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第四話 ニコルっちのケチー!

ケーキ作りを始めて三日目、マルコさんの腕は既に僕が錬金術で作るケーキと遜色の無いレベルになっていた。


今は、そんな日のお昼休みである。


「ケーキって、どうしてこんなに美味しいんだろ。これから、毎日食べられるなんて幸せだよね」


「ウェンディ、何を言ってるんだ? マルコさんの特訓が終わったら、《試食》も終わりだぞ!」


「「「「「えー!」」」」」


女性陣から、驚きの声が上がった。

子供達は言葉の意味を理解できなくて、大人達の様子を窺っていた。



「ニコルっち、何でよ!」


「『何でよ!』って、当たり前だろ! 材料だってタダじゃないんだ。商品として作った物を、毎日あげる訳にいかない!」


「でも、お昼のパンはタダだよ!」


「それは、それだ!」


「そんなんじゃ、分かんない!」


「それじゃ、ちゃんと説明するぞ。ケーキの材料は、苺を始め数が少ないんだ。当然、スーパーで売られる数も少ない。ここで食べてしまったら、村のみんなが買う分が減るだろ。それに最大の理由は、パンに比べてケーキはずっと高額だからだ!」


「ニコルっちのケチッ!」


「また、言ってるよ」


「さあ、みんなも一緒に言うのよ! 『ニコルっちのケチー!』って!」


「「「どうして?」」」


子供達は理由が分からず、聞き返した。


「もう、ケーキを食べさせてくれないんだって!」


「「「えー!」」」


「ケーキを食べたかったら、ちゃんと言うのよ!」


「「「うん!」」」


「ニコルっちのケチー!」


「「「ニコルっちのケチー!」」」


『グサッ!』


小さい子供達に言われると、思ったより胸に刺さる。


「おいっ! 子供を使うのは、卑怯だろ!」


「へへーん! そんなの知らないよー!」


「くそっ!」


『こうまで言われてしまうと、信念が折れそうだ。せめてケーキの代案を、考えた方がいいのだろうか?』


そんな、弱気な思考に陥ってしまった。



「それじゃ、ケーキよりお手頃の材料で、美味しいお菓子の作り方を教えるよ」


「それなら、いっぱい食べさせてくれるの?」


「いっぱい食べたら、ケーキと同じ事になるだろ。いっぱいは、駄目だ」


「それじゃ、嫌!」


ウェンディは、子供のように駄々を捏ねた。


「ウェンディ! ニコルを、あまり困らせるんじゃない!」


マルコさんが見かねて、ウェンディを注意してくれた。


「えー、だってー!」


「ウェンディ!」


マルコさんは、少し強い口調で言った。


「分かった。少しでいい」


ウェンディが、『シュン』としてしまった。

僕よりマルコさんの言葉の方が、効き目があるようだ。


「みんなも、それでいいかい?」


「「「「「「「うん」」」」」」」


子供達までマルコさんの勢いに押され、頷いていた。



「マルコさん、ありがとう」


「いや、別にいいよ。どう考えても、ウェンディの我儘だ」


「それで、お菓子作りの準備をしたいんですけど、マルコさんの方はもう大丈夫ですよね」


「そうだね。今日中に完璧にできるようにして、あと一日か二日反復練習というところかな」


「分かりました。午後からも、頑張りましょう」


「ああ」


この後、自宅に帰って昼食を取り午後に備えた。



その日の夕方、マルコさんは自分で納得できる《苺のショートケーキ》を完成させた。


「会心の出来だ!」


「やりましたね」


「これも、ニコルのお陰だよ」


「いえいえ、マルコさんの頑張りと才能ですよ」


「ははっ、ありがとう」


マルコさんは、照れくさそうに笑った。


「明日は、お菓子作りの準備があって来れそうにないですけど、大丈夫ですか?」


「そうだね。取り敢えず、一人でも大丈夫だ」


「明後日は、お菓子作りを女性陣に教えに来ますね」


「済まないね」


「それで、一つお願いなんですけど」


「何だい?」


「僕がいない間、ウェンディが勝手にケーキを食べないよう、見張ってくれませんか?」


「ははっ、分かった。それにしても、ウェンディは信用無いんだな」


「そうですね」


この後、ケーキを回収し自宅に帰った。



その日の夕食後、お菓子作りの準備を進めた。


僕が作ろうとしているお菓子は、《クッキー》だった。

クッキーなら、ケーキの材料で作れる筈である。


「ご主人。まだ、何かする気かニャ?」


「ああ、ちょっと訳があってな」


「最近、ご主人構ってくれないニャ」


「ははっ! それじゃ、僕がいつもシロンを構ってるみたいじゃないか」


「ご主人、酷いニャ」


そんな遣り取りもありつつ、《検索ツール》でクッキーの作り方を調べた。


「よし、材料は大丈夫だ。後は、《作業マニュアル》だな」


そう呟きつつ、作業マニュアルの作成に取り掛かった。


明日は、指導できるよう僕自身の特訓が待っている。



クッキー作りの特訓を終え、さらにその翌日。


「どうですか?」


「「「「美味しい!」」」」


「良かった」


「それに、作り方も難しくないわ」


「それでは、みなさんも早速作ってみましょうか?」


「「「「はーい!」」」」


こうしてクッキーは作られ、ウェンディや子供達にも受け入れてくれた。


「あまあまー」


「うまうまー」


「おいちーね」


「まあ、これなら許してあげるわ」


「ウェンディは、何を偉そうに言ってるんだ」


「ぶー!」


やがてクッキーは、スーパーに商品として並べられる事になる。


また、マルコさんの特訓もこの日を持って終了し、僕の代わりに《苺のショートケーキ》作りの担当になった。

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