第四十六話 コカトリスの唐揚げ問題
朝食を済ませ、後片付けをしていた。
「昨日の《唐揚げ》、美味しかったな」
朝食を食べたばかりだというのに、《コカトリス》の唐揚げの事を思い出していた。
ある理由で、今朝は食べてない。
「そう言えばプラーク街を案内した時、おばさんが百グラム一万マネーする事を知って、『私も、一度は食べてみたいわ』なんて言ってたな」
僕は最初に街案内した時の事を、思い出した。
「あんなに美味しいんだから、村の人達にも食べさせたいよな」
スーパーで半額で売っても、村の人達には手が出せなかった。
そこで、どうするか考えた。
「五メートル以上のコカトリスを、丸々一匹手に入れたんだ。お手頃価格で売っても、いいよな」
その時僕の頭の中では、百グラム二百マネーにしようと思っていた。
だが、僕がダンジョンで倒したという事は、内緒にするつもりだ。
「また嘘をつく事になるけど、プラーク街で仕入れた事にすればいっか!」
軽いノリでそう呟くと、シロンが現れ口を挟んできた。
◇
「ご主人、村人に安く振舞うのは許すニャ! その代わり、シロンのお昼ご飯もコカトリスの唐揚げにしてニャ!」
『僕が振舞うのに、シロンの許可がいるのか?』と思ったが、それは言わなかった。
「今朝も言ったけど、シロンは猫なんだから、油や塩分の取り過ぎは体に悪いぞ」
「全然大丈夫ニャ! もっと食べたいニャ!」
昨日の昼ご飯は、シロンのリクエストに応え、気にせず与えてしまった。
晩ご飯もしつこくせがむので、残っていた分を与えた。
シロンを普通の猫と同じに扱うのもどうかと思うが、唐揚げは猫にとってあまり良い物ではない。
そういう事もあり、今朝は薄味の《ニーワトリ》のササミを与えたのだ。
「ニーワトリのササミでいいだろ」
「コカトリスの唐揚げがいいニャ! あれは、最高ニャ!」
『何だか、様子が変だな?』
僕はシロンに、そんな印象を持った。
シロンを鑑定してみたが、特におかしいところは無かった。
「もしかして、唐揚げに問題があるのか?」
僕は《亜空間収納》で唐揚げを作り、それが盛られた皿を取り出した。
◇
「唐揚げニャ!」
シロンが、唐揚げに飛び付いてきた。
「シロン、駄目だ。朝食を食べたばかりだろ!」
「ご主人、寄越すニャ!」
僕は唐揚げを持つ反対の手で、シロンの顔を押さえた。
そして、その隙に唐揚げを鑑定した。
「嘘だろ! 『あまりの美味しさに魅了され、《禁断症状》が出てしまう事もある』だと!」
僕も食べたが、そこまでの症状は出てない。
「ご主人、寄越すニャ!」
シロンは僕の手から逃れ、本気モードで奪いにきた。
僕はそれを、唐揚げをこぼさないように避けた。
「鑑定には出なかったけど、これは禁断症状が出てるな。このから揚げは、危険だ!」
そう言いながら、唐揚げを《亜空間収納》にしまい込んだ。
「そんな殺生ニャー!」
シロンは、すっかりへこんでしまった。
◇
コカトリスの生肉を取り出し鑑定してみたが、《特上》の肉とは書いてあるが、魅了するなんて事は書かれてなかった。
「これはあれか? 料理人の腕次第で、そこまで昇華されてしまう食材なのか?」
「ご主人、一個だけお願いニャ!」
「駄目だ!」
その後もシロンにしつこく迫られたが、断固断った。
その代わり、お昼ご飯にニーワトリの唐揚げを、《薄味ノンオイル》で作ってやった。
一応食べてはいたが、『ううっ、コカトリスが食べたいニャ』と呟いていた。
こんな事があったので、村でのコカトリスの販売は諦める事にした。
その代わりと言っては何だが、ニーワトリの唐揚げをスーパーで販売しようと思う。
この国では料理用の油が手に入りにくいので、一般家庭で《揚げ物料理》は広まってなかった。
僕は錬金術でどうにでもなるので、母さんにトルネードポテトの作り方を教えていた。
王都の《御食事処やまと》でも食べられたが、それなりの値段がした。
料理用の油を手に入れ村人に専属で作って貰うのもいいかと思ったが、暫くは僕が錬金術で調理する事にする。
そして、この事が切っ掛けで、スーパーでお惣菜が少しずつ増えて行く事になる。




