第四十話 ツアーコンダクター
父さんから村人達の街案内を頼まれ、今日がその第一陣の日だった。
順番が決まるまで数日掛かったので、その間に行商の仕事は済ませた。
「ニコルちゃんとお出掛けなんて、母さん楽しみだわ」
「ニコル、今日は頼んだぞ」
「案内するのは構わないけど、屋台とダンジョンくらいしか知らないんだよね」
案内する村人は四組みの夫婦で、その中には父さんと母さんも含まれていた。
「ニコル君の別荘、中古って聞いてたけど随分綺麗ね」
「本当に、いいお家ね。おばさん、住んじゃおうかしら」
「あら、それなら私だって」
「えーと、今日は日帰りですし、そろそろ繁華街に行きましょうか」
別荘のお披露目が終わると、馬車で繁華街へ向かった。
◇
馬車の荷車は、観光用に新たに作った。
左右の長手方向に長椅子を設置し、向かい合って座るような形だ。
屋根や背もたれはあるけど、景色を眺められるように壁は作らなかった。
プラーク街はエシャット村と同じ温暖な気候なので、今は二月だが寒くないのである。
「お腹が、空いてきたわ」
「私もー。楽しみで、朝食を抜いたんだからー」
「あら、私もよ」
美味しい屋台があると聞いて、みんな朝食を抜いて来たらしい。
僕はシロンとシャルロッテと別荘に宿泊し、今朝もしっかり食べている。
そのシャルロッテは馬車を引き、シロンは御者台の僕の横で丸くなっていた。
◇
馬車を走らせると、十分もせず繁華街が見えて来た。
「いい匂いがするわね」
「本当、いい匂い」
「お肉の焼ける匂いね」
繁華街に入ると、ダンジョン探索者で賑わっていた。
「あそこのスープが、美味しいよ」
「ニコルちゃんのお勧めね。母さんと一緒に、食べに行きましょう」
御者台に座る僕に、母さんは後ろから抱きついてきた。
「僕はもう朝食を済ませたから、みんなで行ってきなよ」
「駄目! ニコルちゃんも、一緒に行くの!」
「父さん、何とかしてよ」
「俺には無理だ。自分で何とかするんだな」
「えー!」
母さんが、僕に抱きついて放さなかった。僕は説得を諦め、同行する事にした。
馬車をその辺に置いて長時間離れる訳にもいかず、シャルロッテを説得し有料駐車場に預けた。
「シャルロッテ、暴れるなよ」
「ヒヒーン!」
「シロン、見張りを頼むぞ」
「ニャー」
僕は心配になりながらもこの場を離れ、母さん達を案内した。
◇
僕が勧めたのは、トマトとキャベツとトウモロコシと玉ねぎ等の野菜と手羽先が入ったスープだ。
食材の殆どは、ダンジョン産のようである。
値段は四百マネーし、エシャット村の物価で考えると少し高った。
僕が勧めた事もあり、みんな食べる事になった。
自分で好きな物を選んでいいのに、こういう場所に不慣れなのでしょうがない。
「お客さん。そこのテーブルで、食べてくんな」
「分かりました」
使い捨ての食器ではないので、店先に用意されたテーブルで食べる事になった。
「このスープ、美味しい」
「この赤い色は、トマトなのね」
「このお肉も、とっても美味しいわ」
手羽先は一度焼いていて、スプーンでつつくと肉がほろほろと崩れる程柔らかい。
野菜からは、旨味と甘味とトマトの酸味が出ていて美味しかった。
「ニコル、肉はどの店がお勧めだ?」
スープだけでは物足りなかったのか、父さんが尋ねてきた。
「あそこの《ブータ》の串焼きが、美味しいよ」
「そうか、なら買いに行くぞ」
「あなた。私の分もお願いね」
「分かった」
「俺も行くぞ」
「「俺もだ」」
僕を除いた男性陣はみんな立ち上がり、買いに行ってしまった。
「おほー、本当に上手いぞ」
「やっぱり、職人が焼くと違うな」
「こういう、賑やかな場所で食うのもいいな」
概ね好評で、この後街を見て歩き、みんな慣れたのか美味しそうな店を見付けると各々食べていた。
◇
「エシャット村でも同じ食材を売ってるけど、ちょっと高いかしらね?」
「村ではニコルのお陰で、安く売ってるからな」
「ニコルちゃんは、やっぱり太っ腹ねー」
「ニコルちゃんのお陰で、エシャット村は本当に住み易くなったわ」
村の物価を上げると、給料も高くしないといけないので、僕の仕入れた物はなるべく安くしている。
「あのお肉、随分高いわね。百グラム一万マネーですって」
「本当だ。《コカトリス》のもも肉? たしか、ここのダンジョンの大ボスだった気がする」
「大ボス?」
「うん、一番強いんだ。滅多に、手に入らないんだろうね。食べた事は無いけど、きっと美味しいんだよ」
「私も、一度は食べてみたいわ」
エシャット村ではたまに、高級食材の《ミノタウロス》や《ブルドボア》の上質肉は既に食べられていた。
でも、僕もおばさんの意見に賛成で、今度ダンジョンで手に入れてみようと思った。




