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第二十話 コロネ子爵邸の調査

ユミナの兄エリックがエミリの兄ラルフを、強引に屋敷に連れ込んだ。


「大丈夫だって、五人中三人は戻ってこれたんだから」


初日に五人の調査隊が屋敷に入り、その内二人が出られなくなった。

それ以降、他の調査隊の腰が引けて、最初の五人以外屋敷に入る事は無かった。


その後、全く進展が無いので、優秀なこの二人に白羽の矢が立った。

エリックが魔法省の魔法研究所から、ラルフが騎士団の特殊部隊からそれぞれ派遣された。


「ほら、一度外に出るぞ」


「おい、待て!」


二人は何の抵抗も無く、屋敷の外に出られた。


「なっ、大丈夫だったろ」


「『大丈夫だったろ』って、お前。もし出られなかったら、どうすんだよ!」


「そん時は、そん時だ」


「おいおい!」


二人は出入りできる事を確認し、改めて屋敷に入った。



「よし。ラルフ、向こうだ」


「おい、エリック。待て!」


「お二人共、勝手に屋敷を歩き回られては困ります」


「何を言ってるんだ。この状況を解決する為に、私達を呼んだのだろう」


「しかし、旦那様の許可がないと」


そこへ、二人の警備兵が現れた。


「おい、メイド。この二人は、誰だ?」


「調査隊の方です」


「許可無く入れたのか?」


「すみません」


「おい、許してやってくれ。私達が、無理矢理入ったんだ」


「いや。俺はこいつに、強引に連れて来られた」


「ラルフ。何被害者ぶってるんだ」


エリックは『私一人に、罪を押し付けるな』と思考し、ラルフは『お前が全部悪い』と思考していた。



「仕方ない。兎に角、勝手に動き回られては困る。あんた達には、俺達が付き添う」


「調査させてくれるなら、それで構わない」


「お前はもういい。向こうへ行ってろ!」


警備兵は少し切れ気味に、メイドに言った。


「はっ、はい!」


その言葉に、メイドは逃げるようにその場を去った。


「それで、屋敷の中で何を調べるんだ?」


エリックは、顎に手をやり考えた。


「そうだな。報告は聞いてるが、取り敢えずあんたが知ってる事を聞こうか?」


「俺が知ってるのは、『黒髪の男が犯人』という事だけだ」


「黒髪? 他には?」


「知らん」


この警備兵は他にも気付いていたが、言わなかった。


一つは、屋敷の外に出られる人間と、出られない人間の差。

そしてもう一つは、この《結界》は誘拐に対する、黒髪が課した制裁だという事を。



「誰かに、恨まれる覚えは?」


「さあな。だが貴族なら、多かれ少なかれあるんじゃないか?」


「そうだな。それじゃ、出られなくなった調査隊は、何をしてる?」


「そいつ等は、客室にいる。お手上げのようだ」


「何だって! 仕事をしないで、休んでるのか?」


「ああ。連れて行ってやる」


「そうだな。頼む」


エリックとラルフは、警備兵の後を付いて行った。



客室では、二人の男がソファーに座っていた。


「よう」


その内の一人は、ラルフの知り合いだった。


「なっ、お前まで入って来たのか?」


「入って来たら、何か不都合な事でもあるのか?」


「いや、別に」


客室にいた二人は、気まずい雰囲気を醸し出していた。



「何か、分かったか?」


「いや、何の糸口も掴めん。もう、諦めた。他の連中も、出て行ったしな」


「薄情だな」


「しょうがねえよ。でもよ、一つ気になる事があるんだ」


「何だ?」


「いや。大きな声では、言いづらい」


その時、警備兵が目を細めた。


「勿体ぶらなくていいから、言えよ」


「ちょっと、耳を貸せ」


「嫌だよ、気持ち悪い」


「いいから」


そう言って、男はラルフを部屋の隅に連れて行き、耳元で囁いた。



「ごにょ、ごにょ、ごにょ、ごにょ」


「何、本当なのか?」


「屋敷の人間を観察していて、俺達が屋敷から出られない共通点と言ったら、そこに行き着いた」


「そうか、分かった。後で、じっくり聞いてやる」


「大目に見てくれよ」


「内容によるな」


「ラルフ。話しが済んだなら、もう行こう」


エリックが、少しじれていた。


「ああ。お前達は、どうする?」


「俺達は、多分役に立たない。優秀な二人で、頑張ってくれ」


「分かった。そうする」


たいした情報も得られず、二人は客室を後にした。



「ラルフ。何を聞いたんだ?」


「ああ。たいした事じゃない」


実は先程の男から、『屋敷から出られない奴は、共通して《素行が悪い》』と、聞かされていた。

しかし、直ぐ横に警備兵達がいたので、誤魔化してしまった。


「そうなのか? そんな風には、見えなかったが」


「それより、どこを調査する?」


「そうだな、屋上を見てみるか」


エリックには何の根拠も無かったが、それに警備兵が応えた。


「屋上か? まあ、いいだろう」


二人は再び、警備兵の後を付いて行った。



その頃、コロネ子爵邸には、静かに忍び寄る影があった。


「今日も、誘拐された子供はいないな」


あれからニコルは、一日に一回様子を窺いに来ていた。


それとは別に、王都では誘拐事件が収まった事とコロネ子爵邸で起こっている事を、関連付ける噂が出始めていた。

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