第三十三話 スーパーとパン工房と服飾工房と養鶏場
十一月の下旬の夕暮れ時、僕達は予定より早くエシャット村に帰って来た。
「ワン!」
ワン太が尻尾を激しく振って、出迎えてくれた。
「おっ、ワン太。出迎えご苦労。僕のいない間、異常は無かったか?」
「ワン!」
「そうか。それは良かった。後で魔力を補充してやるから、みんなを集めてくれないか?」
「ワン!」
ワン太に村の状況を確認すると、自宅へ向かった。
自宅に到着すると馬車を車庫に入れ、シャルロッテを厩舎に入れた。
「シャルロッテ、お疲れ様」
「ヒヒーン!」
そして、シャルロッテの食事を用意しようとした時、人の気配がした。
「ニコルちゃん!」
僕はその声の方を振り向いた瞬間、母さんに抱き付かれていた。
「母さん、ただいま」
「やっと帰って来た。母さん、寂しかったのよ。今直ぐ、補充させてね」
前にも思ったが、いったい何を補充してるのだろうか。
◇
二日後、早速僕が仕入れた品やダンジョンのドロップ品が、スーパーの店先に並んだ。
しかし、今年の仕入れ状況は良くなく、値上がりした物が多かった。
去年は運良く、ヤッチマッター街で大量に安く仕入れられたが、今年はそうもいかなかった。
まとまった数量を買う代わり、相場より安くして貰うのが精一杯だった。
その代わり、プラーク街のダンジョンには何度も足を運んだので、こちらは若干安くしてある。
ダンジョンでは、その度に《クロン》の事が話題になっていた。
値段は高くなっても、久しぶりに店に並ぶ商品に、村のみんなは喜んでいた。
「ニコル君のお陰で、いろいろな土地の物が楽しめるわ」
「ダンジョン産のお肉や野菜や果物も、大量にあるらしいわよ」
「モンブランケーキも、あるらしいわ」
仕入れ品の値上がりの不満を解消する為、旅の途中でモンブランケーキを大量に作った。
そして、値段も若干安くしてある。
こんな事もあり、村の人達に顔を合わせる度に感謝された。
◇
パン工房には、新しい器具を導入した。
今までパン生地の醗酵は、王都のパン工房を真似していた。
発酵用の保温ボックスに、お湯を張った容器を入れて温湿度の調整をする物だった。
しかし、これだと作業の手間や管理に、随分と時間を取られていた。
それを改善したいと思っていた僕は、旅の途中でその醗酵用の魔道具を、設計し作ってしまったのだ。
これは、お湯を用意せずとも、自動で温湿度を調整できる優れものだ。
そして、パン生地の手捏ねも大変な作業だったので、同じく魔道具を作成してしまった。
「ニコル。便利な魔道具を手に入れてくれて、本当にありがとう。随分と、お金が掛かったんじゃないのか?」
「うっ、うん。でも、大丈夫。気にしないで、マルコさん」
僕は本当の事を、言えなかった。
魔道具は、未だによその街で買った事にしている。
素直な村の人達は、そんな僕の言葉を疑わなかった。
ちょっと、後ろめたい気持ちがある。
「これからは、効率良くパンが作れるぞ」
「そうですね。これなら、ミーリアの助っ人は、必要なさそうですね」
「えっ! ミーリアちゃんの手伝いは、終わりなのかい?」
「そうしたいんですけど、駄目ですか?」
「ニコル、何か理由があるのか?」
「そうですね」
僕は服飾工房の事を、マルコさんに話した。
「そうだったんだ。なら、しょうがないな。ミーリアちゃんに、直接話してくれ」
「はい。どうするかは、ミーリアに決めさせます」
この事は、服飾工房の準備が整ってから、ミーリアに話す事になった。
この時、魔道具の精麦機と製粉機も作ってあったのだが、また人手が足りなくなりそうなので、パン工房に導入するのは見送った。
◇
パン工房への新しい魔道具の導入も済み、服飾工房に取り掛かった。
建物は完成しているので、何も無い部屋に棚・収納・テーブル等の家具を設置し、ミシン・裁縫道具・マネキン・デザイン画付きの型紙等の仕事道具を配置していった。
服用の生地も、お金は掛かったが、去年の十倍仕入れてある。
「ミーリア。可愛らしいのが、できたな」
「うん。このミシンと型紙があれば、割と簡単にできるね。それに楽しい」
「そうか良かった。ミーリアが断ったら、他の人を探すところだった」
「私、こっちを選んで良かった。ニコルちゃん、女の子連れて来るもん」
「ははっ。まあ、頑張ってくれよ。人手が足りないようだったら、連れて来るぞ」
「うん。そう言えば、お母さんが興味持ってた」
「アリアおばさんか。ミーリアの先生だし、適任かもな」
この後ミーリアは、ミシンを上手く使いこなす練習に、自分が着たい服を作りまくるのだった。
◇
服飾工房の立ち上げも済み、今度は《野鶏》を村で飼う為に、養鶏場を建てていた。
「よし、できたぞ」
養鶏場は、割りと早くでき上がった。
餌の準備もできたし、野鶏を捌く施設も別に建てた。
「後は、これを誰にまかせるかだ」
毎日の餌やりと、掃除は結構面倒だ。
それに、卵の回収に野鶏を捌かなきゃいけない。
「兄ちゃん。これは、何の建物だ?」
「クルートか。野鶏という鳥を、ここで育てるんだ。これで、肉とたまごが定期的に、手に入いるようになる」
「いいなー、肉かー」
「なあ、クルート。鳥の世話を、毎日してくれそうな人を知らないか?」
「俺やってもいいけど、《土属性魔法》が畑で活躍してるからなー」
「クルートは、畑の方から抜けないな。誰かいたら、教えてくれよ」
「分かったー」
暫くすると、クルートが戻って来た。
「兄ちゃん、連れて来たー。隣りのダリルおじさん」
「もう、連れて来たのか? 随分、早いな。ダリルさん、鳥の世話やってくれるの?」
「ああ、別に構わんぞ。ニコルが、新しい事をしようとしてるんだ。協力しないとな」
「ありがとう。それじゃ、詳しい説明をするから、父さんのところに一緒に来てくれるかな?」
「ああ、いいぞ。それと、一番下のエレンも一緒でいいか?」
「うん、いいよ。一人じゃ、大変だからね」
「済まんな」
こうして、野鶏の飼育の件も何とか目処が付いた。
これで、《亜空間農場》の野鶏の世話をしなくて済むし、エシャット村でも肉とたまごが確保できそうだ。




