第四十八話 ダンジョンコアに近付く交渉
ダンジョンの階段を降りると、魔素の含有率を鑑定してみた。
「《検索ツール》で調べた通り、本当に空気中に魔素は無いんだな」
一方地面と壁を鑑定してみると、こちらには魔素が含まれていた。
「ちょっとやってみるか」
僕は人気の無い場所へ移動し、地面に手を当て錬金術を使ってみた。
「よし、変換はできた。続けて《魔力吸収》」
錬金術で魔素から魔力を作り出す事は可能で、それを直ぐに回収した。
《魔力吸収》は《無属性魔法》の一種で、グルジット伯爵家の魔法書で覚えたものだ。
「駄目だ。錬金術で使った魔力に比べ、吸収した魔力が少な過ぎる」
吸収した魔力量は、使った魔力の一割にも満たなかった。
これなら、普通に商品を作っている方が良かった。
僕は場所のせいで魔素が薄いのかと思い、ダンジョンの奥へ進んだ。
そして、ブロック毎に試していった。
その結果、奥に行くに連れ変換効率は良くなったが、ボス部屋の前のブロックで三割程度だった。
ボス部屋に入ると、速攻でコカトリスを倒し魔法袋と共に《亜空間収納》に回収した。
そして、ボス部屋でも試してみた。
「ボス部屋で、やっと三割五分か。効率悪いな」
僕ががっかりしていると、そこへ魔王サムゼル様が現れた。
「お主、何をしておるのだ?」
「あっ、サムゼル様。ちょっと、実験をしてたんです」
「実験? 何だ、それは!」
僕は正直に、レベル上げの為に魔力が必要な事をサムゼル様に話した。
◇
僕が話し終わると、サムゼル様は呆れていた。
「お主。理由はどうであれ、『ダンジョンコアに、近付くな!』と言ったであろう」
「すみません。でも、まだ近付いてませんよ」
「それは、屁理屈だ。その気満々で、ここへ来たのだろう」
「諦めていたレベル上げが、解決されるかもしれないんです」
僕は、真剣な目で訴えた。
「あの時、お主の言動と表情を見て、嫌な予感がしたのだ」
サムゼル様はそう言いながら、煩わしそうな表情を浮かべた。
「それで、どうなんです? このペンダントがあれば、魔人にならずに済むんじゃないですか?」
「そうだな。あの時は気付かんかったが、そのペンダントをしていれば大丈夫だ」
「それじゃ、ダンジョンコアに案内してくれるんですね」
「お主。無茶を言うでない」
僕はここぞと言わんばかりに、《亜空間収納》からお土産を取り出した。
「それは、何だ?」
「サムゼル様へのお土産です」
「魔王の我を、《賄賂》で釣ろうというのか?」
「いえいえ、単なるお土産です」
「ふん。それで、中身は何だ?」
僕は紙の箱の蓋を開け、中身を見せた。
「これは、ケーキという名のデザートです。私の前世である、異世界の食べ物です」
箱の中には、モンブランケーキと苺のショートケーキと新作のチーズケーキが三つずつ入っていた。
「甘い香りがするな。魔界にも似たような甘味はあったが、この街では見掛け無いな。美味いのか?」
「ええ、凄く美味しいですよ」
「くそっ! 我はこう見えて、甘味に目がないのだ」
「どうぞ、お受け取りください。こちらに合う飲み物も、ございますよ」
僕はそう言って、《インスタントコーヒー》が入った瓶を取り出した。
「何だそれは?」
「こちらも異世界の飲み物で、コーヒーと言います。お湯で薄めて飲みます。苦味があり、甘味と一緒に飲むのに最適です」
「貴様は、思ったより策士だな。分かった。ダンジョンコアの保管部屋には入れられんが、その外らなどうだ?」
「はい。それで構いません」
「そうか。それと、一つ言っておく事がある」
「何ですか?」
「お主は《転移魔法》が使え、強力な結界をも切り裂く《オリハルコン》の剣を持っている。だからといって、一人で行こうとするなよ」
「分かりました。お約束します」
こうして僕は、ダンジョンコアの保管部屋の外まで行ける事になった。
◇
僕達はサムゼル様の《転移魔法》で、保管部屋の外に移動した。
「この中に、ダンジョンコアがある。ボス部屋から、三百メートル程真下だ」
「随分、深いんですね」
「何かあると、大変だからな」
「そうですね」
「ところで、お主。レベルを上げて、我を圧倒するつもりではなかろうな?」
「酷い疑われようですね。私達は、友達ですよね」
「そっ、それはそうだが」
「分かりました。そんなに心配なら、ステータスを下げます」
「ん? お主、何を言っておるのだ」
「サムゼル様は、お気付きじゃなかったんですか?」
「何をだ?」
「私はステータスの《職業》を、変える事ができるんですよ」
「ほう、どれどれ。おお、本当だ。《大魔導錬金術師》にすれば、ステータス数値はかなり落ちるな。それに、元に戻すには半年掛かる」
「やはりサムゼル様は、そこまで視えるんですね。でも、一年じゃなくて半年?」
「ああ、半年だ」
僕は不思議に思い、ステータスを開き確認してみた。
「あっ、本当だ。以前なった事がある職業に変える場合、期間は半分になるんだ」
「お主も意外と、うっかり者だな」
「そうですね。反論できません」
僕は良いタイミングだったので、職業を元に戻す事にした。




