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第十五話 ニコルの嫌がらせ

地下牢の子供達がいなくなった日の夜、子爵が王城での勤めを終え、屋敷に帰宅した。


「お帰りなさいませ。旦那様」


筆頭執事が、慌てて子爵を迎えた。


「ああ、ご苦労」


「緊急で、御報告する事がございます」


「何があった」


「こちらでは、申し上げにくい内容でして」


「分かった。私の部屋で聞こう」


子爵と筆頭執事は、直接子爵の執務室へ向かった。



「何だと! 《闇オークション》に出す子供が、いなくなっただ!」


「申し訳ありません」


「いったい、どういう事だ!」


「侵入者で判明しているのは、黒髪の男一人です。そいつが屋敷裏と牢屋の見張り三人の意識を奪い、その後は痕跡も残さず子供達を連れ去ったようです」


「たった一人で痕跡も残さず、どうやって連れ出せるというのだ。目撃者はおらんのか?」


「はい。残念ながら」


「くそっ! いったい、どこのどいつだ! 子供が用意できなくては、わしの面子が立たん。探し出して、連れ戻せ!」


「はっ!」


「それと、屋敷の警備を厚くしろ!」


「畏まりました!」


筆頭執事は、そそくさと執務室を出ていった。


「犯人は、黒髪の男と言っていたな。私の知る限り、勇者とミーシャを拐ったガキの二人だけだ」


黒髪は、この国では珍しかった。

偶然にも子爵がニコルと出会った時、黒髪のカツラと黒縁の伊達眼鏡を着けていた。


「あのガキは、逃げ足は速かったが論外だな。すると、勇者が戻ったとでもいうのか? それとも、別の勢力?」


子爵はいろいろと思考を巡らせたが、結局結論に至らなかった。



その日の夜のニコル邸。


ニコルは、ベッドの中でいろいろと考えていた。


『僕に貴族を裁く権利が、あるのか?』


『いいや。只の村人の僕に、その権利は無い』


『それなら、正義の見方にでも、なるつもりなのか?』


『いいや。そんな面倒な役回りは、御免だ』


『それでは、アルフォードにやられた仕返しを、したいだけなのか?』


『いいや。奴の理不尽さには呆れるが、僕と奴との間には力の差があり過ぎる』


『では、僕が今からしようとしている事は、何の為だ?』


『・・・・・《異世界のんびり生活》』


考えたあげく出た答えは、これだった。


『僕の活動範囲で誘拐事件が起こっているのに、悠長にのんびりできる筈がない』


『再び誘拐なんかされては、また助けに行く破目になる』


『僕がのんびりする為に、子爵には少し大人しくして貰おう』


『これから行う事は、《裁き》ではなくちょっとした《嫌がらせ》なんだからな』


そしてついには、そんな勝手な事を、自分の中で定義付けてしまった。


しかしそれは、やられた方からしたら、《只の嫌がらせ》では済まなかった。



数時間が過ぎ、深夜になった。


「ムニャ。ご主人、着替えてどこ行くニャ」


「ちょっと、子爵のところにな」


夕食前、シロンには子供達の誘拐の件は説明した。


「あんな奴放っておいて、寝た方がいいニャ」


「いや。あいつら放っておくと、同じ事を繰り返す気がするんだ」


「ご主人も、いろいろと大変だニャ。シロンは眠いから、一人で頑張ってニャ。」


「ああ。元々一人で、行くつもりだ」


「おやすみニャ」


「ああ、おやすみ」


僕はシロンに顔が見えないよう背を向け、魔法で前世の自分に《変装》した。


そして、次の瞬間《転移》した。



転移先は、子爵邸の庭である。


「昼間に比べて、警備が増えたな」


目に付くだけでも、五、六人庭を見回っていた。

屋敷の裏口も、三人に増えている。


「まあ、いっか。さっさと、終わらそう」


僕は人目につかないよう裏口でも玄関でもなく、屋敷の横に移動した。


そして、壁に両手をつき、錬金術を使った。


「《属性付与》《結界》」


そう呟き、膨大な魔力を屋敷に流し、結界の条件を構築していった。

屋敷はその間、白い光りに包まれた。


「なっ、何だこの光りは!」


「いったい、何が起こってる!」


「原因を調べろ!」


屋敷の警備兵は異様な光景に驚きつつも、その原因を探った。



錬金術を使って、数十秒後。


「よし、結界を付与できたぞ。名付けて、《悪人ホイホイ》だ」


ネーミングはともかく、ちょっとやそっとでは解除できない、強力な結界を屋敷に付与した。


《結界属性魔法》を使用しないのは、レベル1のままだと複雑な条件を設定できないからだ。


錬金術なら、僕の思考によるところが大きいので、それが可能だった。

しかし、魔法に比べ錬金術で使う魔力量は、桁違いである。


今回屋敷に施した設定は、『屋敷に入るのは自由だが、悪人は出られない』というようなものだった。


その基準はあくまで僕の思考によるもので、よっぽど酷い事をしてなければ出入りできる。



「ここまでやれば、誘拐なんかしてる余裕はないよな」


念の為屋敷を調べたが、誘拐された人はいなかった。


「お前、そこで何してる!」


「やばっ!」


「こいつ、黒髪か?」


『どうしよう?』


こいつを、倒すか逃げるか一瞬悩んだ。


「怪しい奴が、いたぞー! 黒髪だー!」


その声に、警備兵が集まり始めた。


「面倒だ。逃げよう」


僕が逃げると、警備兵が追い掛けて来た。


「おい、待て。この野郎!」


そんな事を言われて、素直に待つ奴はいない。


『だけど、ゆっくり走ってあげよう』


僕はある事を思い付き、付かず離れずの距離を保ち、敷地を囲うフェンスまで逃げた。

そして、高さが三メートル程ある《剣先フェンス》を、一気に飛び越えた。


「「「「「「「「なっ!」」」」」」」」


これは、昼間どうやって逃げたか、印象付ける為である。

万が一にも、《転移魔法》だと悟られたくなかったのだ。


「急げ、門から出て追うぞ!」


「「「「「「「おうっ!」」」」」」」


警備兵で同じ芸当ができる者は、いなかったようだ。


僕は人目に付かない場所まで移動すると、《転移》でその痕跡を消した。

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