第二十五話 盗賊退治した者の行方
僕が父さんのところへ戻ると、商店を見て回っているところだった。
「父さん、ただいま」
「おー、ニコル。もう済んだのか?」
「うん。ゴルド村の村長さんに、魔法袋を渡して来たよ。中身も大丈夫だって」
「それは、良かったな」
店先では話しづらいので、場所を移動して先程までの出来事を掻い摘んで説明した。
「そうか。今年も盗賊のお宝は、置いて来たのか」
「そうだね」
父さんは、少し残念そうな顔をした。
「おい、ニコル。だからって、父さんが欲しかったとか勿体無いとか、そういう訳じゃないぞ」
父さんは、慌てて言い訳を始めた。
「父さん。僕は、何も言ってないからね」
「そ、そうだな。でも、今回も兵士達がお宝を持ち帰るんだろ。持ち主が現れなければ、全てこの領都の運営費に回されてしまうな」
「別にいいじゃない。今は、僕も稼げるようになったんだから」
「ふっ、どうやらニコルの方が、父さんよりずっと大人のようだな」
父さんは、笑いながら言った。どうやら、お宝の事は諦めがついたようだ。
「ところで父さん、買い物は済んだの?」
「いや、今年は何も買わなかった。必要な物は、ニコルから手に入るからな」
「そうだね。だいたいの日用品は、僕の錬金術で揃えられるね」
「ニコル、これからも頼むぞ」
「うん、任せて。それで、父さん。話しは違うんだけど、今度はパン工房を建てたいんだ」
「パン工房か。どうしてだ?」
エシャット村では、以前《ライ麦》で作った固い《黒パン》を食べていた。
ライ麦は痩せた土地でも育てられる村人用で、小麦は比較的良い土地で育てた人頭税用だった。
今は土地を改良して村人も小麦のパンを食べているが、《全粒粉》のパンなので幾分硬く茶色かった。
栄養面ではこちらの方がいいので、今までは黙っていた。
「王都で白パンを、食べたんだよね。この間の収穫際のパンより、もっと美味しいよ」
「白パン? そんなに美味しいのか?」
「食べてみる?」
「あるのか?」
「ほら、これ。《クロワッサン》っていうんだ」
僕は魔法袋からクロワッサンを取り出して、父さんに渡した。
「どれ、食べてみるか。もぐもぐ、何だこれは柔らかくて美味いぞ! 白パンとは、ここまでの物なのか?」
「気に入ったようだね」
「ああ、気に入った。パン工房を作ったら、毎日これが食べられるんだな」
「そういう事。ちなみに、僕の錬金術でも作れるよ。黙ってて、ごめんね」
「なっ、何ー!」
「詳しい話しは、また今度ね」
父さんは、パン工房の建設に乗り気になったようだ。
◇
翌日、宿で朝食を済ませ、エシャット村に帰る準備を整えた。
「ニコル、ずっと御者をさせて済まないな」
「慣れてるから、大丈夫だよ」
そう会話を交わすと、父さんは馬車の座席へ乗り込んだ。
「シャルロッテ。帰り道、また頼むぞ」
僕はそう言いながら、シャルロッテを撫でてやる。
「ヒヒーン!」
シャルロッテは、元気に頷いた。
「シロンは、また御者台でいいのか?」
「ニャー」
シロンは一鳴きしてから、御者台に駆け上がった。
僕も御者台に座り手綱を握って、シャルロッテに発進の合図をした。
「それじゃ、行こうか」
「ヒヒーン!」
馬車は動き出し、宿の駐車場を後にした。
馬車を走らせると、朝早いというのに兵士がそこらにたくさんいた。
「黒髪黒目の少年を、見た者はいないかー!」
「情報を提供した者には、褒美をやるぞー!」
兵士は、人を探しているようだ。
「あれ? 黒髪黒目って、昨日変装した僕と一緒だ。もしかして、僕を探してるのか?」
この国では、黒髪黒目の人間は少なかった。そういう訳で、かなり目立った。
◇
《その頃、領主邸では》
「聞き出した情報によると、盗賊を捕まえた人物とゴルド村の村長に魔法袋を渡した人物は、同じ黒髪黒目だ。まず、同一人物で間違いないだろう」
「しかし父上、我々の前に現れた時間とゴルド村の村長の前に現れた時間に、差が無いように感じます。そのような移動が、可能なのでしょうか?」
「それだけ、優れた手立ての持ち主なのだろう。盗賊の証言からも、おそらく単独行動」
「単独で十五人の盗賊を制圧し、洞窟の入り口に短時間で鉄格子を作り、高速の移動手段も持ち合わせている。そんな人材であれば、是非我がリートガルド伯爵家の家臣に招き入れたいですね」
「ああ。しかも、盗賊の金品には手を付けず、魔法袋と武器だけ持ち去った人徳のある者なのだろ」
「はい、その通りです」
「こやつが現れるのは、決まってこの時期。何か手掛かりが、あるはずだ」
「今朝討伐から帰って父上から話しを聞いて、休む間も無く兵士に聞き込みに行かせたのですが、見付かればいいですね」
「ああ。だが、去年までは仮面を被って、人目を避けてた節がある。今年になって、顔を晒したのが気になるな」
「どういう心境の変化ですかね?」
「ふっ、わしにも分からぬ」
この後、兵士達の聞き込みで、黒髪黒目の少年が見つかる事は無かった。




