第四話 突然の勧誘
ゆっくり寄り道をしながら、二ヶ月掛けて《エステリア王国》の《王都エストーレ》に到着した。
今回移動で《転移魔法》を使ったのは、行った事のある隣街に行く時だけである。
今の時刻は、昼を過ぎたくらいだ。
大きな街だと、昼食は普通に食べられている。
故郷の《エシャット村》でも、最近昼食を食べる人が増えた。
僕も門の行列で待っている間に、軽く済ませた。
この国に街や領を越える時の通行税は無い。しかし、壁に囲まれた王都と領都に入る時は、入都税・入領税が徴収される。
しかし、商業ギルド会員の僕は、それらを免除された。
「うわー、すごい街並みが綺麗だ。さすがに王都は違うなー」
僕は街並みの美しさに、目を奪われた。
「さて、王都ではどんな物を売ってるんだろう。少し見てまわるかな」
露店を開くのに、王都の店でどのような物が売られているのか調べる事にした。
高額商品を売るのに資格を取得する事も考えたが、取り合えず今売れる物をリサーチする。
「ここは雑貨屋か。凄く大きいや。僕の主力商品とかぶるから、調査が必要だな」
僕は店に入り、商品を見ていると視線を感じた。
『ん? 何だこれ! 魔力を感じる』
僕が振り向くと、同年代の少年がこちらをじっと見ている。そのとき、『これは、やっかい事に巻き込まれる』と、直感した。
その少年は、《黒髪黒目》で《日本人》の風貌をしていた。
僕は直ぐに目をそらし、場所を移動して商品を見てまわる。
すると、その少年が後を着いて来るのを感じた。
僕が立ち止まって商品を見ていると、少年が背中越しに声を掛けてきた。
「ねえ君。いきなりで悪いんだけど、ちょっと話しを聞いてくれないかな?」
僕は気付かない振りをする。
「ねえ、ねえ、君だよ」と、言って肩をつかまれた。
しょうがないので振り向いた。
「お茶の出来るところで、話を聞いてもらいたいんだ」
「ナンパですか? 僕は男でそんな趣味は無いです」
「違う、ナンパじゃない! それに、俺はストレートだ!」
少年は、少し慌てた口調で返事をした。実は、間近で見たニコルの美少年っぷりに動揺していた。
「じゃあ、何ですか? ここじゃ話しができないんですか?」
「そうだ」
「でも、僕は忙しいんです。それに、ついて行く理由がありません」
「まあ、まあ、まあ」と、言いながら両肩を捕み、僕を強引に連れ出した。
◇
連れて来られたのは、個室のある高級感漂う喫茶店だった。
彼は、二人分のホットコーヒーとイチゴのショートケーキを頼んでくれた。
僕は、ビックリした。
村にいる時に錬金術で作った事はあったが、この世界にコーヒーも生クリームを使ったケーキも無かったはず。
そんな事を考えていると、少年が話し始めた。
「不躾を許してくれ。俺は《神崎勇也》。異世界から召還された《勇者》だ」
あっ、勇者って言っちゃってるよ。予想はしてたけど。いやな予感が、的中しそうだ。
勇者って事にあえて触れないで、僕も名乗ろう。
「僕は、ニコル。行商人です」
「ニコル、よろしく。話しはお茶が来るまで待ってくれ」
しばらく待つと、コーヒーとイチゴのショートケーキが目の前に置かれ二人きりになった。
勇也さんはそれらを僕に勧め、僕は口を付ける。想像以上に美味しい。
「美味いだろ。今、王都で流行ってるんだ」
「ええ。すごく美味しいです」
「そうか、よかった。それで聞いてもらいたい事なんだけど・・・」
言葉に詰まっていたがこちらから促さず、勇也さんが話すのを待つ。
「君に仲間になってもらいたいんだ」
「えっ!」
「あの店に入る前、君から不思議なオーラを感じた。後をつけて、《鑑定》スキルで君を見させてもらった」
あの魔力は、《鑑定》されてたんだ!
「君の能力を見て驚愕し、ぜひ仲間に欲しくなった」
「・・・」
僕は何も応えないが、勇也さんはそのまま話し続けた。
「この世界は百年に一度、太陽暦の六十六の付く年の六月六日に魔界とのゲートが繋がり、魔王が攻めて来るんだ」
「魔王?」
「ああ、今は太陽暦三千六百六十三年の六月だ。あと、三年で魔王が攻めてくる」
「・・・」
「俺は異世界から、勇者として召還された。それが、今から一年前だ」
「・・・」
「俺には仲間がいる。しかし、俺を含めて君には誰も敵わないだろう」
「・・・」
「俺も突然この世界に召還されたから、今の君の戸惑いも分かる。俺の我侭だが、お願いだ魔王討伐の仲間になってくれ!」
「・・・」
僕は、言葉が出なかった。この急な展開にフリーズした。
魔王が攻めて来るまで、3年にするか2年にするか悩んでます。
修正するかも。




