第八話 新商品の商談
子爵邸を出ると、敷地にある木に隠れ《転移》して自宅に帰った。
「シロン、ただいま」
「ご主人、お帰りって、その服どうしたニャ!」
シロンの指摘で服に視線を移すと、鞭で打たれた痕があり所々擦り切れていた。
「ああ、ちょっとな」
「ちょっとって、何ニャ。それに、メス猫の臭いがするニャ!」
「ごたごたに、巻き込まれたんだ」
「何でメス猫が、ごたごたに関係するニャ?」
「大した事じゃ無いから、気にするな」
「気になるニャ! まさか、メス猫を連れて来たニャ!」
「おいおい、またヤキモチか? 猫なら、いないぞ」
「モフモフがしたいなら、シロンだけすればいいニャ!」
「まったくシロンは、ヤキモチ妬きだな。ほら」
僕はシロンの頭を、撫でてやった。
「メス猫の臭いがするニャ!」
シロンがうるさいので、《消臭》の魔法で臭いを消した。
そして、擦り切れた服も、錬金術で直してしまった。
「そらっ! これならどうだ」
『モフモフ、モフモフ、モフモフ、モフモフ、モフモフ』
「フニャー。もっと、もっとニャー!」
望み通り、気の済むまでシロンをモフモフしてやった。
◇
翌日、ダニエル商会に足を運んだ。
すると、タイミング良くメゾネフさんが店先にいた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あれ? ニコルさんですか?」
「ええ、そうです。ちょっと、事情がありまして。もしかしたら、ご迷惑を掛けるかもしれないので、その対策です」
「理由を、お聞きしても?」
「いえ。知らない方が、いいと思います」
「そうですか。分かりました。ニコルさんが仰りたくないのでしたら、追及しません」
「お心遣い、ありがとうございます」
昨日の件が原因で、茶髪のカツラと伊達メガネで変装していた。
地毛が金髪なので、パッと見僕だと分からない筈である。
アルフォードにどこで出くわすか分からないので、王都に来る時はこの格好でいる事にした。
「ニコルさん。ダニエルオーナーも、鏡には驚いてましたよ。今日は、こちらに来てます」
「そうですか。気に入っていただけたようで、安心しました。ダニエルさんが態々来るという事は、金額にも期待できそうですね」
「ええ。ニコルさんに、納得していただけるよう努力します」
「よろしくお願いします」
メゾネフさんは店員を呼び付け、応接室を用意するよう指示した。
僕は待ってる間、『ダニエルさんに会うなら』と言って、カツラと伊達メガネを外した。
◇
店員が戻り応接室に案内されると、そこにはダニエルさんが待っていた。
「お待ちしてました。ニコルさん」
「お久しぶりです。ダニエルさん。いつも、ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそニコルさんのお陰で、繁盛してますよ」
「それは、言い過ぎじゃないですか」
「そんな事ありません。本心です」
ダニエルさんに勧められ、僕とメゾネフさんもソファーに座った。
「それにしても、ニコルさんの扱う製品は、どれも素晴らしい技術ですな。一体、どうやって作ってるのやら」
「ありがとうございます。しかし、仕入れ先や製法は、教えられませんよ」
「ははっ、分かってますよ。今回のガラスの鏡も、透明度・平面度・反射度どれを取っても素晴らしいので、気になっただけです」
「それは、嬉しい評価ですね」
ちなみに、強度も結構あったりする。
「それに、トランプの統一された絵柄も素晴らしい。私は、孫とよく遊んでますよ」
「私のところもです。子供達は、トランプ遊びに夢中です。それでいて、ルールを覚えるのが早いんですよ」
「ははっ。楽しんでいただけて、僕も嬉しいです」
久しぶりにダニエルさんに会った事もあり、この後も暫く世間話しが続いた。
◇
そして、いよいよ本題の商談になった。
「それで、数はどの程度、卸していただけるのですか?」
「そうですね。手鏡は月に三十個。壁掛け鏡の上半身用は二十個。全身用は十個というところですね」
「ほー、そうですか」
「これなら」
「そうだな」
ダニエルさんとメゾネフさんが、ひそひそと話し出した。
数はもっと出せるのだが、いつものように控えめにした。
ダニエルさんが、この数に満足しているのかいまいち分からない。
「いかがですか?」
「ああ、失礼。贔屓にしていただいてる貴族の方に、足りるか心配だったんですよ」
「そうですか。それで、足りました?」
「今回だけの取引では、無いのでしょう? 上手く調整しますよ」
「よろしくお願いします」
「それで、金額の方ですが」
「はい」
ダニエルさんから提示された金額は、手鏡が十五万マネー。
壁掛け鏡の上半身用が、四十万マネー。
全身用は、百万マネーだった。
今回も僕が想定した金額の上を提示してくれたので、そのまま了承した。
数は先程提示した分を、卸す事になった。
その後、商品を渡して代金を受け取ると、商談は終わった。
「どうもありがとうございました」
「来月も、頼みますよ」
「はい、分かりました。それでは、失礼します」
僕は礼を述べて、ダニエル商会を後にした。
売り上げ金額は二千二百五十万マネーにもなり、ダニエル商会との取り引き金額が、また増えてしまった。




