第十一話 子供達の救出
子供達の救出が第一だが、身バレは避けたかった。
一度地下牢から脱獄している身なので、疑われては困る。
バレでもしたら、僕との関係からエミリとユミナに迷惑が掛かるかもしれない。
今回は、それだけの事をするのだ。
ちなみに、今変装している姿は、前世で死ぬ前の自分だった。
「後は、目撃者が必要だな」
面倒だが、わざと目撃者を作る事にした。
◇
屋敷の裏口には、男が一人立っていた。
「おい、お前! 人攫いを追っていたら、ここに辿り着いた。今直ぐ、屋敷に入れるんだ!」
一応、声質と口調を変えて喋っている。
「なっ、どこから入りやがった!」
『ドスッ!』
「うっ!」
鳩尾を一発殴ったら、男は意識を失ってしまった。
一応、手加減はしている。
「第一目撃者、完了」
その後、男を木の影に隠し、鍵を奪って屋敷に侵入した。
屋敷の中では、人に出くわす事無く階段室まで辿り着いた。
「裏口の方は、あまり人が近付かないようだな」
そう呟きながら、扉の取っ手に手を掛けた。
『ガチャ、ガチャ!』
「鍵か、いいや壊しちゃえ」
すると、鍵の部分に手を翳し、錬金術で破壊してしまった。
《無属性魔法》の《開錠》を使わなかったのは、前回囚われた時に使ったからである。
扉を開け階段を降りると、子供達が囚われている地下二階の扉の前に辿り着いた。
扉の向こうには、見張りが二人と牢屋に子供が十人いる。
『さて、どうやって入るか』
扉を鑑定してみると、鍵は内側と外側の両方に付いていた。
外側は開いているようだが、中からは鍵が掛かっている。
侵入方法はいろいろあったが、僕が選んだのはこれだった。
◇
『ドン! ドン!』
「おい、開けてくれ。ガキを連れてきたぞ!」
「おっ、またか。今開けるから、待ってくれ」
『ガチャ!』
『ギー!』
鍵が開けられ、扉がゆっくり開いた。
「お前、誰だ? それに、ガキなんかいねえじゃねえか!」
「ちっ、バレたか」
「おい! こいつ、怪しいぞ!」
「そうだな。捕まえるぞ!」
「「うぉりゃー!」」
『ドスッ!』
「うっ!」
『ドスッ!』
「うっ!」
ワンパターンではあるが、鳩尾を殴り意識を飛ばした。
「第二・第三目撃者、完了」
そして、男達から鍵を奪った。
牢屋の前まで行くと、男の子と女の子が向かい合わせの部屋で、別々に五人ずつ入れられていた。
子供達は床に座りながら、不安な顔で黙ってこっちを見ている。
見張りと争っていた声や音は、聞こえていた筈だ。
『ガチャ!』
『ギー!』
「《睡眠》」
牢屋の鍵を開けて中に入り、まずは男の子を眠らせた。
『ガチャ!』
『ギー!』
「《睡眠》」
続いて、女の子も眠らせた。
「《転移》」
そして、次の瞬間転移した。
◇
「おい、お前達起きろ!」
子供達の《睡眠》を解除して、起こしてやった。
「あれっ、ここはどこ?」
「ここは、平民街の空き地だ。俺は、お前達を助けてやった」
「たすかったの?」
「そうだ。助かったんだ。お前は、自分の家の場所は分かるか?」
「わかんない」
「そうか。それじゃ、一緒に探そう」
「うん!」
「他の奴らはどうだ?」
「「「「「「「「わかんなーい!」」」」」」」」
子供達は、首を横に振って答えた。
どうやら、今いる場所が分からないらしい。
「ボク、かえるばしょがない」
「んっ、親はいないのか?」
「うん。しんじゃった」
「今まで、どこにいたんだ?」
「スラム」
「そうか。それじゃどうするか考えるから、みんなを家に帰すまで待ってくれ」
「うん」
身寄りの無い子がいるとは思わず、直ぐに答えが出せないでいた。
◇
「お前ら、お腹は空いてないか?」
「「「「「「「「「「すいたー!」」」」」」」」」」
「そうか、何か食べさせてやる。その前に、体を綺麗にしよう」
子供達に《清浄》の魔法を掛けて、綺麗にしてやった。
「わー、綺麗になったー!」
「ほんとだー!」
「わーい!」
「ついでに、《初級回復》も掛けてやる」
そう言って、《初級回復》の魔法を全員に掛けてやった。
「あれっ! ぶたれたところが、いたくないや」
「わたしもー!」
「ぼくもー!」
あいつらは、幼い子供に手を上げていた。
「くそー、あいつら!」
もっと痛め付けておけばよかったと、後悔した。
魔法袋から、シロップの掛かったパンケーキとホットミルクを取り出し配った。
「お前達、食べていいぞ。腹が減ってたら、歩けないからな!」
「「「「「「「「「「うん!」」」」」」」」」」
子供達はフォークを握り、パンケーキを食べ始めた。
「おいしー。こんなのはじめてたべたー!」
「おいしーね!」
「おー、うめー!」
「お代わりもあるぞ。欲しい奴は言ってくれ」
「ほしいー!」
「わたしもー!」
「ぼくもー!」
「みんなの分あるから、大丈夫だ」
「「「「「「「「「「やったー!」」」」」」」」」」
◇
パンケーキを食べ終わったところで、子供達の家を知っている範囲で聞いた。
それを地図に設定して、近い順に回る事にした。
「よし。これから順番に、家に送るからな!」
「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」
子供達の家は、繁華街から外れた住宅街にあった。
平民の中でも、中流層の家庭のようだ。
順番に子供達を送り、いよいよ最後の子になった。
「ボクのうち、こっちだよ!」
「そうか」
家の近くまで来ると、子供達はみんなホッとしていた。
「ここだよ!」
「そうか。早く、家族に顔を見せてやれ」
「うん!」
「じゃあな」
「ありがとう!」
家に入るのを見送ると、直ぐにその場を離れた。
今回、どの家族とも顔を合わせなかった。
事情はいろいろあるのだけれど、その説明は敢えてしない。
「さて、どうするか」
身寄りの無い子供が、まだ一人残っていた。




