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第十九話 コロネ子爵邸とその噂

六月に入り一週間が過ぎた頃、エシャット村では小麦の収穫が始まった。


村人達は《乗用収穫機》や《乗用荷車》の扱いは慣れたもので、昨年以上の早さで収穫が行われた。


「ニコルにいちゃん、すごいね。こんなのはじめてみた」


「そうだろ。ルークも、今度乗ってみるか?」


「いいの?」


「ああ。仕事の邪魔に、ならない時にな」


「やったー!」


前世でもそうだったが、男の子は乗り物に興味を示す事が多かった。


今日は村の一大行事である小麦の収穫を、ルークに見せていた。



一方、コロネ子爵邸はというと、二週間が過ぎた今でも状況は変わらなかった。


「えーい忌々しい! まだ、何とかならんのか!」


「はい、そのようでございます」


「《闇オークション》に出品できないわ、王城での仕事が滞るわ、このままでは我が子爵家は立ち行かなくなるぞ」


「その通りで、ございます」


「だったら、調査隊をもっとけし掛けろ!」


「ですが、散々催促はしてございます」


「いいから、行け!」


「はい、畏まりました」


筆頭執事は、『急かしても、どうにもならない』と思いながらも、主人の命令に逆らえなかった。



その頃のアルフォードはというと。


「アルフォードお兄様、私は学園に行きたいです」


「僕もです」


「ええい、私が外に出られないんだ。お前達も我慢しろ!」


「「そんなー!」」


学園の中等科と初等科に通うアルフォードの妹と弟は、屋敷から出る事ができた。

しかし、父や兄の命令で、屋敷に篭っていた。



「アルフォード、いいではないの。二人を、学園に行かせてあげましょ」


「母上。二人が学園に行ったら、内情を根掘り葉掘り聞かれてしまいます」


「隠しても、いづれ分かってしまうわ」


「貴族である我々が、何者かに幽閉されてるのですよ。これは、コロネ家の恥です」


「でも、私もいいかげん出たいわ」


実はアルフォードの母親も、屋敷から出る事ができた。


「お願いします。母上! 大人しく、屋敷にいてください」


「どうしましょう」


アルフォードは家族に対してまで、理不尽な事を言っていた。



屋敷の外では、王城から来た調査隊や各分野の専門家でさえも、解決できないでいた。


「*****、*******、*****、*******、*******、結界解除!」


『・・・・・』


「*****、*******、*****、*******、*******、結界破壊!」


『・・・・・』


「何度やっても、変化無しか。込められてる魔力が、尋常じゃないな」


「もう、無理だって。俺のミスリルの剣での必技さえも、歯が立たない。どうにもならないぜ」


「いや、諦めたらそこで終わりだ」


「また、お前の魔法馬鹿が発動したな。付き合ってらんねーぜ」


「何を言ってる。こんな面白いものを、前にして」


「だから、馬鹿だっつてんだ。これはもう、宝物庫の《宝剣》を持ち出すしかないんじゃないか? 『結界を切り裂く』って、言われてるだろ」


「こんな事に、《宝剣》を持ち出せんだろ」


「それもそうだな。だったら、魔力が切れるのを待つしかないな」


「俺は、諦めん!」


この二人は、今日初めて現場に召集されたユミナとエミリの兄である。



二人が手を拱いていると、玄関からメイドが出て来た。


「あのー。お忙しいところ、すみません」


「何だ?」


「子爵様から、急ぐようにと言付かってまいりました」


「急げと言われても、今のところ打つ手が無いんだ」


「はー、そうですか?」


メイドは、それ以上何も言えなかった。



「おいっ! 屋敷の中に入るぞ!」


「お前出られなくなるかもしれないのに、屋敷に入るって馬鹿なのか?」


実は調査隊の内二人が、既に屋敷から出られなくなっていた。


「真実を確かめるには、必要だろ!」


「やっぱり、馬鹿だな」


「中からなら、何とかなるかもしれない」


「それは、否定できないが」


「いいから、お前も付き合え!」


そう言って、二人は屋敷に入っていった。



王国学園魔法科二年生の教室では、こんな会話がされていた。


「アルフォード・コロネの奴、病気だとか言って休んでたけど、やっぱり家から出れなくなったんだってさ」


「思った通りだな。しかし、屋敷から出られる人と出られない人がいるなんて、変な《結界》だな」


「本当にな」


「でも、未だに解除できないって、よっぽどだな」


「ああ。いったい、誰の仕業なんだ?」



それを聞いていた、エミリとユミナ。


「ざまー無いわね。ずっと、閉じ込められていればいいのに。ユミナも、そう思うでしょ」


「ノーコメント」


「あら、本当は良かったと思ってるんでしょ」


「ノーコメント」


「付き纏われなくて、いいじゃない」


「ノーコメント」


こんな会話が、されていた。


噂はその内無くなるが、コロネ子爵が屋敷から出る事は当分無かった。

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