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神様候補の転生者は異世界のんびり生活を所望する  作者: sato
第五章 エシャット村発展編
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第四十四話 ニコル、突然の遭遇③

僕は魔王の喉元に、剣を突き付けた。


「どうです。参りましたか?」


「まっ、参った。しかし、何だその剣は?」


僕はその言葉を聞いて、剣を下ろした。


「サムゼル様は、鑑定が使えるんですよね」


「そうだな。自分の目で()るとしよう」


サムゼル様は、僕が手にする剣の鑑定を始めた。


「んっ? んんっ? それは、オリハルコンの剣ではないか!」


「正解です」


「それにお主、ステータスが二倍になっておるぞ!」


戦闘が終わったばかりで、ステータスはまだ元に戻っていなかった。


「あれ、ばれました?」


「お主、謀りおったな!」


「いえいえ、そんなつもりありません。称号の効果です」


「ぬっ、気が付かなんだ。どちらにしろ、()は我の負けだ。だが、我は全然本気ではなかったのだぞ!」


それは、僕も感じていた。

恐らく、実力の二割も出して無いんじゃないかと思う。


「はい、はい、分かってます」


「『はい』は、一回でよい。しかしお主、そこまで戦えるのに《勇者》ではないのだな」


「そうですね。しがない行商人です」


「ふっ、我は行商人に負けたのか。お主はその実力で、この国の《王》にならんのか?」


「いやいや、そんなの成れないですし、成りたくないですよ」


「何だ。欲の無い奴だな」


「そんな事無いです。普通に、欲はありますよ。『のんびり暮らしたい』という欲が」


「ははっ、面白い奴だ。気に入ったぞ。ニコル、お主我の友になれ!」


「えっ!」


僕は即答せず、少し考えた。


「駄目なのか?」


サムゼル様は不安な顔をしながら、問い掛けてきた。


「友達ですね。いいですよ」


少し焦らしたら、意外な反応が見れたので、了承してしまった。


「おお、それは良かった。我と対等に話せる者ができて、嬉しいぞ」


こうして、僕に魔王の友達ができた。



友達の約束をした後も、話しは続いた。


「勇者でも無いのにお主が強いのは、《異世界の転生者》というのが関係しているのか?」


「理由は、僕にも分かりません。だけど、そんな事も()えるのですね」


「はははっ。称号の効果は、うっかり見逃してしまったがな」


サムゼル様は、笑うと意外と可愛らしかった。



「サムゼル様って、戦闘狂ですよね」


「何を言う。我はちゃんと、理性と知性を持っておるぞ!」


「いやいや、理性を持っている人が、いきなり襲って来ないですよ」


「それは、人間のくせに強いお主が悪い!」


「酷い。どういう理屈ですか? お陰で、一歩間違えたら死んでたし、魔力も無駄に消費したじゃないですか」


「お主の技量を見ながら攻撃したぞ。そんなに言うなら、詫びにこれをやろう」


そう言って、《亜空間》から直径五十センチ以上の魔石を五個取り出し、僕に差し出した。


サムゼル様が今使ったのは、《アイテムボックス》と言って《空間属性魔法》の一種である。

僕にも使えるが、《亜空間収納》の下位互換なので使ってなかった。


「こんな立派な魔石を、頂けるのですか?」


「ああ、受け取れ。コカトリスの魔石だ。お主なら、魔石から魔力を抜き取れるだろ」


「ええ、できます。けど、折角なので魔道具とか、別の用途に使わせて頂きます」


「何に使おうと、お主の自由だ。構わん」


「有り難う御座います」


僕は礼を言うと、魔石を《亜空間収納》にしまった。



「それで、コカトリスの他の部分はどうしたんですか?」


僕はもしやと思い、聞いてみた。


「ああ、それらは地上で売っている。ほれ、《ダンジョン探索者カード》も持っておるぞ」


思った通りだった。


いくら初級ダンジョンとはいえ、《石化》攻撃をしてくるボスを倒すのは難しいはず。

今日ボス部屋へ来る時、付近で一人も見掛けなかった。


繁華街の肉屋で見たコカトリスの肉も、サムゼル様が《ダン防》で売って流れた可能性が高い。


「ダンジョン探索者の登録まで、してたんですね」


「我も地上で食料や酒を調達するのに、金は必要だからの」


「意外です。サムゼル様も、買い物をするんですね」


「こればかりは、仕方ない。我はここに、一人で来ているからの。だが、庶民に溶け込み生活するのも、なかなか楽しいぞ」


「それを聞いて、ますます意外です」


サムゼル様から、魔王らしからぬ意外な一面を聞けた。



「サムゼル様は、この地に来てからどれくらい経つのですか?」


「そうだな、もうかれこれ百年近くなる。我が魔王の中で、一番の新参者だがな」


「へー、そうなんですか。いったい、いつまでこの世界にいるんですか?」


「ふっ、失礼な奴だ。まるで、さっさと帰れと言わんばかりだ」


「いえいえ、他意はありません。単なる興味からの質問です」


「まあいい。教えてやろう。我はたぶん、魔界に帰らん」


「えっ!」


「我ら魔王は、魔界から持ち込んだ魔素の固まりである《ダンジョンコア》を守っている」


「はい。それは、カイゼル様にも聞きました」


「そうか。だがそれは、ダンジョンコアが消滅するか、危険が及ばなくなるまで続く」


「それは、いつ頃なんですか?」


「ふっ、我にも分からん。ただ数千年の間、魔界に帰って来た魔王は一人もおらん」


「えっ!」


「お主が思うより、ダンジョンコアの魔素エネルギーは膨大なのだ。これが一度暴走すれば、地上は魔物の巣窟になる。人が高濃度の魔素を浴びれば、死ぬか運良く生き延びても《魔人》になってしまうだろう」


「ええー! そんな事起こったら、大変じゃないですか?」


「ふんっ。だから我ら魔王が、代々守っておるのだ」


「それじゃ、早くその魔素を消費した方がいいんですね」


「そういう事だ。今は、魔物がその役割の大半を担っておる。魔素から魔石が生まれ、やがて魔物になる。その過程で、魔素は《魔力》に変質している。魔力なら、人や動植物に害は無い」


「それなら、魔素を魔力に変えられればいいんですね」


「ニコル、一つ忠告しておく。お主、ダンジョンコアに近付くなよ。凶悪な魔人になってしまうぞ」


「分かってますよ」


「いや、なぜだか信じられん」


「そんなー!」


この後、また来る事を約束し、ダンジョンをお暇した。

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