第三十八話 亜空間ゲート使用開始
家を買いにエシャット村を発ってから、十日後に《亜空間ゲート》を通り帰宅した。
「どうだ、シャルロッテ。狭くないか?」
「ヒヒーン!」
「大丈夫って言ってるニャ」
この間作成した《亜空間ゲート》は、人を想定して作ったので、シャルロッテには窮屈だった。
なので、馬でも通れる大きさで、新たに作り直した。
当初《亜空間ゲート》は、別荘の家の中とスーパーの一角に設置するつもりだった。
しかし、シャルロッテや他の馬も移動する事を想定して、別荘と自宅の車庫に設置した。
ところが、エシャット村の《亜空間ゲート》は父さんやスーパーの従業員に管理して貰うので、スーパーの横に専用の小屋を建てて設置し直した。
小屋を建てた翌朝、父さんと母さんを別荘に案内する事になった。
「ここが、プラークか。本当に、扉で繋がってるんだな」
「凄いわ! ニコルちゃん」
二人は初めて《亜空間ゲート》を通り、驚いている。
「これが、僕の別荘だよ」
「自宅より、大きいんじゃないか?」
「平屋だから広く見えるけど、床面積は自宅より小さいかな」
「ニコルちゃん。母さんも、泊まっていいんでしょ」
「母さんや父さんや家族は、自由に使っていいよ」
《亜空間ゲート》を使えば直ぐに帰れるけど、旅行気分を味わうなら宿泊するのもいいかもしれない。
村の人達には、《亜空間ゲート》の使用料金と同じ、一人一泊千マネーで貸す予定である。
「ありがとう。ニコルちゃん」
母さんは、そう言って僕に抱き付いて来た。
恥ずかしいので、何かある度に抱き付くのは、そろそろ止めて欲しい。
この後、家の中を一通り案内し、家の鍵と《亜空間ゲート》の鍵を父さんに渡した。
エシャット村へ帰る時は、《亜空間ゲート》を自由に使用していい事にした。
なので、プラーク側の鍵は掛けてない。
「街もゆっくり見て回りたいが、休みの日に改めて来るとしよう」
「残念だけど、しょうがないわね」
「そうだね。それじゃ、帰ろうか」
父さんと母さんは改めて来る事になり、その日はエシャット村に帰った。
◇
数日後、父さんと僕とサジとスギルを含む狩猟班で、改めて打ち合わせを持った。
狩猟班からは先日父さんとの打ち合わせで、『《亜空間ゲート》なんて、この目で見ないと信じられない』と言う意見が出たそうだ。
そんな事もあり、一度体験して貰う事になった。
「うおー! 何だこりゃー!」
「全然、違う場所に来たんだぜー!」
「「「「「おー!」」」」」
当然の事ながら、みんな驚いていた。
「ニコル、すげーぜ。ここまでしてくれるなんて、やっぱりお前は親友だな」
「勘違いするなよ。お前らに頼まれたのが切欠だけど、ここまでしたのは村の人達の為だからな」
「そうなのか? でもよ、こんなとんでもない魔道具に家まで買って、随分金が掛かったろう」
「ああ。サジの言う通り、随分掛かったぞ」
「ニコル! 本当に、感謝するんだぜー!」
スギルが僕の両手を掴み、『ブンブン』と何度も上下に振り感謝してくれた。
「ああ、分かった。もういい、止めろ!」
そう言いながら、スギルの手を振りほどいた。
「「「「「俺達からも、礼を言うぜ!」」」」」
今度は狩猟班の五人組が僕を囲んで、抱きしめて来た。
「もう、分かりました。離して下さい。男に抱き付かれても、嬉しくないですから」
僕が解放されると、みんなで別荘のリビングに移動した。
飲み物を用意し落ち着くと、父さんから狩猟班に改めて確認が行われた。
「ダンジョンには、以前決めた通り仕事として行くという事でいいんだな。その代わり、経費は全て村の運営費から出す」
「はい、いいです。ここまでお膳立てして貰って、文句は無いです」
そう応えたのは、狩猟班若手リーダーのニックさんだった。
「僕からも、武器や防具や魔法袋を提供するよ」
「ニコル。何から何まで、済まないな」
「いえ、いいんですよ。その代わり、ドロップ品はスーパーにちゃんと渡してくださいね」
「ああ、分かってる。任せろ!」
この後父さんは帰り、僕は用意してあった武器や防具を取り出し、みんなに選んで貰った。
「俺は、この大剣だ」
「俺は、片手剣と盾だ」
「俺は、槍にする」
「俺は、このボーガンってやつにするかな」
「しょうがない。俺が守備の要、大盾をやってやる」
最後に大盾を選んだのが、リーダーのニックさんだった。
この後、皮鎧等の防具を装備して、木製の武器に持ち替えて特訓を行った。
◇
数日後、狩猟班の五人組は、見事《ダンジョン探索者試験》に合格した。
そして、クルートとウェンディとミーリアの魔法使い組三人も合流して、僕達はプラーク街のダンジョンに来ていた。
「兄ちゃん。ダンジョン、久しぶりだな」
「クルート。随分、楽しそうだな」
「ニコルっち。ドロップ品、少し貰ってもいいよね」
「僕が狩ったのをやるよ。みんなが狩ったのは、スーパーの分だからな」
「ニコルちゃん。私、頑張る」
「ああ、怪我をしないようにな」
パン工房は魔道具の器具導入で時間に余裕ができ、服飾工房はミーリアのお母さんのアリアおばさんが働くようになった。
畑の方も今は忙しくないので、三人共連れて来る事ができた。
「さて、ここからは、みなさん主体で行動してください。僕は、極力手を貸しません」
「ああ、分かった。それじゃ、みんな行くぞ!」
ここは、狩猟班リーダーのニックさんに任せる事にした。
流石に十人で行動するのは多いので、ダンジョン経験者組と未経験者組に分かれた。
サジ達は慣れたもので、どんどん野菜の魔物を狩っていく。
未経験組の方も、それを見て狩りを始めた。
「おー、やったぞ!」
相手が野菜の魔物なので、手こずる事は無かった。
ドロップ品は麻袋に入れ、魔力を消費する魔法袋は、溜まった麻袋を入れる時使うようにした。
僕は彼らを見守りながら、たまに近くにいる魔物を狩っていた。




