第三十六話 亜空間ゲートの運用
僕の作った魔道具が、村人の流出を招くという問題を抱えたまま、新年を迎えた。
新年だからと言って、エシャット村や各家庭で行事が行われる訳ではなかった。
休みが、ちょっと長いくらいだ。
朝起きると、シロンはまだ寝ていた。
ダイニングキッチンにシロンの食事を用意し、着替えて厩舎へ向かった。
「シャルロッテ、お早う」
「ヒヒーン!」
シャルロッテとスキンシップを取り、いつもは与えない《モーモ》を食事に加えた。
「今日から新年だからな。特別にモーモをやるぞ」
「ヒヒーン!」
シャルロッテに食事を与えると、実家へ朝食をとりに行った。
引っ越しても、実家で食事をするのは、母さんの要望である。
「明けまして、おめでとう」
「ニコルちゃん、おめでとう。新年から、早速補充させて頂戴ね」
そう言って母さんは、僕に抱き付いて来た。
『本当に、何を補充してるのやら』と、思ってしまう。
◇
家族揃って朝食を済ませると、父さんと二人きりになった。
そして、昨日《亜空間ゲート》を作成した事を告げた。
「なっ、そんな物を作ったのか?」
父さんは今まで散々魔道具を見てきたが、この件に関しては相当驚いていた。
「うん。妥協しないで、作っちゃったんだよね」
「妥協しないでって、限度があるだろ。父さんは学が無いから分からんが、それって国王様でも持ってない代物なんじゃないのか?」
「どうだろうね。国王様なら、持ってるかもよ」
《亜空間ゲート》は、二つの扉を《亜空間》で繋げた物である。
二つの扉がどんな距離にあっても、亜空間内は二メートルに固定されている。
国王様が持ってるかはどうでもいいので、敢えて調べなかった。
「ニコル。こんな大層な物の管理を、俺にさせるのか?」
「父さん、村長でしょ」
「いやまあそうなんだが、村長でも荷が重いぞ」
「嫌なら、誰かに任せれば」
「誰かって、誰だ?」
「分からないよ。兎に角、自由に使われても困るから、鍵の管理は頼むよ。人数も制限してね」
「ああ、分かった」
「それと、使用者の名簿を作って、誰が使用して誰が帰って来てないか管理してね」
「名簿だな。分かった」
「それから、使用料金も取るからね」
「金かー。いくらにするつもりだ?」
「そうだね。千マネー位でいいんじゃない」
「千マネーか。安い気もするが、ニコルがそう言うならいいだろう。ところで、ニコル。エシャット村の扉は何とかなるが、プラーク街の扉はどこに置くんだ?」
「それなんだけど、プラーク街に家を買おうと思うんだ」
「家? 大金が掛かるだろう」
「《亜空間ゲート》を、その辺に置けないからね」
「ニコルには、いつもながら負担を掛けるな。それで、家の管理はどうするんだ?」
「家に《結界》を張るから、必要無いかな。時々、見に行くくらいでいいよ。結界の設定で中から外に出た人しか、通さないようにするから」
「そんな事まで、できるのか。ニコルは、本当に凄いな」
「みんなには、内緒だからね。あくまでも、魔道具のお陰って事にしてね」
「ああ、分かってる」
既に能力の一部は村の人達に見せていたが、《過ぎたる力》は災いを招くようで見せたくなかった。
「それで、一つ心配な事があるんだ」
「ニコルが心配? いったい何なんだ?」
「気にし過ぎかもしれないけど、プラーク街を気に入って、エシャット村を出ていっちゃうかも」
「何ー!」
「向こうは、美味しい屋台がいっぱいあるからね。ダンジョンもあるし、稼ぐ手立てがあれば分からないよ」
「村人の流出か。困った問題だな」
「エシャット村の方が住みやすいと思えれば、大丈夫かもね」
「そりゃーニコルのお陰で、昔に比べたら随分住みやすくなったが、ダンジョンのある街と比べられたらなー」
父さんは僕の言葉を聞いて、びびってしまった。
「父さん。心配なら、《亜空間ゲート》を使うの止めようか?」
「いや、少し考えさせてくれ」
「そうなの? それじゃ、決まったら教えてね」
「ああ」
僕は父さんが答えを出すまで、次の行動を待つ事になった。
◇
夕食後、父さんに呼ばれた。
「ニコル。俺は決めたぞ!」
「そう、決めたんだ。で、どうするの?」
「《なんとかゲート》を使うぞ。ニコルが、村を良くしてくれたんだ。出て行く奴は、心配する程多くないだろう」
「そう、分かった。あと《なんとかゲート》じゃなくて、《亜空間ゲート》だからね」
「あっ、ああ。《亜空間ゲート》だな。使わせて、貰うぞ」
「それじゃ、近々プラーク街に行ってくるよ」
「ああ、頼む」
「それと、狩猟班の方は仕事として行かせるのか、休暇を取らせて行かせるのか決めておいてね。給料とドロップ品の扱いが変わってくるから」
「ああ、決めておく」
僕は三日後、シャルロッテの引く馬車で、シロンを連れてプラーク街に出掛けた。




