第二十八話 エレナ姉さんの結婚とパン工房の助っ人
八月下旬、エレナ姉さんが十九歳の誕生日を迎え、ハンスさんのところへ嫁いで行った。
エシャット村には結婚式という祝い事は無く、家族だけで食事会が開かれるだけだった。
僕からは、ミノタウロスのヒレ肉のステーキ・美味しく熟成させた赤ワイン・三段のウェディングケーキを提供し、食事会は大いに盛り上がった。
翌日、僕がスーパーに顔を出すと、エレナ姉さんは普通に働いていた。
「エレナ姉さん、おはよう」
「ニコル、おはよう。昨日のケーキ、凄く美味しかった。また、作ってね」
「昨日のケーキは、エレナ姉さんの結婚祝いの特別製なんだ。ちょくちょく、作る物じゃないよ」
「くー、ニコルのくせに生意気! 作りなさいったら、作りなさい!」
「生意気でも何でもいいけど、僕は作らないよ。お店に売ってるケーキで、我慢してよ」
エレナ姉さんは、結婚しても傍若無人な態度は変わらなかった。
エレナ姉さんがスーパーの仕事を続ける事は、以前から決まっていた。
旦那のハンスさんも、スーパーが忙しくなり、最近従業員になった。
それまでは、次期村長のジーク兄さんの補佐的な立場で村の事に携わったり、隣街に胡椒や野菜や果物を売りに行っていた。
二人が隣街に行く時間が無いので、行商人の僕が商品を引き受ける事になった。
本来こうあるべきなんだが、今まで自分の商品を売る事で手一杯だった。
だけど、僕も忙しい事に変わりない。
しかし、このまま放置すれば、村の収入が無くなってしまう。
そこで、売値の八割の金額で、僕が全部買い取る事にした。
残りの二割は、僕の経費である。
でも、商品を売る時間が無いので、このまま《亜空間収納》の肥やしになりそうだ。
◇
パン工房が立ち上がり、僕は次の工房を手掛けていた。
そんなある日、マルコさんから相談があった。
「ニコル君。白パンの売れ行きが好調で、ストックがいい勢いで減ってるんだ」
「一日に、作る数と売る数を決めてましたよね」
「それが、村人からの要望が高くて、そういう訳にもいかなくなったみたいなんだ」
「想定外ですね」
「そんなんで、何とかならないかな?」
「分かりました。約束ですから、何とかします」
マルコさんに相談され、翌日助っ人を一人連れて来た。
「ニコルちゃん、どうかな?」
「うん、いい感じだ。ミーリアは、飲み込みが早いな」
「ホントに? ニコルちゃんに、褒められた」
ミーリアに助っ人を頼んで、今作業を教えている。
家でパン作りをしているので、要領が良かった。
それに、《生活属性魔法》が使えるので、掃除や洗い物の方でも活躍してくれるだろう。
こうなると、ウェンディの立場が無くなってしまう。
「ねえ、ニコルちゃん。今、建ててる建物は何なの?」
「ああ、あれか。あれは、服飾工房を建ててるんだ」
「へー、そうなんだ。働く人は、決まった?」
「いや、まだ決まってない。ミーリアが、服作りをやる気になった時の為に建てたんだ」
「えっ、私の為なの?」
「そうだけど、無理にやらなくていいんだぞ」
「やりたくない訳じゃないけど、私にできるか心配」
「工房を建てて、設備や材料の準備が整ってから考えてもいいぞ」
「うん」
「それとな、言っておく事があるんだ」
実を言うと、僕は行商の旅に出ないといけなかった。
隠れて王都やノーステリア大公爵領に行って、商品を卸したり仕入れたりしているけど、それでは辻褄が合わないのだ。
もう直ぐ八月が終わり実りの秋になるので、丁度いい時期でもある。
「なあに、ニコルちゃん」
「今建ててる建物の工事が終わったら、行商に出ないといけないんだ」
「うそっ! また、行っちゃうの」
「行商が、僕の本業だからな。じゃないと、村にいろいろな物が入らなくなるだろ」
「それじゃ、私も行く!」
「いやいや、連れて行く訳にはいかない」
「だって、ニコルちゃん。旅先で、可愛い娘に誘惑されるもん」
「ばっ、馬鹿。そんな事ないぞ。それに、年内には帰って来る。前みたいに、長くならないから」
この後、なんとかミーリアを説得したが、さらに困難な相手が待っていた。




