵作りも終了しようとしていた。
三日後には、《収穫祭》が行われる予定である。
ニコルはというと、いつものように王都に仕事に来ていた。
《お食事処やまと》に寄り、茶髪のカツラと伊達眼鏡を着けてダニエル商会に足を運んだ。
応接室に案内され待っていると、メゾネフさんが現れた。
「いらっしゃい、ニコルさん」
「こんにちは、メゾネフさん」
挨拶を交わすと、メゾネフさんはソファーに座った。
「ニコルさん。仕事の前に、こちらを渡しておきます」
そう言って、メゾネフさんから封筒を渡された。
「これは、何ですか?」
「グルジット伯爵家からの、お手紙です」
「えっ!」
「呼び出しだそうです」
「そうですか」
封を開け中身を確認すると、ユミナからの呼び出しであった。
『もう直ぐ夏休みだし、またあの話しかな?』なんて事を、思い浮かべていた。
その後仕事に戻り、商品の受け渡しをした。
やはり《ガラスの鏡》は既に売り切れているそうで、今回は約束通り多めに卸した。
お金を受け取ると、メゾネフさんは店先まで来て見送ってくれた。
「ニコルさん。グルジット伯爵家へ、伺って下さいね」
「分かってます。すっぽかしたりしませんよ。失礼します」
口ではこう言ったが、本心はあまり行きたくなかった。
心を落ち着かせる為に、いつものように喫茶店に寄ってから行く事にした。
◇
喫茶店で心を落ち着けたところで、グルジット伯爵邸に足を運んだ。
「こんにちわ。行商人のニコルといいます。ユミナお嬢様からお呼び出しがあり、参りました」
門番は話しを聞いていたらしく、通してくれた。
屋敷の中では、メイドさんが応接室に案内してくれた。
今日は学園が休日で、ユミナは屋敷にいるそうだ。
メイドさんがユミナを呼びに行き、その間待つ事になった。
久し振りに会うので、内心ドキドキである。
『トン! トン!』
「失礼します」
扉を叩く音がして、ユミナが入って来た。
「ニコル君、お久しぶりです」
「久しぶりだね」
「突然、呼び出してごめんなさい」
「別に、気にしなくていいよ」
目に写るその姿は、一段と美しくなっていた。
ユミナは目の前まで来ると、ソファーに腰を掛けた。
「ニコル君に、お願いがあるんです」
「もしかして、ダンジョン?」
「いえ、違います」
「えっ、違うの?」
『トン! トン!』
「お茶を、お持ちしました」
メイドさんがお茶を淹れると、ユミナは人払いをした。
お読みいただき、ありがとうございます。
当初からのストックを修正しながら投稿してきましたが、今後の修正が大きくなりそうです。
思い付いた案を織り交ぜたいのですが、まだ全然纏まってません。
投稿ペースが落ちると思われるので、ご了承ください。




