第二話 ウェンディの自白
約束の一週間が過ぎ、マルコさんにケーキ作りを教える日を迎えた。
「みなさん、おはようございます」
「「「「「おはよう!」」」」」
調理室では、パン作りの準備が行われていた。
ウェンディは、休憩室で子供達の面倒を見ているようだ。
「ニコル。今日は、宜しく頼むよ」
「ええ、頑張りましょう」
「早速だけど、何から始めればいい?」
マルコさんは待ちきれず、急かすように言ってきた。
「今日作るのは、《苺のショートケーキ》です。今回も《作業マニュアル》を用意したので、僕が準備を進めてる間、一通り目を通してください」
そう言いながら魔法袋から作業マニュアルを取り出し、マルコさんに手渡した。
最初に作成した作業マニュアルに、特訓している間に得た知識を大幅に書き足し作り直した。
「ありがとう。読ませて貰うよ」
マルコさんは作業マニュアルを受け取ると、真剣に読み始めた。
そして、『へー、そうだったんだー』と、呟いていた。
その姿からは、探究心の強さが伺えた。
◇
マルコさんが作業マニュアルを読んでいる間、調理道具と材料を計量しテーブルに並べた。
従業員の女性陣もケーキを作る事を知っていて、興味深々にしている。
「ねー、ニコル君。ケーキを作るんですって。試食は、させてくれるのかしら」
「いいですよ。でも、食べ過ぎて太っても、僕のせいにしないでくださいね」
「酷い。ニコル君は、私をデ○扱いする気!」
彼女は、頬を膨らませて怒った。
「そんな事、言ってません。あくまでも、食べ過ぎの注意ですよ」
「うふっ、冗談よ」
「もう、驚かさないでくださいよー」
彼女は、僕をからかっただけだった。
「私も、ケーキ食べたいなー」
「「「私もー!」」」
「分かりました。みんなで、試食しましょう」
「「「「「わーい!」」」」」
やはり女性陣は、みんなケーキが好きらしい。
僕は彼女達と会話をしながら、準備を進めた。
すると、僕が今ここでこうしている《元凶》が現れた。
「ヤッホー、ニコルっち。進み具合はどお?」
「来たな、ウェンディ。お前、マルコさんを巻き込んだろう!」
「あれっ、バレた?」
「父さんから、聞いたぞ!」
「へへー。だからって、今更止めないよね?」
「ああ、マルコさんと約束したからな!」
「良かった!」
「その代わり、ケーキ作りの間ウェンディは邪魔だから、調理室に入室禁止だ!」
「ぶー! ケチー!」
「大人しく、待ってろ! ちゃんと、試食させてやるから!」
「それなら、いいや。じゃあねー、ニコルっち」
そう言うと、ウェンディは調理室から出て行った。
「ニコル、ごめんな。ウェンディに唆されたけど、ケーキ作りを習いたかったのは本当なんだ」
マルコさんが、謝ってきた。
「いえ、いいんですよ。気にしないで下さい」
「そうか。それなら、その言葉に甘えるよ」
僕は引き続き、準備に取り掛かった。
◇
準備が整い、真剣に作業マニュアルを読むマルコさんに声を掛けた。
「マルコさん。準備は済みましたよ」
「ん? ああ、済まない。それにしても、この作業マニュアル凄いな。見いってしまったよ」
「ははっ、そうですか」
「僕は想像しながら、ケーキを作った事があるって言ったろ。行き詰って悩んでいた事が、全て書かれている。興奮が押さえられない!」
「それは良かった。それじゃ、そろそろ始めましょうか」
「ああ、そうだな!」
マルコさんが僕の横に立つと、材料と道具の説明から始めた。
「今回使う小麦粉は、《薄力粉》です」
「これが、薄力粉か。作業マニュアルに、書いてあった」
「パン作りで使っている小麦粉は《強力粉》で、種類が違うので間違えないで下さい」
「分かった。でも、そんなに変わるものなのか?」
「ええ、変わりますよ」
「不思議なもんだな」
その後もいろいろと質問を受けながら、マルコさんに説明した。
三十分程掛けて、一通り説明が終わった。
「それじゃ、ポイントを説明しながら作るので、見ていて下さい」
「ああ、頼む!」
「まずは、《スポンジケーキ》作りからです。スポンジケーキの出来で、仕上がりの美味しさはかなり左右されます」
「ふむふむ」
「スポンジケーキ作りは、泡立てが命です。それぞれの工程で泡立てが上手くいかないと、ふんわりと焼き上がりません」
「『スポンジケーキ作りは、泡立てが命』実に名言だ!」
「ははっ!」
こんな感じで、着々とスポンジケーキ作りは進められていった。




