第三十話 家畜の仕入れ
《ノーステリア大公爵領》の領都の門をくぐると、その足で商業ギルドを訪れた。
美人揃いの受付けに並び、暫く待つと順番がやって来た。
「こんにちわ。Gランクギルド会員のニコルと言います」
挨拶をしながら、受付嬢に会員証を見せた。
「いらっしゃいませ。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「実は乳牛や豚や鶏を、生きたまま仕入れたいんですけど」
今回この領地へ来た目的は、家畜を仕入れる事だった。
それを持ち帰って、エシャット村で育てるという寸法だ。
この領地では、大量の肉をよその領地より安く売っているので、手に入り易いんじゃないかと思ったのだ。
だが、僕の期待とは反対の応えが返ってきた。
「残念ですが、家畜は簡単に売って貰えませんよ」
「どうしてですか?」
「今は価格が安定してますが、二十年位前に家畜の売買が原因で、価格競争が起きたんです」
「価格競争ですか?」
「家畜を買い集め年数掛けて増やし、お肉やなんかを安く売り始めた人がいたんです。買う側にとっては、嬉しい事なんですけどね」
「へー」
「それからも、似たような事がいろんな商品で起こって、この領地の物価は安くなったという経緯があります」
「誰かの意図で、操作されてるみたいですね」
「大きな声では言えませんけど、これらを仕組んだのは、現在の領主様という噂です」
「それ、僕に話していいんですか?」
「あくまでも、噂ですよ。ここだけの話しにしてくださいね。そういう訳で、よっぽどのコネが無ければ、家畜は売って貰えませんね」
「コネですか。そんなの無いですね」
僕の目論見は、困難なものとなった。
「そっ、そんなに、落ち込まないでください」
僕がよっぽど落ち込んだ顔をしたのか、受付嬢が気使ってくれた。
「はい、ありがとうございます。それじゃ、失礼します」
「また、来てくださいね」
この後買取りカウンターに並んで、塩と胡椒を売って商業ギルドを後にした。
その頃、受付嬢はというと。
『あーあ、行っちゃった。食事にでも、誘いたかったな。イケメン君ったら落ち込んだ顔をして、私の母性本能をくすぐるんだもん』
こんな事を、考えていた。
◇
僕は馬車を取りに、商業ギルドの駐車場へ向かった。
「参ったなー。お金を出せば買えると思ってたのに、コネが必要だとは」
「ご主人、落ち込んでどうしたニャ」
周りに人がいないので、シロンが話し掛けてきた。
「家畜を買うには、コネが必要なんだってさ」
「コネは無いけど、ネコならいるニャ」
「そうだな。ネコなら、目の前にいるな。それじゃ、シロンに何とかして貰うか」
「そんな事、ネコには無理ニャ」
「そうだよな。知ってた」
シロンの駄洒落に応えただけで、別に期待はしてなかった。
「ヒヒーン! ヒヒーン!」
「ウマはいるけど、ウマくいかないって言ってる二ャ」
シャルロッテも、動物駄洒落で乗っかってきた。
「そうだな。上手くいかないな」
上手い言葉が見つからず、適当に応えてシャルロッテを撫でてやった。
「ヒヒーン!」
それでも、シャルロッテは喜んでくれたみたいだ。
この後、鍛冶屋のゴーシュさんのところへ、寄って行く事にした。
◇
ゴーシュさんに鋼のインゴットをまとめて卸した後、家畜関係にコネが無いか聞いてみた。
「兄ちゃん。力になれなくて、すまねえな」
「いや、いいんですよ。駄目元で聞いただけです」
だが、ここでも期待した返事は、返って来なかった。
この後、繁華街で仕入れをしながら、同じ事を聞いて回った。
しかし、どこも同じで、よくある《ご都合主義》的な事は起こらなかった。
「やっぱり、直談判するしかないのかな?」
この日は仕入れを済ませ、シャルロッテを説得して宿に泊まった。
◇
翌朝、領都の門をくぐり壁の外に出た。
そして、大規模な酪農家・養豚場・養鶏場を探した。
最初に、乳牛を育てている酪農家に足を運んだ。
「あんちゃん。いくら金を積まれても、牛は売れねえよ。この領地じゃ、どこに行っても無駄だぞ」
「そうですか。失礼しました」
次は、養豚場に足を運んだ。
「兄さん、帰んな。仕事の邪魔だ」
その次は、養鶏場に足を運んだ。
「お兄さんは、食肉用とたまご用のどっちの鶏が欲しいんだ? うちのは食肉用だぞ。種類が違うんだ。まー、どっちにしろ売らないけどな」
その後いくつか足を運んだが、どこも断られてしまった。
「やっぱり、駄目かー。 しかし、肉用とたまご用の鶏がいるなんて、初めて知ったよ。そう言えば前世で、野生の鶏がいるって聞いた事があるな」
「野生でも何でも、美味しければいいニャ」
「そうだな。探してみよう」
早速、《検索ツール》で探してみた。
すると、ダンジョンの街プラーク付近の森に、結構な数の《野鶏》を見付けた。
「シロン、やったぞ。プラークに、結構いるぞ」
「プラークはダンジョンで肉が手に入るから、狩られてないニャ」
「それ、当たってるかもしれないな。この際、肉用とかたまご用とか言ってられない。兎に角、確保しに行くぞ」
僕達は、《転移魔法》でプラークの街に向かった。




