第三話 マルコさんの実力
焼き上がったスポンジケーキを、オーブンから取り出し型を外した。
「凄い! ふわふわだ!」
「そうでしょう。このふわふわ感が、大切なんです」
「パンとは、全然違うんだな」
「小麦粉の違いが、大きいですね。温度や掻き混ぜ方、材料の分量でも随分変わりますけどね」
「分かった。それじゃ、次は僕の番だ」
事前に材料の計量は済ませてあり、マルコさんは手際良く作業を始めた。
僕が注意したポイントも、ちゃんと押さえている。
『何だこの人、一度説明しただけで。天才か?』
そんな言葉が、頭を過った。
そして、着々と作業は進められ、スポンジケーキは焼き上がった。
「凄い! 一発で上手くいった」
「先生が、良いからだよ」
「いやいや、マルコさんが凄いんです」
僕は何度も失敗したので、本心からそう思った。
◇
マルコさんのスポンジケーキを冷ましてる間に、生クリームの立て方を実演し僕のケーキを仕上げた。
「できました!」
「凄いな、その手際。見惚れたよ!」
デコレーションは、手際良く綺麗に仕上がると、自分でも気持ち良かった。
「ありがとうございます」
「これ、試食させてくれるのか?」
すると、女性陣が一斉に僕の方へ振り向いた。
「どうしましょうか?」
マルコさんには、比較の為に食べて貰っていいのだが、一人だけで済みそうもなかった。
この後、マルコさんが何個も作るし、『食べ過ぎは、良くないな』なんて事を考えてしまった。
「これは持ち帰って、スーパーで売ります」
「「「「「えー!」」」」」
それを聞いて、女性陣から不満の声が上がった。
「今から、マルコさんが美味しいケーキを作ってくれますって。そちらを、食べましょう」
「おいおい、ニコル。僕に、プレッシャーを掛けるなよ」
「頑張ってくださいね」
不満を言いながらも、マルコさんはやる気満々でケーキ作りに取り掛かった。
◇
マルコさんは僕が教えた事を上手にこなし、デコレーションを済ませケーキは仕上がった。
「凄い、本当に凄いよ。マルコさん!」
「言い過ぎだよ。そんなに誉めないでくれ」
「もう、僕の指導が無くても大丈夫です」
「その台詞は、ケーキの味を確かめるまで待ってくれ」
マルコさんは謙遜しているが、僕は本当にそう思った。
マルコさんのステータスを見たら、《調理》スキルがレベル2に上がっていた。
僕はレベル1のままなので、既に抜かれてしまっている。
「それじゃ、お昼も近いし、みんなで試食をしましょうか?」
「そうだね」
「「「「「やったー!」」」」」
女性陣は、みんな声を上げて喜んだ。
パン工房には子供達と僕を含め十人いるので、ケーキは十等分に切り分けられ皿の上に並べられた。
ちなみに、スーパーの苺のショートケーキは、直径二十一センチのホールケーキを八等分にしている。
今回、少し小さくなってしまったが、試食なので大目に見て貰いたい。
◇
昼休みになり、ケーキを休憩室に運んだ。
「おまたせー。ケーキよー!」
女性陣に、運ぶのを手伝って貰った。
「やったー、ケーキだー!」
「「「わー!」」」
ウェンディと一緒に、子供達も喜んでいる。
「これは、僕が始めて完成させた《苺のショートケーキ》なんだ。食べたら、正直な感想を聞かせて欲しい」
「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」
マルコさんが語ると、みんなニコニコしながら返事をした。
この後、『いただきます』をして、みんなで試食を始めた。
「美味しー! マルコさん、天才だね。もっと、たくさん作って食べさせてよ」
「ウェンディ。お前は、遠慮を知らないな!」
「ぶー! だって、食べたいんだもん」
「あまあまー!」
「うまうまー!」
「おいちーね!」
「本当に、美味しいわね!」
みんなには、マルコさんの作ったケーキは好評だった。
「ありがとう。でも、スーパーで売ってるケーキに比べたら、まだまだだね。改良の余地ありだ!」
だが、マルコさんの自己評価は少し違った。
「マルコさん。初めてちゃんとした材料と道具を使って、これだけの物ができるんだ。凄いよ」
「ニコルにそう言って貰えて嬉しいけど、やっぱりこのままでは駄目だ。もっと、特訓しないと!」
「マルコさんは、自分に厳しいんですね。分かりました。マルコさんが納得するまで、付き合います」
「ありがとう。ニコル!」
「でも、材料費が高いので、みんなの試食は一日一個にしてください。その他は、僕が引き取ります。勿論、マルコさんは全ての出来上がりの確認をして貰って、構いません」
「「「「「「「「えー!」」」」」」」」
「ニコルっちのケチー!」
「ケチでもいいけど、試作品の材料は僕が出すんだ。どうするかは、僕が決める」
「ぶー!」
「それに、食べ過ぎたら太るからな。注意しろよ」
「えっ、ケーキって太るの?」
「ああ、毎日たくさん食べたら太るぞ」
「うー、それはやだー!」
普段から良く食べてるので今更なのだが、ウェンディは太るのが嫌みたいだ。
今はまだ若いだけあって、スレンダー体系を保っている。
ウェンディを含む女性陣と子供達は、説得の末一日一個の試食で納得してくれた。




