第三十五話 サジとスギルのお願い
養鶏場を後にし自宅へ帰ると、そこにはサジとスギルがいた。
今日は日本で言うところの《大晦日》で、二人は年末年始の長期休暇中だった。
そういう意味では、生き物相手の仕事を押し付けて、ダリルさんとエレンに悪い事をした。
「よー、ニコル。ダンジョンに、行ったんだってな」
「スーパーでダンジョン産の商品を見て、エレナさんに聞いたんだぜー」
どうやら二人は、僕がダンジョンに行った事に気付いたらしい。
しかし、昨日までの行き先は誰にも言ってないので、一ヶ月以上前の仕入れの旅の事を言っているのだろう。
「仕入れが、思ったより上手くいかなかったからな。その分の補填だよ」
僕がそう言うと、二人は突っ掛かって来た。
「何で、俺達を誘ってくれねーんだよ。ダンジョンに、一緒に行った仲じゃねーか」
「そうだぜー」
「そんな事、言われてもなー。仕入れの旅の途中だったし」
「なー、ニコル。俺達、ダンジョンに行きたいんだ。どうにかならないか?」
「お願いだぜー」
いつかこういう日が来る事は、予想していた。
力の有り余ってる僕達の年頃だったら、一度で満足するはずはなかった。
『二人が強くなる事には賛成だが、さてどうしたものやら』
そんな事を、心の中で呟いていた。
「狩猟班の方は、大丈夫なのか?」
「それがよー。俺達狩りの腕前はまだまだだけど、ダンジョンで力やスピードやスタミナが付いたろ。先輩達がそれを羨ましがって、ニコルに話しを付けてくれってうるさいんだ」
「うるさいんだぜー」
「何だよそれ。お前らだけじゃ、ないのか?」
「「そうなんだ(ぜー)」」
「まさか、《亜空間農場》の事は、言ってないだろうな」
「言ってない。言ってない」
「約束したんだぜー」
「そうか、それは良かった。それで、何人いるんだ?」
「俺らと、独身組みの五人」
「クルートも、誘いたいんだぜー」
「八人か。不便だけど、《亜空間農場》を使わないという事ならいいぞ。それと、仕事を長期で休むんだ。狩猟班の班長と父さんの許可も必要だな」
「分かった。許可を取って来る」
「取って来るんだぜー!」
最終的な判断は、父さん達に委ねてしまった。
◇
暫くすると、サジとスギルが戻って来た。
「ニコル、許可が出たぞ!」
「出たんだぜー!」
「良かったな。すんなりいったか?」
「二人共、ニコルの言う事を聞けってさ」
「何それ。お前らの先輩も、いるんだぞ」
「まーな。よろしく頼むぜ!」
「頼むんだぜー!」
結局、行ったばかりのダンジョンに、また行く事になってしまった。
◇
二人が帰ると、父さんの所へ確認しに行った。
「ニコル、済まんな。奴らの面倒を、見てやってくれ」
「そうだね。僕がやり始めた事だから」
「なあ、ニコル。他のやつらにも頼まれたら、どうするるんだ?」
「えっ!」
「みんな、連れて行くのか?」
「いやいや、無理無理。往復だけで、何日掛かると思ってるの?」
「でもな、ダンジョンの食材なんかも評判いいし、街に行ってみたいって声も上がってるぞ」
「そうなの? だったら、狩猟班を連れて行ったら、余計に希望者が増えそうだね」
「それに昨日、『野鶏を増やすの難しくなった』って、言ってただろ。山で狩りをするより、ダンジョンの方が効率良さそうだ」
昨夜のうちに、野鶏の産卵数が少ないせいで、思うように数を増やせない事を伝えている。
「でも、ダンジョンは危険だし、給料やドロップ品の扱いを決め直さなきゃだめだよ」
「それはニコルの言う通りだが、問題は解決すればいいだろ。今まで、そうして来たじゃないか」
「そうだけど」
「それなら、今回も」
「分かったよ。いい案を、考えてみるよ」
そう言うと、僕は自宅に戻った。
◇
リビングのソファーで寛ぎながら、村人達が『プラークの街に、行きたい』と言い出した時、どう対応するか考た。
「行く事を前提に考えると、一番の問題は往復する距離だよな」
当初、シャルロッテでも、片道九日掛かっていた。
この世界の交通事情だと当たり前なのだが、時間と金銭的な負担が大きい。
エシャット村の人達にとって、簡単な問題ではなかった。
「今の収入だと、屋台巡りをするくらいがやっとだな。旅の途中、宿に何回も泊まってたら破産するぞ」
その都度僕が連れて行って、資金援助をする訳にもいかない。
だからと言って、《転移魔法》で送り迎えなんて、尚更したくなかった。
「《亜空間ゲート》」
そんな言葉が、不意に出てきた。
今まで《亜空間ゲート》なんて作った事は無かったが、《空間属性魔法》の《亜空間創成》を《属性付与》すれば理屈上作れる。
「しょうがない。作ってみるか」
「ご主人、何を作るのか二ャ?」
突然、シロンが現れた。
「プラーク街とエシャット村を繋ぐ、《亜空間ゲート》を作ろうと思うんだ」
「そんな物作って、大丈夫なのか二ャ?」
「分からない。でも、僕が彼方此方出掛けてるのに、村の人達はどこにも行けないからな」
「プラークの方が良くて、帰って来ないかもしれない二ャ」
「うっ、有り得るな」
「どうする二ャ?」
「どうしようか?」
その後、運用については、父さんに相談する事になった。
《亜空間ゲート》の魔道具については、ど○でもドアのような扉を二つ一組にして、その間を行き来できる仕様にした。
大量の魔力を使用したが、難なく作れてしまった。
《亜空間ゲート》は仕入れの旅で買った事にして、後は設置するだけだった。




