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神様候補の転生者は異世界のんびり生活を所望する  作者: sato
第五章 エシャット村発展編
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第二十六話 パン工房

僕はリートガルド伯爵領の領都から帰ると、早速パン工房の準備に取り掛かった。


「白パンを作るには、質の良い小麦粉は必須だな」


エシャット村では水車の動力で石臼を回して、籾取りした小麦を表皮ごと粉になるまで挽いている。


イースト菌を使わない上に、表皮まで混ざった全粒粉で作るパンは、どうしても硬くなってしまう。

ちなみに、イースト菌は個人的に培養して既に持っていが、村にはまだ広めてない。



小麦粉作りの専門知識が無いので、今回も《検索ツール》で調べてみた。


小麦の粒は表皮と胚芽と胚乳からできていて、その内胚乳だけ使うと白パン用の小麦粉になる。

だが、余分な表皮と胚芽を取り除く工程が、かなり面倒臭い事が分かった。


今更だが、白パンが高額な理由の一つが分かった。


「従来通りの方法だと、手間が掛かり過ぎるぞ。小麦粉作りに、多くの人は使えないや」


僕はパン工房での小麦粉作りを早々に諦めて、錬金術で作った物を提供する事にした。



次に大事なのは、パンを焼く設備だと思い早速取り掛かった。


「村では石釜を使ってるけど、これじゃ大量に焼けないな。『餅は餅屋』と言うし、『パンはパン屋』を調査した方がいいな」


僕は、王都で最初に買ったパン屋を調べた。


「魔道具の業務用オーブンか。これなら、一度にたくさん焼けそうだ。これを作っちゃえば、手っ取り早いな」


早速《検索ツール》で構造を調べ、《亜空間収納》の中で錬金術を使い同じ設備を作ってしまった。


「よし、できた。次に必要な物は、何だっけ?」


そこまで呟いて、初めて気が付いた。

なんとなく白パン作りのイメージはあったのだが、詳しい事は知らなかった。


錬金術で作る時は、完成品をイメージできたので工程は必要なかった。


「良く考えたら、黒パンと白パンでは作り方が違うよな。村人に説明しないといけないから、図解入りの《マニュアル》が必要だ」


僕は設備や道具を揃える前に、マニュアル作りを先に行う事にした。



《検索ツール》で調べながらマニュアルを作成すると、かなり知らない事があった。


小麦粉の量に対するイースト菌の分量、一次・二次醗酵の温度・湿度・時間の管理、一次醗酵後のガス抜き。

これらが上手くいかないと、ふんわりしたパンにならないのだ。


「安易にパン工房作りを考えてたけど、いざ取り掛かってみるとやる事が結構あるぞ」


思わず、愚痴を零してしまった。


「問題があれば、その都度改善していくしかないな」


この後右往左往しながらも、着々とパン工房の準備を進めていった。



一ヵ月後、準備は整った。


スーパーの裏にパン工房を建築し、設備や道具を設置して、僕の手で試作品を作ってみた。

上手い具合に設備も稼動し、いい感じの白パンを作る事ができた。


ちなみに、工房ではパンの販売はせず、スーパーで販売して貰う事になった。


準備が整ったので、村人の中からパン作りに自身のある人を募集してみた。

そして、腕前を確認する為にいつも使ってる全粒粉の小麦粉で、パンを作って持って来て貰った。


審査は、僕と父さんと母さんで行う事になった。


「ウェンディ。何でここにいるんだ?」


「ここで働けば、美味しいパンをただで食べれるんでしょ!」


ウェンディは、本気とも冗談ともとれる口調で言った。


「それは違うぞ。美味しいパンを、作れる人を募集したんだ」


「ぶー! そんな事知ってるわ。私を見くびらないでね」


ウェンディは自信ありげだが、料理をするなんて聞いた事がなかった。

パンが美味しければ、採用するんだけどね。


応募者は、ウェンディを入れて六人。採用は、五人の予定だ。


早速パンを一口サイズに切り分け、僕と父さんと母さんで、みんなが作ったパンを食べてみた。



六人のパンを食べ終え、評価を伝える時が来た。


「うん。一つ、不味いのがある。そして、美味しいのも一つある。その他は、普通だね」


「そうだな。俺も同じ意見だ」


「母さんもよ」


父さんも母さんも、同じ意見だった。


「僕が美味しいと思ったのは、この皿のパン」


「俺もだ」


「母さんもよ」


父さんと母さんが美味しいと感じたのも、僕が選んだパンだった。


「えー! 私のじゃないのー!」


それを聞いて、ウェンディが叫んだ。


「ウェンディ。凄い自信だけど、一つだけ不味いのは、お前のパンだからな」


「うそー!」


「いや、俺も同意見だ」


「ウェンディちゃん、ごめんね。私も同じよ」


「えー! それじゃ私、ここで働けないのー?」


「ウェンディ以外の五人は、合格でいいと思う」


「そうだな」


「お母さんも、賛成よ」


「ひどーい! 私だけ不合格なのー! 頑張って作ったのにー!」


「しょうがないだろ。お前の作ったパンじゃ、誰も買ってくれないぞ」


「ニコルっち。将来性を、買って欲しいのよね。将来性を!」


「どう思う父さん?」


「洗い物や掃除や片付け、やる事はいろいろあるから、いいんじゃないか?」


「父さんは、甘いな。それじゃ、パン作り以外の仕事をするという事でいいね」


「やったー! それでいいよ」


ウェンディは将来性をアピールする事で、なんとかパン工房で働ける事になった。


「今回一番美味しかったのは、唯一男のマルコだ。お前、ここの責任者になってくれないか?」


「えっ、僕ですか? パンを作るのは好きですけど、責任者は荷が重いです」


「大丈夫だって。困った事があれば、俺やニコルに言ってくれ」


「そうですか。それなら、引き受けます」


マルコさんはちょっと気弱な、二十二歳の独身男性だった。



その後、更衣室・休憩室・トイレ・洗面所・貯蔵庫を案内し、最後に調理場を案内した。


「「「「「うわー、凄ーい!」」」」」


「本当に凄いですね。初めて見る設備や器具ばかりだ」


「ニコルっち。たくさん、お金使ったでしょ」


「まあ、それは内緒と言う事で。皆さんには、これから設備の説明をします。早く使いこなして、美味しいパンを作ってください」


「「「「「「はい!」」」」」」


「まかせてー」


一人不安な人物はいたが、残りの五人は希望に満ちた笑顔で、元気良く返事をした。


慣れるまで時間は掛かるだろうが、ようやくパン工房が動き出そうとしていた。

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