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第六話 ニコル、拉致られる

僕は二人の屈強な男に、腕を捕まれてしまった。


この時点で、僕達は店員や客から注目を浴びていた。


「あのー。店内での揉め事は、ご遠慮願えませんか?」


「分かっている。こいつは、知り合いだ。個室に案内しろ」


「はー、そうですか」


店員は、『チラッ』とこちらを見た。


僕がここで否定したら、店員を巻き込むんじゃないかと思い、小さく頷いた。


「それでは、ご案内します」


僕達は店員に案内され、個室に移動した。



僕を捕まえるよう命令した青年は、席に着くと一人分のケーキと紅茶を注文した。


そして、店員が部屋を出ると、僕に向き直り言葉を発した。


「やっと捕まえたぞ、虫けら。よくも、散々逃げてくれたな。今日こそ、地下牢にぶち込んでやる。覚悟しろ!」


僕を虫けら扱いするこの青年は、ユミナに気があるいつぞやの子爵家嫡男だった。

名前は確か、アルフォードのはずである。


未だに僕の事を覚えてるとは、随分恨まれてるようだ。


「そんなー、僕は何もしてないじゃないですか」


「何もして無いと、どの口がほざく。貴様が逃げるから、こっちは長い事探したんだ。逃げた期間、罪は重なる。貴様には、不敬罪と逃亡罪が適用する」


「酷い。そんなの横暴だ!」


『ボフッ!』


「うぐっ」


「口の利き方を、慎め!」


僕が抗議すると、従者の一人に腹を殴られてしまった。

しかし、ステータスが高いので、全く痛く無かった。


それを態度に示すと、更に殴られそうなので演技をしている。



「貴様、ユミナ嬢とはどんな関係だ?」


そんな事急に聞かれても、正直何て答えていいか困ってしまう。


「露店商とお客さん?」


「惚けるつもりか!」


「いいえ。別にそんなつもりありません」


「随分前、この店の前で待ち合わせてただろ!」


「そんな事、ありましたっけ?」


「こいつ、ヌケヌケと!」


『トントン!』


「ケーキと紅茶を、お持ちしました」


いいタイミングで、店員がやって来た。


「入れ!」


「失礼します」


店員はケーキと紅茶をテーブルに並べ、『チラッ』っと僕を見てそそくさと出ていった。


「紅茶が冷める。こいつには、後でゆっくり聞くとしよう」


そう言って、アルフォードはティーカップを口に運んだ。



アルフォードのティータイムが終わると、僕は両腕を掴まれたまま喫茶店を出た。


『はー、どうしよう。面倒だけど、一回くらい付き合うか』


いつでも逃げる事はできたが、気紛れで同行する事にした。


馬車に乗せられると、僕は直ぐに後ろ手に縛られた。


「止めろ! 放せ!」


『ボフッ!』


「ぼへっ!」


抵抗すると、再び腹を殴られた。

先程より力が入っていたが、全く痛く無い。


痛いふりをして床に座り込むと、頭に黒い袋を被せられた。


「痛い目にあいたく無かったら、抵抗するんじゃねえぞ」


男は僕の耳元で、低い声で呟いた。


そして、馬車は静かに走り出した。



馬車は、子爵家の屋敷に到着したようだ。


アルフォードは馬車を降り、そして言い放った。


「そいつは、地下牢へ入れとけ。後から行く」


「分かりました」


馬車は屋敷の裏口へ回され、僕はそこで降ろされた。


そして、男達に地下牢に入れられ鎖で繋がれた。



暫くすると、アルフォードが一人で現れた。


「袋を外せ!」


「はい」


僕は、頭の袋を外された。


「おいっ、虫けら。名前があったら、聞いてやる。言ってみろ!」


「虫けらのままで、いいです」


こんな奴に、素性を明かす訳がない。

いろいろと知られたら、弱みを握られてしまう。


暴力に訴えられても、言うつもりは無い。

まあ、効きはしないんだが。


ちなみに、商業ギルドカードは《亜空間収納》にしまってある。


「ふざけやがって!」


アルフォードは僕の返事に怒り、拳を振り上げた。


しかし、その手は直ぐに下ろした。



「まあいい。これから、私の憂さ晴らしに付き合って貰う」


そう言うと、壁に掛けてある鞭を手にした。


「どうだ。泣いて無礼な態度を、謝ってみろ」


「嫌です」


「貴様、顔に似合わず強情だな」


「僕は、理不尽な暴力に屈しない」


「くそっ、生意気な!」


『ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ! ビシッ!』


「うわーーーーーーーーーー!」


僕は演技で悲鳴を上げたが、全然痛く無かった。


この後、アルフォードの憂さ晴らしは暫く続いた。



「ふん! 貴様は《闇オークション》で、売り飛ばしてやる。ユミナ嬢を誑かすその面で、男色家の慰み者になりやがれ!」


『顔を狙わないと思ったら、そんな理由があったのか。そんなの御免である』


僕がそんな事を考えていると、アルフォードは語りだした。


「ユミナ嬢は、もうそろそろ《結婚》を考えてもいい年齢だ。しかし、数多ある誘いを、彼女は頑なに拒んでいる。この私でさえもだ!」


『こいつ、何語ってるんだ?』


僕は、そう思った。


「私の知る限りユミナ嬢と親しい男は、エミリ嬢の兄上達。そして、貴様だ!」


『そうなのか?』


「しかし、ラングレイ家と婚約したという話しは、耳に入って来ない」


『へー』


「そういう訳で、貴様がユミナ嬢を誑かしていると結論付けた」


「えっ!」


「惚けた顔をして、何を驚いてる。図星なのだろう?」


「いえいえ、そんな事ありません。会う事なんて、ありませんから」


確かに、ユミナとは随分会ってない。


「ふんっ! 貴様がいなくなれば、ユミナ嬢の気が変わるかもな」


ニコルはピンと来ていなかったが、アルフォードの推測は的を射ていた。

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