第四十三話 ニコル、突然の遭遇②
対峙する短い間に、僕は脱出方法を閃いた。
『《亜空間農場》になら、逃げれるんじゃないか?』
しかし、それは実行しなかった。
『いや、これからもこのダンジョンに訪れるだろうし、村の狩猟班も来ている。変に関係を拗らせるより、この《余興》に付き合うべきなんじゃないか?』
そんな考えが、頭を巡った。
僕は逃げるのを諦め、《牙狼剣》を鞘から抜き構えた。
大量の魔力を剣に込めると、剣は強力な冷気を纏った。
当然、所持者の僕に影響は無い。
魔王はそれを見て、攻撃を仕掛けて来た。
「行くぞ。《火炎弾》」
《火炎弾》は、目の前で急に角度を変え襲ってきた。
『パーン! パーン! パーン! パーン! パーン!』
その動きは、一度見ている。
今度はそれに反応し、全て切り捨てた。
《火炎弾》は剣に触れた瞬間破裂し、ダイヤモンドダストのように宙を舞った。
「はははっ、やるな。なら、これならどうだ」
今度は多数の《火炎弾》が、意思を持ったように不規則に軌道を変えながら襲ってきた。
「《ブリザード》」
『ゴォーーーーー! ゴォーーーーー! ゴォーーーーー!』
剣を構え技の名前を唱えると、《火炎弾》に向かって暴風雪が吹き荒れた。
『ジュワー! ジュワー! ジュワー! ジュワー! ジュワー!』
暴風雪は《火炎弾》を包み込み、急激に熱を奪った。
そして、僕へ届く前に萎み消失した。
「それなら、これだ。《灼熱竜巻》!」
魔王がそう唱えると、灼熱の炎の竜巻が暴風雪を槍のように突き破り、その先端が僕に迫った。
「《ブリザードトルネード》」
僕は同様に、高密度の暴風雪の竜巻をぶつけた。
『ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!』
それらは激しくぶつかり合い、その力は拮抗した。
◇
《牙狼剣》のこの技は、魔法に比べ魔力の消費が激しかった。
「いったい、いつまで続けるつもりなんだ?」
『そうだな。どちらかが、参ったと言うまでにするか!』
騒音で声など掻き消される状況だったが、魔王には聞こえたらしく僕の脳内に《念話》で応えた。
「約束ですよ!」
『随分、自身ありげだな』
「策はあります」
僕は魔王の魔法に対抗するには、このままでは分が悪いと思った。
そこで、《影の英雄》の効果で二倍になった身体能力に掛ける事にした。
もしそれで駄目なら、更に《身体強化》スキルを使うつもりだ。
《ブリザードトルネード》を止め《灼熱竜巻》をかわすと、身体能力に任せて魔王に襲い掛かった。
「なっ! 速い」
魔王は《灼熱竜巻》の軌道を僕に向けるが、僕はその瞬間移動している。
そのせいで、辺りの壁や床は溶けてしまっている。
このままでは、いずれ足の踏み場が無くなる事が予想された。
「くそっ!」
魔王はそう叫ぶと、今度は両手で《灼熱竜巻》を放ってきた。
しかし、僕の動きについて来れず、ついに魔王の後ろを捉えた。
『ガイーン!』
「やはり、《防御結界》か」
「不覚、後ろを取られたか!」
『ガイーン! ガイーン! ガイーン! ガイーン! ガイーン!』
僕は魔王の攻撃を避けながら攻撃を続けたが、《防御結界》を砕く事ができなかった。
◇
埒が飽かないので、僕は一度距離を取った。
「しょうがない。取って置きを使うか」
僕は武器を、《牙狼剣》から《オリハルコンの剣》に持ち替えた。
「行きますよ!」
「何だ、その凄まじい剣は! くそっ、かくなる上はこれだ。《マグマ》」
魔王は僕の持つ剣に、脅威を感じたようだ。
それに抗い、自分を中心に波紋が広がるように、地面をマグマに変えていった。
「マグマだと。くそっ!」
僕は足場が消える前に跳躍し、魔王に迫った。
「引っ掛かったな。《マグマ防壁》」
跳躍中の僕の目の前に、突如マグマの壁が広がった。
ボス部屋内でなら転移できたが、僕は一瞬で判断しこのまま突っ込む事にした。
「ハアッ!」
オリハルコンの剣に大量の魔力を込め、《マグマ防壁》に切り掛かった。
すると、目の前のマグマが吹き飛び、魔王の慌てた姿が目に入った。
その勢いで魔王に切り掛かると、何重にも張られた《防御結界》が、『スー』っと切れていった。
そして、そのまま魔王の喉元に剣を突き付けた。




