第三話 商人登録と悪い報せ
僕は転移魔法で、隣街に来ていた。馬車だと、二日の距離だ。
この街には露店商の手伝いで、何度も訪れている。
「やっぱり、この街はにぎやかだ。でも、今は早く商業ギルドで商人登録を済ましてしまおう」
「《亜空間収納》に商品や食料は山のようにあるけど、お金はほとんど無いんだよね」
旅の持ち物は、普通の肩掛け鞄に小銭袋とフードと水筒と魔法袋が入っているだけだった。
他は《亜空間収納》に入っている。
《亜空間収納》の存在は、今のところ世間に隠している。知っているのは家族だけだ。
魔法袋は《亜空間収納》と繋がっていて、人前で必要にかられた時は魔法袋経由で取り出す事にしている。
中央通りを歩くと、すぐに商業ギルドに着いた。ギルドの中は外と同じで賑わっている。
受付の列に並びしばらく待つと、順番がきたので挨拶を交わし用件を伝えた。
「初めまして、ニコルといいます。商人登録したいんですけど」
「初めまして? そんな事を言うのね。私、悲しいわ」
受付の女性は、僕の事を知っているようだ。そして、何でそんなに艶かしい顔をする?!
たしかにここで見かけた事はあるけど、兄ジークの付き添いで来てたから話した事は無いと思う。
「ごめんなさい。ニコル君、商人登録という事は十五歳になったのね。私は、受付担当のミシェル。よろしくね」
凄くいい笑顔だ。
「はい。よろしくお願いします。ミシェルさん」
僕も、笑顔を返す。
「「「「「きゃー!」」」」」
多くの女性職員が、悲鳴をあげる。
どうしたんだ? いや、僕のせいか。
無闇に笑顔を振り撒くのは、止した方がいいな。先に進まなくなる。
僕は笑顔を止め、普通に接する。
そして、ミシェルさんから行商人登録について、色々と説明を受ける。
まず店の規模により、SランクからGランクに分かれているらしい。
僕は店を持たない《行商人》である事を告げ、Gランクの登録をした。
登録料は五千マネー掛かり、Gランクの年会費は一年以内に十万マネーを支払う必要があった。
お金について説明すると、次の通りだ。
鉄貨(10M)<小銅貨(100M)<大銅貨(1,000M)<中銀貨(5,000M)<大銀貨(1万M)<小金貨(10万M)<大金貨(100万M)<神金貨(1,000万M)
お金の単位記号は《M》で《マネー》と読む。貨幣価値は日本の《円》と同じと考えていいだろう。
一般に流通しているのが鉄貨と銅貨と銀貨で、金貨は大商いの商人や貴族、高ランクのダンジョン探索者等の間で使われる。
神金貨はオリハルコンでできていて、ほぼ流通していない幻の通貨とされている。
この街に住む四人家族であれば、一月贅沢しなければ十五万マネー位でギリギリ生活できる。
ちょっとした贅沢をするなら三十万マネー位必要だろう。
しかし、生活費とは別に人頭税を一年に一度納める必要があり、その金額は領地によってばらつきがあった。
一般的に五歳未満は非課税で、成人を迎える前の十五歳未満は通常の半額とされている。
お金の手持ちが少なかったので登録料だけ支払い、Gランクのアイアンカードを受け取った。
その時に、思いもよらない注意事項を聞かされる。
「えっ、魔法薬を含む薬品類・魔道具・武器・防具・宝石を売るには、資格が無いと売れないんですか?」
「はい、粗悪品が世に出回らないようにする為です。ですが、資格を持っている人に卸す事はできますよ。その人が最終的に品質を保証する事になります」
「はあ、そうですか。残念です」
僕のアイテムボックスには、これらの商品は大量に眠っている。高額で売れる主力商品だった。
「それでは、宝石を使った工芸品やアクセサリーはどうなんですか?」
「そうですね。正直言うと、そこは曖昧ですね。宝石をメインとした高価な物はだめですが、価値の低い小さい物をワンポイントで使うような物は見逃されてますね」
「えー、分かりづらいよー」
「それでしたら、その土地の店を見て歩いて情報を仕入れたらいいですよ」
「そうですか、分かりました」
ここでこれ以上話してもしょうがないと思い、一応納得した体を装った。
財布の中が心もとないので、ここで何かを売る事にした。
やはりここは定番の塩だろう。海へ行って錬金術で作り、《亜空間収納》には十トンもある。
父さんにも渡してスーパーで、特別安く売ってもらっている。
「すみません。売りたいものがあるんですけど」
「買取りでしたら、あちらの買取りカウンターに並んでくださいね」
ミシェルさんは、ウインクしてそう言った。
僕は買取りカウンターに並び直し、麻袋に入った十キログラムの塩を二十万マネー枚で買い取ってくれた。
上品質と鑑定され、高値が付いた。
兄ジークと売りに来ていたから知っていたけど、今回は全て僕の収入である。
まだ大量に持っているので、これだけで一財産だ。
ついでにこのお金で年会費を支払い、カードに支払い済みと入力してもらった。
その後も旅の途中で商業ギルドに寄り、その都度塩を売って旅の資金にしたのであった。




