第二十一話 突然の報せ、再び①
夕方になり、その日の調査は打ち切られた。
そして、調査隊は一度王城へ戻り、責任者へ報告に行った。
「お前ら二人でも、駄目なのか?」
「情けない話しですが、その通りです」
そう報告するのは、エリックである。
「ここはもう、《宝剣》を試してみてはどうでしょう?」
そう進言するのは、ラルフであった。
「いや駄目だ。《宝剣》は、王城から持ち出せん。何かあったら、どうする?」
「ははっ、そうですよね」
「取り敢えず、明日も調査に同行してくれ」
「「分かりました」」
この日、調査隊は解散となった。
「エリック、飯食ってこうぜ」
「そうだな。腹減ったな」
王城には、有料だが食堂が完備されていた。
◇
「はー、美味かった。ここの飯は、相変わらず安くて美味いな」
「ラルフ。何、庶民のような事を言ってるんだ」
「跡取りじゃないからな」
「私も、そうなんだが」
「ところでよ。コロネ子爵邸での、内緒話しなんだが」
「そう言えば、まだ聞いてなかったな」
「あいつらの見解だと、《素行の悪い》奴だけ、閉じ込められてるんだとさ」
「そう言われると、思い当たる節はある。だが、ラルフが大丈夫だというのが、信憑性に掛ける」
「それは、お互い様だろ! だからよ。奴は罪の意識から、控えめに言ったんじゃないか?」
「《素行の悪い》ってところか?」
「ああ。例えば、《悪人》とか《罪人》だったら納得がいく」
「それじゃ、あの二人がそうだって言うのか?」
「程度は分からないが、そういう事になる」
「そうか。面倒だな」
二人はこの推測に、どう対応するべきか考えた。
「それで、どうするんだ?」
「さあな」
結局、結論は出なかった。
◇
エリックは自宅へ帰ると、父親の執務室へ訪れた。
「父上、入りますよ」
「ああ、入れ」
エリックはいつものように、ノックをせず執務室に入った。
「父上。コロネ子爵邸に、行って来ました」
「どうだった?」
「お手上げです。一筋縄じゃいきません」
「そうか、お前達でも駄目か。それでは、私が行こうか?」
「父上は、忙しい身です。興味があるのは分かりますが、諦めてください」
「エリックばかり、ズルいぞ!」
「子供みたいな事、言わないでください。ところで、父上」
「何だ?」
「屋敷に《結界》を張った人物は、《黒髪の男》らしいです。心当たりは、ありませんか?」
この時エリックは、『そう言えば、調査隊の責任者に報告し忘れた』と思っていた。
「犯人は、黒髪なのか?」
「ええ。警備兵が言ってました」
「そうか。上層部の会議で上がった話しなんだが、平民街で子供の誘拐が横行していた。しかし、子供達は黒髪の男によって、全員救出されたそうだ。それが、二週間程前の話しだ」
「そんな事が、あったのですか。偶然ですかね?」
「分からん。ただ、コロネ子爵は、以前から黒い噂が絶えなかった」
「怪しいですね。推測ですが、屋敷から出られない輩は、その黒い噂に関係がありそうです」
「何! そんな《特殊な結界》なのか?」
「恐らく」
「悪事の証拠は、見付けられるか?」
「いえ。屋敷では警備兵が、ピッタリ付き添ってます。誘拐された子供がいないとなると、裏帳簿でも見付けないといけませんね」
「そうか。危険を冒してまで、無理しなくていいぞ」
「分かりました。悪さができないよう《結界》を解除しない方が、いいかもしれませんね」
「そうだな」
「「ハハッ!」」
二人は思わず、笑ってしまった。
◇
『キー! バタンッ!』
「失礼します!」
執務室に、ユミナがいきなり入って来た。
「お父様!」
「どうした? そんなに慌てて」
「《未来視》スキルで、突然見えたんです!」
「何を見たんだ?」
「せっ、せっ、《戦争》が起きます!」
「「何だと!」」
「ユミナ! それは本当か?」
「ええ、エリックお兄様。再び、《ガーランド帝国》が侵攻して来ます!」
「ユミナ、詳しく聞かせてくれ!」
「はい!」
『スーハー』
ユミナは落ち着く為に、一度深呼吸をした。
「帝国は《異世界から召喚》した《勇者達》三十九人を、戦争に利用し攻めて来ます」
「なっ! 勇者を三十九人も、召喚したのか?」
「エリックお兄様、勇者は一人だけです。ですが、他の者も協力なスキルや魔法を有してます」
「勇者召喚の情報なら、私も知っている。三年程前に偶然にも四十人を召喚し、ダンジョンで鍛えているそうだ。しかし、《魔王襲来》に供えて準備しているものだと、ずっと思っていた」
「一人、少ないな。ユミナ、三十九人で間違いないか?」
「はい。その部分は、はっきり見えました」
「そうか。それで、いつ攻めて来るんだ?」
「十月に入って直ぐ、進軍を開始します」
「来年の今頃には魔王がやって来るというのに、何でまた?」
「食料がいつにも増して、不足するようです」
「そう言えば、帝国はずっと食料不足だったな」
「ユミナ。軍の規模は、どうなんだ?」
「およそ、十万人です」
「多いな」
「父上。どうするんですか?」
「ガーランド帝国に、王国や私の諜報員を忍ばせてある。連絡を取り、探らせよう。何の証拠も無く、軍は動かせんからな。この件は、他言無用だ。勿論、ユミナの能力の事もな」
「「はい!」」
突然の報せにグルジット伯爵とエリックは、コロネ子爵邸の事など、頭から吹っ飛んでしまった。




