第四十二話 ニコル、突然の遭遇①
目的を果たしたので、僕は帰ろうとした。
すると、僕の目の前に突然人が現れた。
「うわっ!」
僕は驚き、思わず声を上げてしまった。
ボス部屋には、中の人が出るまで、入って来られないはずだった。
「お主、強いな。コカトリスを、ああも簡単に倒す奴は久しぶりに見た」
「えーと、どちら様でしょうか?」
「ふっ、分からぬか。なら、視ればよいではないか」
「えっ!」
目の前の人物は、僕が《鑑定》を使える事を知ってる口ぶりで言った。
そして、その人物からは重厚かつ威厳が漂い、只者ではない事は直ぐに分かった。
僕はこの時点で、まだ《鑑定》を使ってない。
しかし、この状況で頭に浮かぶその正体は、《魔王》であった。
僕は言われた通り、目の前の人物を視た。
『やっぱり、魔王か。そう言えば、オーエン街のダンジョンに、一度も行ってないな』
目の前の人物を魔王と知って、僕はそんな事を考えていた。
◇
「あなたは、魔王様なのですね」
「正解だ。ちゃんと、視たのだな」
「はい。推測で『魔王』なんて応えて、間違っていたら失礼ですからね」
「ははっ、違いない。我はこの世界で、嫌われ恐れられているからな。それにしてもお主、『魔王』と知って驚かんのだな。もしや、他の魔王に会ったか?」
「はい。以前、他国のオーエンという街で、お会いしました。名前はその時伺いませんでしたが、鑑定ではたしかカイゼル様だったと思います」
「そうか。それは、我の実の父だ。そして、我が名はサムゼル。覚えておけ」
「はい。申し送れましたが、私の名前はニコルと言います。それで、サムゼル様はどのような御用で、ここへ来られたのですか?」
『ニヤッ』
魔王は僕の質問に対し、怪しい表情を返した。
「それを聞くか? 我は魔王ぞ。聞かぬでも分かるであろう」
「そう言われましても」
「そうか。では、教えてやろう。我がここへ来た理由は、強い奴と戦う為よ!」
「えっ!」
「ハッ!」
魔王はいきなり、無詠唱で《火炎弾》を放ってきた。
『ドゴーン!』
僕は咄嗟に、それを避けた。
しかし、後ろでは壁が大爆発し、崩れ落ちてきた。
◇
「何するんですか!」
「今、言ったではないか。戦う為よ! ハッ!」
魔王はそう言うと、再度《火炎弾》を放った。
『ザシュッ!』
今度はそれを、魔鋼の剣で粉砕した。
「我の《火炎弾》を剣で消滅させるとは、やはりやるな」
避ける事もできたが、これ以上のボス部屋の破壊を防いだのだ。
「そら、今度は連続で行くぞ!」
「ちょっと、待って!」
魔王は僕の制止する言葉を無視して、連続で《火炎弾》を放ってきた。
『ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!』
「うっ、剣がやばい」
『ザッ』
『バキーン!』
魔鋼の剣が《火炎弾》の威力に耐え切れず、ついに折れてしまった。
『ドゴーン! ドゴーン! ドゴーン!』
折れた剣では《火炎弾》を打ち消す事ができず、咄嗟にかわしてしまった。
その結果、後ろの壁は被弾し、またもや大爆発して大きく崩れた。
「サムゼル様! これ以上続けたら、この部屋は使い物にならなくなりますよ!」
「心配無い。直ぐに戻せる」
『パチンッ!』
魔王はそう言いながら指を弾くと、壁は元通りに戻ってしまった。
僕も似たような芸当はできるが、『流石、魔王』と感心してしまった。
「これで心置き無く、戦闘ができるな!」
「いやいや、僕はそんな事望んでませんって」
「問答無用!」
魔王はそう言いながら、攻撃を再開してきた。
◇
僕は咄嗟に、《亜空間収納》から《氷属性》の魔剣《牙狼剣》を取り出した。
しかし、剣を構える暇が無く、《火炎弾》をまたも避けた。
「フンッ!」
「うわっ!」
『ドゴーン! ドゴーン! ドゴーン!』
一度避けた《火炎弾》が方向を変え、僕を襲ってきた。
だが、《危機感知》スキルが働き、ギリギリ避ける事ができた。
「ちっ! これも避けるか」
「あっぶなー! サムゼル様は、僕を殺す気ですか?」
「さあ、どうだかな。ただ、お主のように強い奴とは、闘わないでおれん質でな」
「そんなの勝手過ぎる! これはもう、逃げたほうがいいな」
『ドスンッ!』
「うわっ!」
「ぬははっ! 既にこの部屋の外には、強力な《結界》が張ってある。逃げようとしても、無駄だ!」
「痛たたたっ! 転移できないのか。困ったぞ」
僕はこの急な展開に、結界を張られた事に気付かなかった。
「それでは、第二ラウンドと行こうか」
『恐らくこの魔王は、ラングレイ伯爵やグルジット伯爵と同類なんだろうな』
僕はそう思いながら、この後どうやってこの状況から脱出するか考えた。




