第二十九話 仕入れの旅、再び
二日間掛けてミーリアに白パン作りの作業指導をし、三日目にマルコさんに引き渡した。
「マルコさん、ミーリアを頼みますよ」
「ああ、任せてくれ。ミーリアちゃんは、筋がいいから助かるよ」
「ミーリア。みんなの言う事を、ちゃんと聞くんだぞ」
「うん、分かった」
パン工房を後にすると、僕は直ぐに建築中の服飾工房に取り掛かった。
中途半端にしておくのは嫌なので、行商に出る前に建物だけは完成させたかった。
建物は平屋で、シンプルな造りにした。
そして、三日後に建物は完成した。
「よし、できたぞ。設備や道具は、帰って来てからでいいな」
魔道具のミシン・裁縫道具・型紙・マネキンなんかは、既に作ってあった。
ミーリアはしばらくパン工房で働いて貰うので、服飾工房が稼動するのは当分先である。
「九月に入った事だし、去年仕入れたところへ行くには、丁度いいな」
そんな独り言を呟いていると、シロンがやって来た。
「ご主人、終わったのかニャ?」
「ああ、今完成したところだ。これで、行商に出れるぞ」
「それは良かったニャ。それで、いつ行くニャ?」
「そうだな。明日は休みにして、明後日の朝だな」
「そうか、明後日ニャ」
厩舎へ行き、シャルロッテにも同じ事を伝えた。
「ヒヒーン!」
「そうか。そんなに、遠出が嬉しいのか」
シャルロッテは、喜びのあまりステップを踏んだ。
「ハァ。後は、母さんの説得だな」
自然と、溜め息が出てしまった。
◇
一昨日の夜、母さんに行商に出る事を伝えた。
案の定、母さんに駄々を捏ねられ、引き止められてしまった。
そして今まさに、僕達はエシャット村を、旅立とうとしている。
「母さん。その風呂敷は、何なの?」
「母さんも、ニコルちゃんと一緒に行くのよ」
母さんは、満面の笑顔で応えた。
「えっ、マリアおばさんも行くの? だったら、私も行く!」
見送りに来たミーリアも、母さんの言葉に反応して、そんな事を言い出した。
「母さんも、ミーリアも、連れていかないからな」
「「やだ、連れてって!」」
「母さんね。一度でいいから、ニコルちゃんとお出掛けしたかったの」
「私もニコルちゃんと、また旅をしたい」
二人は、真剣な顔で懇願して来た。
「僕は仕事で行くんだから、駄目だよ」
「ニコルちゃん。母さんは若い時、お父さんと領都に行ったきりなの。だから、お願い」
僕はそこで、この場を凌げるいい案は無いか考えた。
「母さん。今回は、我慢して。行商から帰って来たら、考えるから」
「ホントに?」
「本当だよ」
「ニコルちゃん。私もいい?」
「ああ、いいよ。だから、二人は今回留守番だ」
「「うん!」」
仕方なく、こんな約束をしてしまった。
僕は御者台に乗り、二人に声を掛けた。
「それじゃ、行くよ」
「「気を付けてねー!」」
馬車を走らせると、二人は手を振って見送ってくれた。
◇
僕達が最初に向かった場所は、《ヤッチマッター街》だった。
一気に《転移魔法》で、馬車ごと飛んでしまった。
「ヒヒーン! ヒヒーン!」
「ご主人を乗せて、もっと走りたかったって言ってるニャ」
「ごめんな。時間を、あまり掛けてられないんだ」
シャルロッテは、ちょっと不服そうにしていた。
「それじゃ、ミルフィーユお婆さんのところに行くぞ」
「ヒヒーン! ヒヒーン!」
「『およよー』の御婆さんのところね。任せてって言ってるニャ」
「ああ、任せたぞ」
馬車を走らせると、シャルロッテの機嫌は直ぐに良くなった。
「ミルフィーユお婆さん、お久しぶりです」
「およよー、イケメンのお兄ちゃんじゃないか」
「また、落花生を買いに来ました」
「およよー、嬉しいねー。でも、今年も豊作たけど、去年程じゃないんだよ」
「ええ、流石に同じ値段にしろとは、言いません。でも、安くして貰えたら、嬉しいです」
「分かったよ。十箱までなら、半額にするよ。およよー」
「はい、それでいいです」
僕はこうして、去年回った街や村を中心に、いろいろと仕入れていった。
そして、《転移魔法》で頻繁に訪れている《ノーステリア大公爵領》にも、いつもと違う用件で足を運んだ。




